第3話 淑女たるもの

気持ち悪い匂いで目が覚める「・・・?」辺りを見回すと自分の優雅な部屋ではないのが解る。

床一面に布団が引かれている、、、布団の上には、見知った顔が転がっている

見知った顔を見ると同時に意識が途切れるまでの激務がフラッシュバックし

現在、自分が置かれている状況に、ようやく気が付き始める


「うっそ信じらんない、ありえるこれ?」私がその辺の木っ端どもと一緒に寝かせられるなんて、なんて待遇!私がどこの家か知ってるのかしら!?


はぁぁっと溜息をつきながら、余りの汗臭さに吐き気もするので、少しでも早くこんな不浄な汚らしい服を脱ぎ棄てたい。


何が隊服よ!もっと良い物用意しなさいよ!


まぁでも、口を漱ぐあの液体は褒めてよろしくて、あれは素晴らしくて、良き気遣いでしてよ。

きっと、過去のお姉さまたちが進言してくださったのよ、この不憫な世界に少しでも彩を得るために!


布団から立ち上がると全身が今まで感じたことがない、全身に電気が走るかのような痛みに襲われる。


あまりの痛みで暫く動くことが出来なかったし、一瞬目の前が暗くなるのを感じた。


同じように起き上がって暫く動かずにじっとしている人がいたけれど、こういうことなのね。。。。いたいよぉ、、、もう、、やだぁ、、、つらい、、、


痛みで呼吸が大きく乱れ自然と汗が滲み出てくる、講義で痛みを軽減する為の方法を教わりましたでしょう?それを実行するときでしてよー!ゆっくりと呼吸を整えて、心拍数も落ち着いてきたので、ゆっくりと歩きだそうと足を地面から浮かせた瞬間、瞬きと同じような一瞬の瞬間「はぁん」予想外の痛みに膝から崩れ落ち、全身力が抜け、布団にダイブしていた、そしてそのまま意識がゆっくりと途絶えていき、視界がブラックアウトするのがわかる。


このままの流れに身を委ねよう、抗う術をわたしくはもっていな、、く、、、


は!?っと気が付いたら外から見える景色は夕暮れだった。先ほどと比べて立ち上がっても痛みも緩く歩き始めても驚くほどの激痛もなく、思っていた以上に時間を要したが。

漸く布団から出ることができた。


出ることは出れたのですが、ナニコレ?布団って沼地なのかしら?布団から出るだけで一日に使う全てのエネルギーを使い切った感覚、どこか懐かしい感覚。


ぁぁこれ、幼き頃に初めて乗馬した後もこんな感じでしたわ、おほほほほほ

膝がガクガクと震えるこの感覚!幼き日々の思い出が脳裏をよぎりましてよ!


何とか気力をというよりも、自身から漂う嫌悪感満載の服と匂いから解放されたい一心で体を動かすことが出来た。

これが、お嬢様ぱわーですことよ!!


この時、この瞬間、私の思考は

【全て清潔!綺麗!気品!麗しく!】等々の上流階級の有るべき姿が永遠とループしていた。


はっ!?と、気が付くと、いつも間にか湯船の中だった


湯船には、香料がつけられているのかフラワーな優雅な香りが立ち込めていた。ああ、なんて素晴らしい世界なのかしら。いやされるぅぅ、、、、へぇぶぅんん、、、、

こんな絶望の果てにも、優雅、気品、清浄という概念があるなんて思わなかったわ、素晴らしいですわぁぁぁぁ、、、、


「はぁぁぁぁぁ」


湯船で蕩けていると「あら、貴女も起きたのね」頭の上方向から声が聞こえてきたので誰かしたらとお顔を見てみると「ぁ、こんにちは」私をあの汚物場に連れて行ってくださった方じゃない、あの乱雑な扱いをする方とは思えないくらい優雅な佇まいだったから一瞬わからなくてよ。


ゆっくりと私の横にくると「貴女、初めてにしては頑張ってたわね」優しく声をかけてくださりました、あら、何かしらこの気品!?もしかしてどこぞのお嬢様かしら!?

「あ、ぁ、ありがとうございます」褒められることなんて、私の人生でほとんど無かったことなので、どう返事を返したらいいのかわからないの、これで良かったかしら?

変じゃないかしら?頬赤くなっていないかしら?頬に熱を感じるのはきっと、お湯のせいでしてよ?



