第41話 女神様はエロ面倒臭いよ
「おのれ……あの男、異教徒めが……!」
南方。シャイターン王国にある『火の神殿』の総本山にて。
床にうずくまり、『黒の火』が怨嗟の声を吐いた。
「聞いていないぞ……あんな怪物がいるだなんて……!」
『黒の火』の脳裏には花散ウータという少年の顔が浮かんでいる。
女神フレアの話では、ウータは異世界の神の加護を授かっている可能性があるとのこと。
しかし、『黒の火』にはとてもそうは思えない。
「加護? 祝福? 違う。アレはそんな次元ではない……! 神の力を授かっているだけの人間があれほどの力を持っているものか……!」
話が違う……『黒の火』が譫言のように何度もつぶやいた。
直接、戦ったからこそ理解できる。
ウータの持っている力は神の加護などではない。
そもそも、加護だったら『黒の火』を始めとした『フレアの御手』……数合わせの『白の火』を除いた全員が所持しているのだ。
同じように神の加護を持っているのであれば、そう簡単に負けるわけがない。
「あの力……圧倒的なプレッシャーは、まるで……!」
「まるで……何かしらあ?」
「ッ……!」
顔を上げると……そこには『黒の火』がもっとも敬い、同時に恐れている人物がいた。
「女神フレア……」
「どうして貴方がここにいるのかしら。魔法都市を殲滅しに行ったんじゃなかったの?」
「それは……」
「まさかと思うけど……転移で逃げ帰ってきたんじゃないわよね。私の命令を無視して」
「…………!」
『黒の火』の全身の鳥肌が立つ。
まさかその通りだと口にすることもできず、両手を床について頭を下げる。
「……至急、女神フレアに報告するべきことがあって戻って参りました」
「聞いてあげるわ。いいなさい」
「花散ウータ……勇者召喚に紛れ込んだ『無職』の異世界人ですが、あの少年は人間ではありません。おそらく、人の形をした神魔の類かと存じます……!」
『黒の火』がローブの下で脂汗を流しながら、頭をフル回転させながら言葉を紡ぐ。
「へえ?」
「我ら『フレアの御手』の手には余る存在であり、場合によっては他の神殿の手を借りて全力で対処しなければいけない相手です……そのことをお伝えするべく、こうして帰参してまいりました……!」
嘘ではない。
仮に『フレアの御手』の七人全員が存命していたとしても、花散ウータという少年を殺せたとは思えなかった。
六大神が直々に親征して誅殺をするか、『火』以外の他の神殿の戦力を借りる必要があるだろう。
「ああ……なるほど。そういうことね。だったら仕方がないわよねえ」
「は、はい……!」
許された。
安堵が『黒の火』の胸中に芽生える。
しかし、女神フレアの次のセリフによって背筋が凍る。
「だから、腕だけで許してあげるわ」
「ヒギッ……!」
激痛が走る。左右両側から。
『黒の火』の両腕が肩から千切れており、フレアの手の中に移動していたのだ。
「う……ああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
堪えきれない痛みに襲われ、『黒の火』がうずくまって絶叫する。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い……大量の血液が流れ落ちて床に広がっていく。
「私は『花散ウータを殺せ』『オールデンを滅ぼせ』と命令したのよお。どんな理由があったにせよ、命令違反にはペナルティを与えなくっちゃ」
痛みに悶絶する『黒の火』を見下ろして、フレアが真っ赤なルージュで彩られた唇を限界まで開く。
白く鋭い八重歯で『黒の火』の両腕をガツガツと噛み砕いて、肉の欠片も残すことなく嚥下した。
「良かったわねえ、顔が残って。貴方の顔は私のお気に入りなのよ。だから残しておいてあげたの。私ってば本当にお人好しよねえ?」
「アアアア……ぐううううう……」
『黒の火』が痛みを堪えてどうにか身体を起こして、深く頷いた。
「や……やさしゅう、ございます……女神フレアの、御慈悲に……感謝を……」
「そう。私は慈悲深いのよお。だから、止血もしてあげるわあ」
「グウッ……!」
真っ赤な炎が肩の切断面を焼いて出血が止まる。
またしても激痛に襲われるが……今度はどうにか、絶叫を堪えることができた。
そんな反応に満足そうに頷いて、フレアがニタリと唇を吊り上げる。
「さて……それじゃあ、その男への対処を考えましょお。異界からやってきた異物、神魔の類なんて面倒だし、いっそお父様に丸投げをして……」
「うっわ……生臭い。何この部屋」
「…………あ?」
フレアが眉をひそめた。
『黒の火』が驚いて、首を背後に巡らせる。
「掃除くらいしなよ。床、真っ赤っかだよ?」
暢気な口調でそんなことを言いながら……『火の神殿』の総本山、女神フレアの御許にウータが現れたのであった。
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