第4話 猛者のプライベート

紐で結ばれた新種のサンプルを引きずりながら、魔方陣に入る。

此度は少々、アクシデントが多かった。

しかし、一応ではあるが、実りもあり良き戦果も上げることが出来たので、


その後の報酬や楽しみを考えると気分は最高潮である。


アクシデントで少々太腿に裂傷を作ってしまったが、医療部のエースによって、後遺症も痛みもなく痺れもなく速やかに前線復帰したので問題なしである!


現場では、骨が見えてるえぐいえぐい等、初々しい反応が辺り一面に響き渡っていたのであるが、

新人達に現場の怖さを理解してもらえたようで、それもまた良き成果である。


魔方陣を出てから胸を張ってふんぞり返っていると「ぁのぅベテランさーん?」ガンガンと吾輩の鎧を叩く不届き者が居るのである。


どうやってとっちめてやろうかと悩んでいると


「気がついてる癖に無視するのは良くないですよ、また、通過儀礼というやつですか?天丼ってやつですか?あちきにはよくわかんないです。どうして毎回毎回…」

む、声が小さくなってきたな、早めに声をかけてやるとしますか


「良き獲物を得た時くらい、構ってくれてもよかろう?」

後ろでガンガンと吾輩の家宝である鎧を叩いている不届き者に声をかけると


「様式美ってやつですかぁ?あちき、そういうのわかんないですよ、早く成果を渡してほしいですよ」少し頬を膨らませて凄んでいる。


悪戯心を掻き立てる仕草をするのがいけないのである。

吾輩もいい年になったので、こういうのは下の者に示しが付かないのはわかっているのだが

習慣というやつは、なかなかに、修正が効かぬものであるなぁ、年は取りたくないものだ


何とも言えない表情で佇んでいると「今回のは、、、ぉぉぅ!?初めて見るやつだぁっ!?なぁに、これぇ・・・」紐に結ばれし獲物を興味深そうに眼を輝かせながら見ている。


こやつは、敵を解体、解剖、分析する為の研究塔にいる一研究員であるのと、同時に、吾輩の姪っ子でもある、なので、こやつと相対すると如何せん、童の時と同様についつい扱ってしまうのは如何なものかと思っているのだが、長年染みついた癖というのは抜けぬものである。


「珍しかろう、鼻先にというか鼻上というべきか、そんな所に鋭く硬い角があってな、下から上へと突き上げるように突進してきてな、不意を喰らい太腿をもっていかれた」

パシパシとえぐられた太腿を叩いていると青ざめた顔でこちらを見ている、相変わらず、スプラッタな話題は苦手のご様子で、敵を解体するのは喜々としているのに。


人が対象だとダメというのが不思議でならんな。

優しき子なのか、さいこなぱすってやつなのか、叔父さんにはわからぬなぁ。


一通り観察を終えたのか、上目遣いでこちらを見ている、うむ、どうやら、ファーストインプレッションというやつは終わったのであるか?

嗚呼、初対面、好奇心満たされる乙女の心、、、、なんか違うな、まぁよいよい。


「何時もの様に研究塔に、これらを運べばよいか?」よいしょっと掛け声と共に、獲物を持ち上げては運ぶための手押し押し車に獲物を放り込んでいく、


「ぅぁ!だ、だいじょうぶだよぉおじー!ぁとはこっちでやるよぉ、おじーは休憩しなよー」

む、確かにベテランなんて呼ばれている人が雑用などを押し付けられているように見えるのは、

研究塔にとっては悪印象となるか?


「む、すまない、ついつい」子供扱いをしてしまったのである。


しかし、誰も手伝いに来る様子は皆無、姪っ子は学者一筋で力なんてないのである、

下手をすると参考書よりも重い物を持ったことがないのでは?そんな風に思ってしまうくらい非力でヒョロヒョロである、飯を食えと言いたくなるが言い過ぎると頬を膨らませるので言えぬのである。


学院を飛び級で卒業し、研究塔に配属されてからもう一年も経つのであるが、研究塔の中ではまだまだ、一番の若輩者である姪っ子は立場が弱いのである。


であれば「助けもこん、なれば力を貸そうぞ弱気者よ」ゴンゴンと鈍い音がする、ついつい癖で頭を撫でようとしたが、固い音がするのである。


「手甲つけたまま頭障るの禁止!」うがーという奇声と共に本で手を叩かれてしまった。

ああ、いかんいかん、いつもの癖で頭を撫でようとしてしまったが、しっかりと、ハードカバーな本で防御してくれたか、良かったよかった、、、


しかし、あのハードカバー見覚えがあるぞ、ここに配属されて一年記念でおねだりされて、買ってやった珠玉の一品ではないか?、、、肌身離さず持っているのは嬉しいような、吾輩の攻撃をガードする為に持ち歩いているのであれば、何とも言えぬ気持になるのである。


