第44話 女神様を食ーべちゃうぞー
花散ウータは命を落として、代わりに一柱の邪神が目を覚ました。
不死なる時空神、大いなる旧き支配者の復活により、その世界に生きる人間達の命は風前の灯火。
ありとあらゆる命が塵となる。
そんな暗黒時代が到来したのであった。
「なんちゃってね」
塵となった火の女神フレアに足跡をつけて、ウータはのんびりと両手を天井に向けて伸ばした。
「ふいー、久しぶりに邪神ってたから疲れたよー。帰って甘い物を食べたいね」
一度は邪神として覚醒したはずのウータであったが……すでに人間、花散ウータの姿に戻っていた。
本来、ウータという器を破って邪神として覚醒してしまえば、もう二度と人間には戻れないはずである。そう思っていた。
しかし、ウータは人間として生き返っていた。
その理由はウータの手に握られている赤い水晶玉である。
「女神フレアの命。神としての核。これのおかげで復活することができたよー」
その赤い水晶は女神フレアの核だった。
フレアを塵にしたことで入手することができたのだ。
火というのは破壊の象徴であると同時に、再生や復活を象徴する存在でもある。
実際、フレアから加護を与えられた『黒の火』はウータに塵にされながらも、生き返っていた。
ウータはフレアの核に込められた力を使って己の身体を再構築して、再び人間として受肉することに成功したのである。
「これにて、一件落着……なんてね」
ウータはご機嫌な様子で手の中の水晶を弄ぶ。
この水晶さえあれば、女神フレアを蘇らせることもできるだろう。
だが……もちろん、そんなことはしない。
ウータは大きく口を開けて、水晶玉を口に放り込んだ。
「もぐもぐ、ばりばり、むしゃむしゃ……」
音を立てて噛み砕くと、口の中から「ギャアアアアアアアアッ!」と絶叫が聞こえてくる。
そんなものは無視して飲み込むと、フレアの神力が完全にウータに吸収された。
「うん、いいね。スパイシーチキンの風味」
満足げに頷くウータであったが……その肉体、邪神ではなく『花散ウータ』としての身体が大きく強化されていた。
フレアの力を取り込んで器を補強することで、肉体強度を飛躍的に向上させたのである。
「こうやって身体を強くしていけば、ウータのままで邪神の力を百パーセント使うことができそうだね」
本来のウータは不死なる時空神。
あらゆる世界の壁を越えて降臨し、ありとあらゆる物質に時間の負荷を与えて塵に変えることができる能力があった。
しかし、人間の器に入った状態ではその力を一割も使えない。
本来の力があれば、幼馴染を連れて元の世界に帰ることも簡単だったのに……とても歯がゆい思いをしていた。
だが、今回のことで元の世界に戻る方法が見えてきた。
フレアのような神を捕食することで『器』を強化して、ウータのままでも邪神の力を行使できるようになればいいのだ。
「六大神だったけ?」
火の女神フレア。
風の女神エア。
土の女神アース。
水の女神マリン。
光の女神ライト。
闇の女神ダーク。
それら全てを食べて器の力を強化すれば、ウータは完全な力を取り戻すことができるはず。
時空を超えて日本に戻り、幼馴染達を助けられる。
「目標が決まったね。この世界の女神様……全員、食べちゃうよ!」
ウータはまるで晩御飯のおかずでも決めたような気軽さで、そんなことを宣言した。
フレアが欠けて、残り五柱となった六大神。
彼女達はまだ知らない。
自分達の命を狙う、自分達を捕食しようとしている天敵が生まれてしまったことに。
もしもフレアがウータを倒して、すぐに他の神に報告していたのであれば……あるいは、どうにかなったのかもしれないのに。
天敵の存在に彼女達はいまだ気がついていなかった。
花散ウータというプレデターの存在を知らないまま、女神達は世界のどこかで『魔王狩り』などというくだらない遊戯に興じているのであった。
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