第45話 雉が鳴いたから撃つよ

「ただいまー」


「あ、ウータさん! どこに行ってたんですか!?」


 ウータが魔法都市オールデン、その城壁前まで戻ってきた。

 すでに戦いは終了しており、戦いの後の後始末が行われているところだった。


「ちょっとそこまでね」


「そこまでって……もう、勝手なんですから」


 ステラが怒りながらも、どこか安堵したように胸に手を当てる。

『火の神殿』と魔法都市との戦いであったが……終わってみたら、魔法都市の圧勝という形で幕を下ろした。

 戦いの始まりこそ『火の神殿』の不意打ちにより、魔法都市の城壁の一部が破壊。そこを守っていた兵士が大勢命を落としてしまった。

 しかし、駆けつけたウータが『フレアの御手』の『橙』と『紫』を瞬殺。指揮官である『黒』が転移によって逃走してしまい、神殿側の軍隊は瓦解。

 一部の狂信者が死ぬまで戦いはしたが、多くの僧兵は武器を捨てて投降していた。


「それで……その人、誰だっけ?」


「誰かー、助けてくれー」


 ステラすぐ傍には、縄で縛られた男が転がっている。

 三十前後の男性で精悍な顔立ちをした彼は『青の火』、『フレアの御手』の最後の一人だった。


「……私の元・同僚です。あっさり降参して捕まってくれました」


 ステラが縛られている男を見下ろして、溜息を吐く。

 影からの不意打ちでステラを殺害しようとした『青の火』であったが、『賢者の塔』のリーダーである朽葉の介入により失敗している。

 その後、ステラと朽葉の二人と戦うことになった『青の火』であったが……自分の不利を見るや、あっさりと戦いを放棄して降伏した。


「……昔から、何を考えているのかわからない人でした。今もですけど」


「おいおい、ステラちゃーん。そりゃあねえぜ。昔の仲間なんだから仲良くしよーぜー」


「…………」


 ステラが不愉快そうに『青の火』から視線を背けた。

 よくわからないが……神殿側に捕虜がいるのは都合がいい。

 ウータは『青の火』の傍にしゃがみこんで、聞きたいことを聞くことにする。


「ねえねえ、お兄さん。六大神ってどこにいるのか知ってる?」


「あん? なんだよ、急に」


「ちょっと色々あってさ。その人達に会いたいんだけど……どこに行ったら会えるのかな?」


「……ウチの大将、女神フレアだったら、シャイターン王国の大神殿にいるぜ」


「その人はもういいよ。他の人」


「…………」


『青の火』が一瞬だけ目を細めるが、ウータは男の変化に気がつかない。


「……ここから一番近いのは西の隣国であるウォーターランド王国だ。水の女神マリンを祀っている神殿がある」


「ウォーターランド王国に水の女神……うん、わかりやすくて良いね」


「今から二週間後、ウォーターランド王国の王都で女神を祀る祭りがある。そこに顔を見せるはずだ」


「なるほどねー。ありがとう、助かったよ」


「俺からも質問、いいかい?」


「何かな?」


 ウータが首を傾げると……『青の火』がニチャリと唇を歪めて問う。


「お前……女神フレアを殺しただろ?」


「え……?」


 驚きの声を発したのは、近くで会話を聞いていたステラである。

 目を見開いて、ウータの顔を見た。


「うん、殺したよー。どうしてわかったのかな?」


 ウータが何でもないことのように答えた。

 あっけらかんとして明かされた事実に『青の火』が「マジかよ……」と表情を歪める。


「何だい、そのリアクションは。知ってたんじゃないのかな?」


「……カマをかけただけだったんだがな。まさか本当に女神を殺っちまったなんて思わなかった」


『青の火』が上半身のばねを使って、縛られたまま起き上がる。


「俺の身体に宿っていたはずの女神の加護が消えた……何かあったんだろうとは思っていたが、まさか本当にフレアが死んだのか。どうやって殺したんだ?」


「塵にしただけだよ。いつもとおんなじ」


「同じねえ……ちなみに、アンタの名前は?」


「ウータだよ。花散ウータ。『無職』じゃなくて学生ね」


「黒髪黒目、賢者ユキナと似た容姿だな。ファーブニル王国が勇者召喚を行っているはずだが……もしかして、お前も異世界から召喚された人間なのか?」


「ちょっと待ってください、どうしてそんな質問をしてくるんですか?」


 ステラが二人の間に割って入ってくる。


「まるで情報収集をするみたいに……いったい、何を企んでいるんですか?」


「何を……ねえ。まあ、こういうこって」


「えっ……!?」


 シュルリと縄が一瞬で解ける。

 拘束から逃れた『青の火』が飛び跳ねて足元の影に潜り込んだ。


「そんな……! そのロープには魔法無効化をかけておいたのに……!」


『縄抜けは魔法じゃない。ただの特技だよ』


「ッ……!」


 影の中から『青の火』の声が聞こえてくる。

 しかし、影の世界には手を出せない。仮に魔法無効化を使用したとしても手遅れだろう。


『女神を殺すことができる人間……高く売れそうな情報だぜ。いつでも縄抜け出来たのに、あえて逃げずにとどまった甲斐があった!』


「クッ……まさか……!」


『この情報は他の神殿に売らせてもらうぜ……じゃあな、また会おう!』


「えいっ」


 影に潜んだまま逃げようとする『青の火』であったが……ウータが影の中に手を突っ込んで、猫のように首の後ろを掴んで引っ張り出す。


「へ……?」


「あ、出てきた」


「なあっ!? いや、嘘だろ!? 影の世界には誰も干渉することはできない! 女神フレアでさえ手出しできない亜空間のはずなのに……!」


「いや、ちょっと何言ってるのかわからない」


「待て待てっ! さっきのは悪かった。俺も調子に乗ってたというか誤解を……」


 ウータが力を発動させる。

『青の火』が塵になり、地面に散らばった。


「……あのまま、大人しく掴まっていれば良かったのに」


 ステラが同情した様子でつぶやいた。

 逃げなければ、あるいは『情報を流す』とか負け惜しみのようなことを口にしなければ、殺されることもなかったものを。


 雉も鳴かずば撃たれまい。

 調子に乗ったおしゃべり男の末路である。






――――――――――

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