「ここに来て一年!あちきだってもう14!14で見渡す敵をばったばったとなぎ倒していた一族の血筋!あちきだってこれくらいぃぃぃぃぃぃ!!!!」

手押し車を必死に押そうとするが、ピクリとも動かぬ、手押し車二輪とは手前を持ち上げて押して動かすものである、手前を浮かせずに押しても非力な者では、動かぬが道理


「手前を持ち上げてみよ」言葉にはっとした顔の後、自身の足の力と腕力で持ち上げようとするが、持ち上げるのは顎ばかり、空を見上げるだけでは手押し車は浮はせんぞ?


何度か奇声を上げながらチャレンジをするが浮く気配は無かった情けない顔でこちらを見るでない、


やれやれ「ほれ、出発じゃー」押し車を姪っ子ごと押していく。

うきゃ~と嬉しそうな声を出すと、また周りから子ども扱いされてふくれっ面になってしまうぞ。


色恋でもすれば、多少は大人になるのかのぅ、周りが甘やかすから、子供じみているのか、それとも、研究一筋でずっと、人と関わってこなかったから精神年齢が、追いついていないのか、それとも、追いついていても、それが楽だから、そうしているのか、乙女心&子供心に姪っ子は賢いからわからぬものである。


研究塔に運び込むと誰も居る様子が無かった、成程、助けにこんのではなく、皆、出払っているタイミングであったか。

「皆はどうした?」研究塔に誰も居ないのはかなり稀なのである。

何か突発的な緊急事態でも吾輩が知らない間に起きていたのか?


「うん、どうしてかわからないんだけどぉ姫様の術式がね?見破られちゃってそれの対策と現場検証でみんなでてるの」そういえば、そんな事が起こっていると小耳にはさんでいたであるなぁ。


前線で戦いに明け暮れていると後方で起きた事件に気が付かないことも多々ある、だが、此度は、医療班がいる場所で全身甲冑の吾輩でも気が付くほどの轟音が鳴り響いたのでさすがに、緊急事態?応援必要か?二本足が出てきたか?と伝令部隊に緊急で音波を飛ばしたものである。


医療班がカウンターで殲滅による轟音、被害は無し、任務継続されたしという、返事が返ってきたので何も心配しておらなんだが。


それは、兵士の立場であって、研究員、術式開発部門の連中からすると、姫様の術式が破られたのであれば非常事態であるなぁ。


誰も居ないのは納得である。


姪っ子に指示の下、てきぱきと運んできたサンプル達を配置していく、今回は、〆てあるので、物質保存の術式が起動している台座に置くだけだから楽ではある。


生け捕りのサンプルだと、麻酔や、鎮静剤をどれくらい使用し、使用してから何分経過したのかだの、どの部位に打ち込んだのかだの書類も全部書かないといけないのが


非常に煩わしいのである!!


此度は突発的な邂逅であり、よりによって学徒上がりの初戦場組も居たので生け捕りはせずに〆たのだが、これに再度、邂逅した時は生け捕りせよという塔の主からの勅命(膨大な報奨金で頬を叩かれながら)が飛んできそうな予感がするのである。


皮膚も大部分が硬質で、機動力もある、力も申し分なし、一度のミスで軽く死者が出かねる相手である、故に、捕獲するのは非常に困難であり、それが出来るのが吾輩とあと数名といったところであるなぁ、、、麻酔を打つとしても皮膚が硬くて針が通らなさそうであるなぁ、、、


まじまじと、新顔の躯を眺めていると「おじー、大丈夫だよー新しい奴の捕獲任務は、目撃数が伸びて、なおかつー急遽、対策が必要な敵じゃないとそうそうないよー」

こんな突進馬鹿なんて、生け捕りいらな~い、いらな~いっと言いながら部屋の奥に引っ込んでいく。姪っ子は賢いな、ある程度見ただけで大体の特徴を見抜けることが出来る。


むぅ、確かに、厄介な毒、または新種の毒があるわけでもなし、ただの猪突猛進タイプであれば、今まで良く殲滅してきた猪共と変わらぬか、皮膚が硬いのか、固い毛に覆われている違いといえばそれくらいだな。