湯船に浸かりながらこの街で戦い続ける人達のことや、街の事、いろ~んなお話を聞かせていただきました、待遇も私と同じ方が多いことに驚きましたわ。


嫁ぎ先も無く、一家の末っ子、居ても居なくても良い子。


秀でた才能があるわけでもなく、己の真価を問うための日々、

現状を打破するために鍛錬を繰り返したわけでもなく、只々、流される日々・・・


努力を怠ったわけではない、学業も並、兵科は下、魔術も下。

貴族としてのコネづくり、、、、何もできず。


きっと、このまま、流されるように堕落した日々を誰にも印象を与えることのない平凡な日々。

そんな日々を、送っていても、きっと、きっと!お父様やお母様が、私の価値を見出して適切な場所に導いてくれると思っていた日々。


そんな、学生生活を送っていた私に待っていた現実は、悲しかった。

一族から扱いに困った結果、要らない子同然の様に、この最果てに放り込まれた子。


ここに居る女性のほとんどが同じような待遇であることを聞かせてもらった。


学校で、教えられたのは、ここでしか得られない貴重な経験を国に持ち帰って国をより良いモノへと昇華する為に一族の為に来るものだと教えられ、頑張れば国に戻れると思っていた。


現に、そういう方もいらっしゃいますが、学生の身分が終わっても、ここに残る方は、私と同じような境遇の方が多いということを教えていただきましたわ。


そして、秘かに恋物語が発生しているという嬉し恥ずかしな展開もあると聞いて少し胸がときめいてしまいましたわ!

やっぱり、色恋、憧れが無いなんて、そんなの、世界が灰色になってしまいますわ!この世界を彩る輝きに恋やロマンスは欠かせないのですわよ!


お風呂から出るころには少々、鼻息が荒かったかもしれませんが、気にしませんことよ。淑女たるものお淑やかになんて、ここでは関係なくてよ!


新しく洗浄された隊服を着て外に出る、外には隊員達が各々、自由に過ごすために用意された公園があり、そこにあるベンチで座りながら火照った体が落ち着くのを待つことにする。

辺りを見回すと同じように火照った体を冷ますためにゆったりされている方がいらっしゃいますわ。


この街の気候は、非常に過ごしやすい気候で、夜も寒すぎず、昼も暑すぎず、目の前に厄災が無ければ非常に優秀な土地だと教わりましたわ。


文献や講義で教わっていましたけれど、実際に肌で感じると、ここが避暑地としてとても優秀であると心から感じれますわ。


風も気持ちが良いし、昼間もテントの中にずっと居たけれど、暑すぎて死にそうとかは無かったわ。違う意味で、意識が明後日の方向に飛んでおりましたけれど。


問題があるとすれば、この土地は、資源が乏しくて、周りに何も無いってのがこの土地がずっと誰の手に渡らなかった理由ですわ。

森があるわけでもなく、水源があるわけでもなく、鉱石が取れるわけでもなく、非常に資源に乏しい土地、誇れるのは人が過ごしやすい穏やかな気候だけ。


でも、穏やかで過ごしやすいという部分は、王族の避暑地の候補地としては秀でていてよ。


他所から資源を運ばないと生きていけない土地、何もない私と同じ・・・


暫く、何も考えないで風を嗜んでいると「。。。お腹がすきましたわ」お腹が小さく悲鳴を上げていた。

ベンチから立ち上がると、もう体の痛みは無かった、先輩がおっしゃっていましたの、あの湯船には身体組織回復術式が組み込まれていて浸かるだけで、ある程度の筋疲労や、損傷を治癒してくれるそうなの、今の私は、ここに来た時よりも調子が良いと感じる程。


実家にも、あの湯船が欲しいですわね。


お腹が空いているのはわかっていましてよ、けれど、小さ骨が喉に刺さっているほどの用事を思い出しましてよ、支給されたお鞄を無くしてましてよ!といっても、私物は入れていなかったので

無くても良いと思いますけれど、無くしたことにより怒られるのは嫌でしてよ、一応、寝かせられた部屋を見てから食堂に参りましょう。


先ほどの、雑魚寝していた部屋を見ると、部屋は綺麗に片づけられていた、優秀なメイドでも居るのかしら?

でも、メイドなんてここに来て一度もお会いしたことなんてありませんことよ?


