初めて一緒にお料理?

「冷やし飴っていうんだけど、聞いたことある?」


 志帆と一宮さんは顔を見合わせてから、首を横に振った。

 まあ東京ではそれほど有名な飲み物ではないから知らなくてもおかしくない。


「水飴を煮たものを、冷たい水で割った飲み物なんだよ。関西では昔からよく飲まれている飲み物らしくて」


「変わった色ですよね。綺麗……」


 志帆が琥珀色の飲み物を眺めながら、つぶやく。


「麦芽水飴っていう水飴を使っているから、その色の影響なんだよ」


 麦芽水飴はふつうの料理に使うものではない。なので、冷やし飴を作るために大きめのスーパーにわざわざ買いに行った。


 一宮さんが待ちきれないという様子でうずうずとしている。


「ね? ね? 飲んでみてもいい?」

 

「もちろん。そのために出したんだから」


「ありがと!」


 一宮さんが口をつけて、冷やし飴を飲む。

 そして、びっくりした顔をする。


「……っ! 美味しい! でも、甘いだけの味じゃないのね」

 

 志帆も「いただきます」と小さくつぶやいて、コップに口をつける。いつものような食前の祈りをしないのは、一宮さんの前だからなのか、それともおやつだからなのだろうか。


 志帆も同じように驚いてこくこくとうなずく。


「不思議な味がします。少しスパイシーで、どこか優しいような……これってもしかして生姜ですか?」


「そのとおり。生姜を一緒に煮てるんだよ」


「だから爽やかな味がするんですね。冷たくって飲みやすいです!」


 へえー、と志帆と一宮さんはうんうんとうなずく。そしてごくごくと飲んでいた。

 ふたりとも口にあったみたいで良かった。


 少し変わった味ではあるからだ。ただ、なかなか美味しい飲み物で夏にはぴったりだから、気に入って作っている。


 二人は一瞬で冷やし飴を飲み終わると、「ごちそうさまでした」と言い、満足そうな表情を浮かべた。

 暑い夏で、帰ってくるまでに疲れただろうから甘い飲みものを体が求めていたんだろう。


「あれ? 小牧くんの分は? 飲まないの?」


 一宮さんが俺が手持ち無沙汰にしているのを見て、小首をかしげる。

 銀色の髪がさらりと揺れた。


「ああ、えっと、ちょうど残っていたのが二人分だったんだよね」


 冷やし飴の原液は一度作ればしばらく取っておける。

 数日前に作ったものが二杯あったので、志帆と一緒に飲むつもりだったのだ。


 ただ、一宮さんがお客さんとして来たから、俺の分を彼女に振る舞ったわけで。

 一宮さんがうろたえた顔になる。


「え!? ご、ごめんなさい」


「いいよ、気にしなくて」


「でも、楽しみにしてたんじゃない? こんなに美味しいんだもん」


 まあ楽しみにしていたといえばそうなのだけれど、一宮さんが喜んで飲んでくれるなら、その方が大事だ。

 自分が作ったものを、別の誰かが楽しんでくれるのはとても嬉しいことだから。


「冷やし飴はすぐに作れるから、問題ないよ。後で明日以降の分も作るし」


 俺がそう言うと、志帆が真紅の瞳でじっと俺を見つめた。

 ど、どうしたのだろう……?


「ねえ、兄さん。お願いがあります」


「な、なに?」


「そ、その……もしよかったらなんですけど、冷やし飴を作るところを見てみたいんです!」


「え? そ、そんなこと?」


「はい。トンテキのときも豆乳スープのときも兄さんが作るところを見ていて、その、楽しかったですから」


 志帆がちょっと頬を赤く染める。

 べつにそのぐらい全然良いけど……俺が料理をしているところなんて、見ていて楽しいかな……?


「ね? 私も見ていっていい?」


 一宮さんが微笑んで横から言う。断る理由もない。

 志帆はなぜかむうっと頬を膨らませているけれど……。


 そのまま、俺たちはキッチンへと向かった。

 手を洗って、冷蔵庫から材料を取り出す。


 そして、皮むき器で皮を剥いた生姜を乱切りにしていく。

 一宮さんが不思議そうな顔で口をはさむ。


「生姜って皮をむくの……?」


 志帆は何が不思議かわからないという顔をしていた。一宮さんの方が料理の知識はあるのかもしれない。


「一般的な料理で言えば、皮をむかない方が栄養は高いから、そうすることが多いんじゃないかな。生姜の味もわかりやすくなるし」


「私もそうだと思ってたの。でも、何か理由があるのね?」


「そうそう。皮付きだと冷やし飴には生姜の風味が強くなりすぎるから、マイルドにしたくて。それと皮がない方が見栄えもいいんだよね」


 話しているうちに俺は生姜の皮をむき終わる。


「ね? 兄さん。なにか手伝うことあります?」


 志帆は俺と一宮さんが会話しているのが不満だったのか、対抗心を燃やすようにそう申し出た。


 なんとなく、この申し出を断ると志帆がさらに不機嫌になりそうだ。


「えっと……じゃあ、生姜をすりおろしてくれる?」


「はい!」


 志帆は明るい顔でうなずいた。


 手を洗った志帆に、生姜とおろし金を渡す。


「えーと」


 志帆が困ったようにしている。まったく料理はしたことがないんだろう。


「おろし金のこっちの面を使って、前後に動かすと生姜がすり潰されるから」


「は、はい!」

 

「繊維に対して直角にすりおろすのがコツなんだよ」


 繊維を残さずすりつぶすためだ。

 おろし金は以前、間違って二つ買ったのでもう一つある。


 俺はそれですりおろすのを実演し、志帆はそれを真似て一生懸命に生姜をすりおろしていく。


 一宮さんがそんな俺たちを羨ましそうに見ていた。


「本当の兄妹みたいね」


「みたい、じゃなくて本当に兄妹なんです」


 志帆がふふっと笑って、ちょっと恥ずかしそうに言った。








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