それに、硬い皮膚と皮膚の間に刃の通るくらいの隙間があり、そこに刃を入れれば綺麗に刃は刺さる、槍などがあれば、左右からも攻めようがある。対策は非常に容易であり脅威ではない。


脅威ではないのであるが、ここ最近、新種を発見するスパンが早い気がするのである。


一抹の不安がもやっと思考に纏わりついてくる、野生の勘、または、激戦を生き抜いた勘、そのどちらかが、警告を出してるような気がしてならない。


ほんの小さな予兆なのか、ただの杞憂なのか、こういった類の予感はほぼほぼ、外れるのであるが、、、ぅぅむ。


両腕を組み、眉間に皺をよせ、仁王立ちで立ち尽くす。今この瞬間を誰かに見られていたら確実に怖い人としか思えぬであろう。


ガンガンと吾輩の後ろから音がする?うむ、吾輩の家宝が何者かに叩かれておるな「おじー?どしたー?」音がする方向から姪っ子の声がする。


うむ、少々、考え込んでしまっていたようである。

研究塔のど真ん中で仁王立ちする全身甲冑の漢、誰が何と言おうとこの光景は怖いと吾輩でも思う。


「すまない、少々疲れが出てしまったようである」姪っ子に心配をかけるのはよろしくないのである。

ふむ、先の言い訳は姪っ子も納得していないご様子であるな、あんた嘘ついてるでしょ?という疑惑の視線を吾輩に向けないで欲しいのである、疲れているのは事実であるのに、、、

「いや、何、こやつに打ち抜かれたあの状況を思い起こしていてな、次回の訓練に組み込もうかと脳内でしゅみれーとしていたのだ」

さらに、姪っ子の顔から疑惑の視線が強くなっている気がするである

「おじーがなんか難しいこと言ってる」


…姪っ子よ、その一言はおじーとはいえ、少々、傷つくであるぞ?

おじーだってちゃんと考えているのである。

これから先の事を長年ずっと考えて考えて、思考することを続けているのである。


「はい!おじー!これ!」ぴょんぴょんと目の前で小さくジャンプする姪っ子の手には書類が握られていた、搬入完了の書類だろう書類を受け取り内容を確認する

中身の確認を終え、特に不備も見当たらない「うむ、これにて完了だな」さて、これにて今日の仕事は終わりである、ここからはしっかりと休養を取らねば。プライベートの時間だぁ、、、


出かけるとするであるか!色街に!!


シリアスなのは仕事中のみでよい!ここからは己の欲求を開放するのみ!!

仕事は仕事!プライベートはプライベート!!!メリハリ大事でああああああるぅぅうぅ!


吾輩の滾る心と思いが叫んでるのである!上からも下からもぉぉぉぉぉ!!!!


可愛い姪っ子と素早く別れて、自室に戻り、家宝の甲冑を本当は戻ってすぐに手入れするのが基本であるが、まずは、汗を流したいのである!!


ささっと目に見える汚れと汗を乾いた布で拭い、鎧を置くための棚に置いた後、肌着と私服を持って大浴場に向かうのだが、どうしても、早歩きになってしまう。


まだ、日も高い為か浴場はそこまで混雑はしていなかった、滾る気持ちを抑えながら、手早く済ませていく、だが!この先に待ち受ける憂いた花園の事を考えると隅から隅まで徹底的に綺麗にするのが礼儀であり作法である!!

汚いと、あからさまにサービスの質が落ちるものであるからなぁ、相手もまた人、気持ちよく仕事をしてほしいというものである。


なので、しっかりと爪の間もブラシでしっかりと綺麗に!耳の裏もしっかり綺麗に!へそもしっかりと綺麗に!!口腔と下は、より念入りに!!!!

全身、ピッカピカに磨いていく、下手をすると家宝よりも丁寧に完璧に綺麗にしているかもしれないのであるが、気のせい気のせい!!