偶然に通りかかった隊服の方に手を止めて申し訳ないのですが、少々お時間をいただきましてよ。


どうやら、支給された鞄は前線から帰る際に陣を超えて戻ってくると直ぐに回収され、洗浄室に運ばれて、中身を分別したのちに、洗浄し支給品一式をセットして、いつでも出れるように備える。


なら、別に探さなくても良いか気が付き、ずっと、本能の奥底から湧き出る獣の咆哮を抑えるために、満たすために食堂に行こうと食堂に通じる通路を見ると、通路の奥から慌ただしく走ってくる人影がこちらに向かって走ってくる、慌てふためくその顔をまじまじと見つめると、何処かで見た顔だった、いつどこで見た顔かしら?

「はぁはぁ、ぁぁ、、、なにも、のこってないー、、、」部屋の中を見た瞬間絶望的な声を上げているけれど、もしや私くと同じで支給鞄を返さないといけないと思った奇特な方なのかしら?

「そこの淑女、安心なさいまし、支給鞄は須く回収されて次に備えて支度されてましてよ。」部屋の前で座り込んでいる淑女にお淑やかに声をかけてあげる私、


歴代のお姉さまのみたいに優雅で素敵では、なくて?


ふふんっと気持ちよくなっていると「っぇえ!?そうなんでうかぁ!?」さらに気落ちされているご様子ですわね。それにこの特徴的なでっかい三つ編み、思い出しましたわ

行きの馬車で途中からご一緒されていた、隣国の方でしたわね、思い出すのよ、相手がこちらを覚えておいでなら、失礼に値するわ。


確か、私とは違う部隊に配属されていたはず?で、あれば、転送されて運ばれた部屋が違うのではなくて?

「貴女、部屋を間違えては、おりませんこと?」私の言葉に首を横に振り「ぃぃぇ、ここで、あっでまずぅ、、」あら、涙ぐんでしまいました。


何か、トラブルの予感がしますわね、助けるべきか、見捨てるべきか、助けても私には何一つ益はなさそうな予感もしますわ、事なかれ主義で過ごしてきた学生生活の感が告げていてよ。

でも、貴族としてこの街に放り込まれた方であれば、私と同じ…


ふぅっと息を吐き、食事が遅くなる覚悟も決めて、何もなかった学生の頃よりも前に行く勇気も胸に込めて。


「貴女、何をお探しで?」今にも泣き崩れそうな淑女を助けるとしましょうか、


【弱気に手を貸し、愚者を導く貴族としての誉でしてよ。】


「じづは、」ふんふんと耳を傾ける、涙の影響でとても鼻声で聞こえにかったけれど、聞き取れた内容は、大切な家族であり、尊敬する祖母から頂いていたブローチを肌身離さず持っていたかったけれど隊員の方から、私物は自身のロッカーに入れて置くようにと!と一喝されて、慌てて鞄の中にしまってしまい、ロッカーに行く間もなく、あれよあれよと、戦場に流されていった。

肝心の配属場所は偵察部隊だったから、特にやる事が無くて安心していた。


ゆったりと過ごしていると、急に現場が慌ただしくなり、何がどうなってそうなったのかわからない程の激流の流れに流されている中、解ったのが、隠蔽術式等々諸々全てが停止、敵にばれちゃったみたいで、慌てて移動することになり、そこからはずっと慌ただしくて、何がどうなってそうなったのかもわからなくて、気が付いたら布団で横になってて起きたら汗臭くて気持ち悪くて、お風呂入って、落ち着いたら鞄のことを思い出して、今に至る。


「急いで部屋に来たけど、もぬけの殻ってことですわね」こうなる事が解っていたから私物はロッカーに入れてくるようにと事前にも通達していたのですわね。


毎年、この娘のような約束を守れず、困惑する人が生まれるという先人の知恵というわけですわね。


恐らく、これもまた、訓練の一環と思われますわ、指示を守れないと悲惨な結果になるぞ?という教訓を含んだ訓練の一環なのですわ。


これら全てを乗り越えて国に帰還為されたお姉さまたちが、雰囲気が一味も二味も違うのは納得ですわ。


そうと決まれば、先ほどの決意同様、私がすべきことは一つ!

「そこで座っていても何も始まらなくてよ」地べたに座り込んだ愚者に手を差し伸べる。


エレガントでしてよ!パーフェクツっですわ!!さすがわたくし!最高に綺麗で優雅でエレガンツなお嬢様!!・・・・お見合いは全て失敗しておりましてよ!!


