同居するのは銀髪アイドルか幼馴染か?

 恋人になってほしいという志帆の言葉に、俺は仲裁どころではなくなった。


「こ、恋人!?」


「あ、いえ、もちろんフリです! 恋人のフリをしてほしいという話ですから!」


 志帆が慌ててぶんぶんと首を横に振る。

 な、なんだ……恋人のフリをするだけか。


 いや、それでも十分に問題がある。


 しかも、志帆は「に、兄さんが本当に彼氏彼女になりたいっていうなら、その……考えますけど……」なんて顔を赤くして志帆は言う。検討してくれるの……?


 いや、俺には葉月がいるから……振られたけど。


 俺は邪念を振り払った。


「えーと、志帆。俺と彼氏彼女のフリっていう案はやめておこうか」


「……どうしてですか? あたしなんかと付き合っているって思われるのはご迷惑ですか?」


 志帆がしょんぼりとした表情になり、不安そうに俺を見上げる。


「いや、志帆みたいな可愛い子が彼女だったら、すごく自慢できるとは思うけどね」


「か、可愛い、ですか……」


 志帆がほんのりと顔を赤くする。可愛いなんて百万回は言われているだろうから、俺に言われて照れる必要はないだろう。


「兄さんに言われると、嬉しいなって」


 ふふっと志帆が笑って言う。俺はどきりとさせられた。

 アイドルのそんな表情が俺にだけ向けられている。


 俺は冷静さを失いそうになるが、なんとか言うべきことを思い出した。


「そ、そっか。だけどさ、もし俺が志帆と彼氏彼女のフリをしたら、タイミング的にそれが原因で卒業したっていうふうに思われる」


「あっ……」


「志帆が不祥事で卒業した、みたいに思われるのは嫌だよ。俺もエトワール・サンドリヨンを応援していたんだから」


 卒業と同棲を同時に発表すれば、タイミング的に恋愛禁止のルールを破ったせいだと思われるだろう。現状では無期限活動休止中であって卒業したわけではないから、その意味でも問題だ。


「良い案だと思ったんですけど……残念」


 志帆は俺の言葉で、あっさりと自分の意見を引っ込めた。

 次は一宮さんだ。


「とりあえず、志帆のことは日を改めて話さない? ここで話し合っても平行線だと思うし」


 一宮さんも俺の言葉を少し考える様子で腕を組み、うなずいた


「そうね。ずっと押しかけたままだと小牧くんにも悪いし。でも……やっぱり、志帆と小牧くんが二人きりで生活するなんてダメだと思う」


「兄と一緒に暮らすことにどんな問題があるんですか?」


「女子高生が同い年の男の子と一緒に暮らすなんて、アイドルじゃなくてもダメでしょ」


「実菜は何を想像しているんですか? 妹が兄と変なことをするわけないじゃないですか」


「……志帆は小牧くんのこと、お兄さんとして見ているようには思えないんだけど」


「どういうことですか?」


「男の子って思ってる」


 一宮さんの言葉に、志帆は顔を赤くした。


「そんなことありません! 兄さんを男だなんて全然思っていないですから!」


「そ、それはそれで傷つくんだけど……」


 俺が冗談めかして言うと、志帆は慌てた様子で「いえ、そういう意味ではなくて……兄さんは男の人としてもかっこいいと思います!」と補足してくれる。


 一宮さんは肩をすくめた。


「怪しいなあ」


「実菜が想像するようなエッチなことなんてしません!」


「な……わ、私はエッチなことなんて想像してないわ!」


「それに兄さんはあたしに変なことをしたりしないです」


「どうかなあ。高校生の男の子なんて、頭の中はエッチなことで一杯でしょ?」


 失礼な。男子高校生を何だと思っているのか。

 いや、まあ、そういうことも考えないこともないし、興味がないわけでもないけどね。


 ともかく、一宮さんの言うことは正論だった。男女の高校生が二人きりで生活。世間体がよろしくない。

 志帆の母も反対しているようだし、


 とはいえ、俺は志帆にこの家にいてほしかった。まだ一日しか経っていないのに自分でも驚くけど、志帆は俺にとって必要な家族だと思っている。


 それなら、どうするべきか?


「二人暮しでなければいいわけか」


「え?」


「誰か大人か、そうでなくても第三者が一緒にいれば、一宮さんも安心だよね?」


「まあ、そうだけど……でも、ご両親はこの家に住むつもりはないんでしょう?」


 そのとおり。

 そうだとすれば、他に誰か探すしかない。


「わ、私が一緒に住むのはどう?」


 一宮さんが頬を赤くして提案する。

 俺はびっくりした。


「いいの? エロいことしか考えていない男子高校生がいるわけだけど……」


「……さっきの発言は謝るから。小牧くんがほんとにそんなことするとは思っていないし」


 一宮さんは銀色の髪の毛をいじりながら、目を伏せて言う。

 まあ、一宮さんなら、志帆のこともよく理解してくれているだろうけど、女子高生が一人増えて、男子高校生+女子高生×2はもっと不健全では?


「それに、実菜のお父さんやお母さんが納得しないですよ」


 志帆の言葉に、一宮さんは「あっ」という顔をした。俺や志帆と違って、一宮さんにはちゃんとした両親がいるようだし。


 大事な娘の女子高生がよその家で生活するなんて許さないだろう。

 だとすれば身近な人で探すしかないけれど――。


 そのときインターホンが鳴った。

 慌てて俺は応対に出る。


「こーう君! 今、いい?」


 幼馴染の葉月がふたたび玄関前に来ていた。






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