第四膳 冷やし飴
銀髪碧眼のアイドルが、家に押しかけてくる
放課後、渋谷駅から少し離れたマンションに帰る。学校からマンションまでは大した距離もないのに、夏の暑さのせいで服がベタベタだ。
さっさとシャワーを浴びて、おやつでも食べてダラダラしよう……。
そう考えていたら、オートロックの玄関前に制服姿の女子がうろうろとしていることに気づく。
しかも、うちの学校の制服だ。俺と志帆、葉月以外にも、このマンションには何人か同じ学校の生徒が住んでいる。
ただ、その子はこのマンションの住人ではなかった。
彼女が俺を振り返る。アイドルのように可憐な顔に不安そうな表情を浮かべていた。
事実、その子はアイドルなんだけれど。
「一宮さん?」
俺が声をかけると、その少女はほっとしたように微笑む。
「良かった。ここで合ってたのね」
一宮実菜。志帆がいたアイドルグループ『エトワール・サンドリヨン』の人気メンバーだ。
普段とは違うウィッグをかぶったり、眼鏡をかけたりして変装しているけれど、昼間に会ったばかりなのでよく見ればわかった。
「残念だけど、ここはイベント会場とかではないよ……?」
「知ってるわよ! 志帆の家……あなたの家を探して来たんだから」
まあ、そんな気はしていたけれど。
たぶん志帆から家の場所を聞いたわけじゃないだろう。俺が情報源を尋ねると、一宮さんはふふっと笑った。
「私も芸能人なんだから、いろいろ手はあるの」
やっていることは普通にストーカーではないかと思ったが、とりあえず口には出さない。
それより、周囲の目が心配だ。
「まさかと思うけど、一人で来たの?」
「そうだとしたら、何か問題?」
大いに問題あり、だ。志帆ほどではないとはいえ、一宮さんも大人気アイドルなんだから、危険な目にあったりする可能性だってある。
歌手志望の女子高生が滅多刺しにされて、重体になった事件も最近あったのだから、なおさら。
しかも、不用意にマンションを訪れるなんて、写真でも撮られたら誤解されてスキャンダルになりかねない。
俺がそう言うと、一宮さんは意外そうに目を見開いた。
「心配してくれるんだ?」
「俺もエトワール・サンドリヨンのことは好きだし、一宮さんのことだって応援しているからね」
「ふうん……ありがと」
一宮さんはちょっと照れたように顔を赤くした。
「マネージャとかと一緒に来るわけにはいかなかったの。用件が用件だから……」
「志帆を連れ戻しに来た?」
こくりと一宮さんはうなずいた。学校では志帆を上手く説得できなかったから、家にまで押しかけてきたということだろう。
「ね。お願い、小牧くんは志帆のお兄さんなんでしょう? エトワール・サンドリヨンに戻ってくるように小牧くんからも志帆に説得して!」
「ごめん。それは志帆が決めることだと思うから」
俺は昨日兄になったばかりの人間だ。
志帆の母である女優のレティ・ポートマンも志帆にアイドル活動を続けさせたいらしいが、志帆を説得できていないようだし。俺ではなおさらダメだろう。
けれど、一宮さんは首を横に振った。
「あの子、小牧くんに懐いていると思うし」
「懐いているって、そんな犬みたいな……」
「犬、というより猫かな。あの子、気に入った相手じゃないと、警戒して何も話さなくなるから」
「へえ……」
「それが男の子なら、なおさらね。昨日知り合ったばかりなのよね?」
「俺はテレビで志帆のことは何度も見ていたけど、志帆は俺のことを知らなかったと思うよ」
「それにしては志帆、小牧くんに心を許しているみたいだし。本当に昨日が志帆と初対面?」
そのはず、だと思う。大人気アイドルと接点なんてあるはずがない。
もし羽城志帆と会ったことがあるなら、少なくとも俺は記憶しているはずだ。
ただ、一つ引っかかることがあった。志帆は初めて会ったときから、俺の「妹」だと言っていた。
同い年なのだから、なぜ「姉」ではなかったのだろう? 志帆は兄妹なのか姉弟なのか確認しようともしなかった。
つまり、自分の誕生日が俺より遅いと志帆は知っていたことになる。レティさんに聞いたのだろうか?
「小牧くんって、あの帝都急行電鉄の社長の息子なんでしょう?」
「俺のことなんて調べなくてもいいのに」
「志帆のお兄さんだから、気になっちゃった。それなら、帝急のパーティとかで志帆と会ったとか?」
「どうかなあ……?」
たしかにその可能性はゼロではないけど。志帆が有名になる前のことだったら、ありうるかもしれない。
そういえば、志帆の母は有名女優だけれど、羽城家というのはどういう家なんだろう? つまり、志帆の父は何者なのか? 雑誌記事やテレビでも言及はない。
財界の有力者なら、帝急のパーティに出ていてもおかしくない。
あとで調べてみよう。
「それより、悪いけど志帆はしばらく帰ってこないよ。用事があるから」
「なら、待つわ。志帆を説得するまで、私はここから帰らないから」
「いや、だいぶ待つし……帰った方が良いと思うよ。駅まで送っていくから」
俺はそう申し出る。アイドルに一人で行動されては危なかしくって仕方がない。
けれど、一宮さんは首を縦に振らなかった。
「絶対、ここから動かないんだから!」
もうけっこう待っていたのか、一宮さんの顔は暑さのせいで真っ赤だった。
だいぶ汗もかいているみたいで、制服のブラウスがうっすらと透けている。
俺は一瞬どきりとするが、それより彼女が熱中症になるのではないかと心配になった。
このままエントランス前で待たせておいて、倒れられたら困るなあ……。
そもそも志帆の客なのだから、俺が強引に追い返す権利もない。
俺は遠慮がちに口を開く。
「なら、部屋に上がって待つ? 冷たい飲み物もあるし」
俺の提案に一宮さんは驚いた様子で、青い瞳で俺をじっと見つめた。
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