「・・・はい!」浮かべた涙を拳で拭い目に力が宿ったのはよろしいのですけれど、ハンカチくらいお持ちにならなくて?…ハンカチを渡そうかと、思いました私も今は隊服のみだから何ももってなくてよ?ほほほ


野蛮と言われようと拭うものが無ければ、致し方ありませんことね。


差し伸ばされた手を握り、ゆっくりと立ち上がる、あら思っていたよりも結構、力強いわねこの娘、一瞬、上半身が持っていかれそうになりましてよ!!ぉ、おも、、、


わたくしは、完璧なお嬢様、当然、前足で踏ん張って、眉一つ動かさなくてよ?優雅たるもの、これくらいで表情を崩してはいけなくてよ?


「ありがとうございます!貴方ってとてもやさしいんですね」ええ、淑女ですからね

荷物を回収するということは保管場所があるし、先ほど、教えて頂いた情報なら、洗浄する為に一か所に集めているはず

「まずは、荷物を回収してくれている部屋を探してみましょう」

はい!っと気持ちのいい返事と共に走り出そうとするのだけれど、少しの間は歩いて探しませんこと?、、、先ほどの一連の動作で、少し腰が、、、


歩き出さない私を見て、不思議そうな顔をするんじゃありませんことよ?これくらいの痛みあと少しすれば大丈夫っでしってっよぉ!!


痛みがあることを感じさせずに優雅に前へと歩を進めていき「ほら、行きましてよ」優雅に歩を進めていく!すり足なのが淑女としての嗜みでしてよ!腰に響くからすり足じゃなくてよ!!わかって!?


歩きながら、道中で説明された内容を照らし合わせていた、相手の方も、私と道中一緒だったことを覚えていらっしゃったみたいで、奇遇ですねと、嬉し恥ずかしと会話が弾んでいく。


思いだすことが出来て行幸ですわ、特徴的な髪形で助かりましたわ。


同郷でもないのに、物おじすることなく気さくな方で、私としても好感が持てる相手でよろしくてよ。


洗濯装置が置かれている部屋を発見し、中を覗いてみると、カバンの中を出しては、洗濯装置に放り込んでいる方が夜中になろうとしているのに、必死に作業されている方がいらしたので。

忙しい中、申し訳ありませんが、こちらもこちらでその様に手荒に中身を出されていると大切なブローチに傷がついてしまうので、早々にお声をかけることに


「お忙しい中、少し、よろしいでしょうか?」


恐る恐る声をかける、ここに居る人の殆どが、元は貴族、または、現貴族である方が多いと知ってしまった以上、失礼な発言はお家問題に発展しかねないことよ?

「?どうされたの?」意外や意外、作業の邪魔をされてお怒りなのかと思いきや、穏やかな返事が返ってきましたわ!お声からして女性の方みたいですし!作業着が目元以外全部、覆われているし、服もだぼっとした体のラインがわからない服装なので、お声でしか性別を判断できなくてよ。


作業を中断させてしまい申し訳ない中、事情を説明すると

「うんうん、皆もちょこちょこ同じようなことするから気にしないでいいわよ」

にこっと目元だけしか見えませんが、声からも笑っていらっしゃるのがわかる。なんと心広い方でしょう。


「じゃぁ、勝手に探していってね」目の前のお姉さまが指さした方向は、カバンの中から物資を取り出して放り出された物が散乱している箱と、回収してまだ、開けていない鞄たちが入っている箱だった。


思っている以上に多いのですけれど?これって全部隊分かしら?

部隊ごとに分けたりはしないのかしら?それにしては多すぎてよ?


「多くないかって?そりゃそうよ、それたぶんだけど一週間分は、溜まっているからよ。まずは、物資箱から漁って、無かったら、カバンをひっくり返してね♪」


途方もない作業量に一瞬、視界が暗くなるのを感じる。


引き受けるんじゃなかった…鞄の中ひっくり返したらこっちに放り投げてねと、そうか、探し物が見つかるまでの間は、鞄をひっくり返す作業を手伝ってくれる人員が2名も来たことになるのですわね、それは、まぁ、作業効率アップで嬉しいですわねぇ…


呆然としていると、大きな空箱を引きずってきた三つ編みちゃんが「ここまで、ついてきてくれてありがとう!!」あら、連れないことをおっしゃるのね、ここまで一緒に来た仲じゃなくて?