そそくさと浴場を出て、自室に戻って、念のために片手剣を持って、こそこそと色街がある隣町に向かう乗り合い大人数用の長距離移動魔道具に乗り込む。


一定の時間になると自動で隣の街まで動いてくれるので非常に楽なのである。

会計も、プレートをかざすだけで自動で吾輩の銀行口座から引き落としてくれるので、現金を持ち歩く必要が無いのも、また、お気軽で楽なのである。


このシステムを作りたもうた先人には感謝の念しかでないのである。

これのおかげでより一層、ゴロツキ共が襲ってくる可能性も減り、治安も良くなった結果もついてきたのである!


爺様の世代だと、馬車が主流と聞いていたのであるが、馬車の時はお隣に行くのにもそこそこのお金が必要で、色街でそこそこのマネーがいるので、大金を持ちながらの移動になるから、ちょくちょく野党が現れてはお縄につき、前線に放り込んでいたそうであるが、


今ではこの大型魔道車が主流となって、ますます野党が減ったのである、皆、現金などの金品を持ち歩くことが減ったのも影響しているのであるな。


このご時世、人同士で争っている余裕など無いのである、どうして、犯罪者たちはみな、楽をしたがるのである?奪うよりも、畑を開拓すればよいのに近年の農業はとても楽になったと聞いているのに、嘆かわしいものであるなぁ、、、


そんな事を考えていると「おや!ベテランさんじゃないか!いくのかい?」見知った顔も乗り込んできたのである「おぬしもであろう?」屈強な漢が見合わせて鼻の下を伸ばしながらにたぁとした笑顔を浮かべる。


いかんいかん、だらしない顔をしている、こんなのを見られたら、また、変なあだ名をつけられてしまうではないか。


幸いにも、この時間から、出かける者は少なく、乗り合いの車には吾輩とこやつだけであるとはいえ、猥談等は控えねばな、そういうのは、向こうに着いてからである。


そわそわとしていると、車のドアが閉まり、おっさん二人だけのピンクな旅が始まるのである。

馬車などであれば、一定の人数が居ないと売り上げにならないので、二人だけなんて嫌がられるものであるが、無人で自動で動くので誰も嫌な思いをしないのが素晴らしいのである。


この先に待ち受けているあれやこれやそれを想像すると・・・早くも興奮してきたのである

周りに同好の士以外居ない分、より一層、そわそわとしてしまう、初めての色街にいく若造の如く滾る思いが滾る思いがあふれてくるのであるぅぅl


だが、しかぁし!それを隣のやつに悟られんようにするのも、年長者としての威厳というものである。


ちらりと隣を見ると周りに誰も居ないのを良いことに【色街特選お嬢!!】という名の雑誌を広げているではないか!!なにそれいいなみせてほしい



ちらちらと覗くように見ていると、直ぐに気付かれてしまったのである、あやつは、笑顔でもう一つ違う雑誌を吾輩に渡すとぐっと親指を立ててきたので、吾輩も屈託のない全力の笑顔で親指を立てたあと、年長者としての威厳もへったくれもなく、雑誌に穴が開くような程の熱量を込めて隅から隅まで見てしまったのである。



同好の士とは、何も言わず通じ合えるのが素晴らしいものである。むほほ



こうして、吾輩は二日ほど色街に滞在して、心の底から休暇を楽しんだのである


実は、吾輩の「ベテラン」というあだ名には二つの意味があるのである、一つは、かれこれ、15年も前線で戦い抜いている猛者という意味と


色街に通いまくっていて、色々とあちらのほうの経験もめちゃくちゃ豊富で前、後の準備や注意点を知り尽くしたベテランという意味が込められているのである。


だが!ここ1年で吾輩も少し肩身が狭くなったのである!!

この所業が、姪っ子にばれないようにするのが最近の一番の心労である。


姪っ子にばれてしまうと、実家にもばれてしまうのである、そうなると、実家に居る吾輩の娘にも絶対に伝わってしまうのである、それだけは避けたいのである。


実家に帰った時にただでさえ、臭いだの、でかいだの、気持ち悪いだのと避けられているのに、これ以上嫌われたくないのである。

姪っ子のように、甘えて欲しいモノであるなぁ・・・・


奥さんにはバレても良いのかと?…このプレートで支払うと、どこで何に使ったのか明朗会計でしてなぁ、、、


困ったことに妻もこの口座を使用していてなぁ、多少は濁した表記になっているとはいえ、気が付かないわけがなかろうなのである。


この前、帰った時なんてちょろっと臀部を撫でただけで平手打ちを食らったのであるくすん、、、ダディは人一倍稼いでいるからそれくらい許して欲しいのである。

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