「寂しいことを言わないで、私も手伝いましてよ」腕をまくって、ゆっくりと膝を地面につけ物資の入った箱から空っぽの箱へと物を移していく。

ちらっと相手の顔を伺うと薄っすらと涙を浮かべていた、あらぁ、感動屋ですわねぇ、かわいらしくて好きよ。


「はい!!」


元気な返事も、私は好きよ、良き間柄になれそうで嬉しいですわ。

こそっと、腰が痛かったら無理しないでね?なんて気遣いの言葉を仰るなんてホホホ、、、、見破るなんてなかなか、、、侮れない娘ね。


箱を全て空っぽにしても、ブローチは見当たらなかった、そうなると、まだ開いていない鞄の中にある可能性が非常に高くなってきましたわね。


鞄が置かれている部屋をぐるっと見渡す。


手前側は恐らく日にちが経っている古いので、最近のであれば、あの奥にある鞄では?この部屋に鞄を放り込む場所が決まっていて、今もぽぽいっと放り込まれて重なっていっているのが奥にあるけれど、、、何かのついでに一度で終わる様にどこかで纏めて保管されていて、通りがかるついでに、この部屋に放り込まれていたら、古さの基準は関係なくて、、、


ifを考えていても仕方がないですわね、それに、奥まで歩いていくスペースは無くてよ?

、、、、これは手前から全部開けないといけないですわね?ぁぁ、それを見越しての笑顔だったのね。ふふふ、お姉さまったら、意地が悪いですわぁ、、、


浅はかな考えなど無意味!短縮することを考えるよりも手を動かすことにリソース全力ですわ!


そこからはもう無心だった、鞄を開けて中身を出して、空っぽになった鞄をお姉さまの方向に投げての繰り返し、お姉さまも私達が来てからは中身にブローチが無いかしっかりと視てくれている、それだけでも私達は笑顔で作業が出来ましてよ。


人の善意というのは心地よいモノですわね。久しく忘れていましてよ。



気が付けば、部屋に積まれていた鞄も残り数えれるほどに減っていましてよ。

予想通り、一番奥にある比較的汚れも少ない、如何にも新参者が用いたような鞄だけが残った。

よくよく考えると、私達、学生が初めての現場で汚れる様な仕事なんてそう、、、そんなことはないわね、私なんて泥にも汚物にも、吐しゃ物にもまみれましてよ?

現に、私の鞄なんて白から濃いめの土色、黒に近い色に変わってましたわよ?


三人で探していると、残り僅かなだけあって、直ぐにお目当てのブローチは出てきました。

ブローチを涙が止めど無く溢れる様に、流しながら抱きしめている姿を見ていると。

私達も、自然と、薄っすらと涙を浮かべてしまった、その光景に、故郷で私のことを大事にしてくれた人たちが脳裏をよぎってしまったから。


邪魔者の様に家から出てきましたけれど、ここまで大切に愛情を持って育ててくれたことには変わりは無いし、今もその愛を覚えている。

「ありがとう、ありがとうございます」ぐすぐすと涙声でお礼を仰るなんて、淑女らしくない方ね「さぁ、お目当ての物も出てきたみたいだし帰った帰った」しっしっと、お姉さまは私達を追い出そうとしますけれど目に見える鞄はほんの少し「あと、少しですので、手伝いましてよ」そう言った瞬間、奥からどさっと流れ込んでくる新しい鞄の数々・・・・


もしかして、間一髪でした?


「いいから、帰んな(笑)」困ったような顔で部屋から追い出されましたわ。きっと、まだまだ終わらないことをあの方は知っていらっしゃったのね。


すんすん、とまだ泣き止まない方を置いて、そそくさと一人だけご飯を食べに行くのも、後ろ髪をひかれましてよ?


この先どうしましょう。学生時代にこの様な友情ハプニングなんて一度も無かったらどうすればよいのかわからなくてよ?


悩んでいるとくるるるうっとお互いのお腹の中にいる猛獣が贄を求める声をあげていらっしゃるご様子が伺えましてよ?

ふふふ、淑女たるもの、自身のお腹が空いて叫んでるなんて認めたくなくてよ!


赤面しながらも、ややカッコつけた雰囲気を醸し出す私を見て三つ編みちゃんが笑っている。

「ふふ、あはは、お腹すきましたね」笑いながら仰るあなたのお腹もなっていましてよ?


ふと、時計を見てみると、夜の10時を過ぎており、この時間では食堂も開いてはいない、困りましたわね。

どうしようかと悩んでいると先ほどの部屋の奥から「お腹空いたのなら酒場にいきなー!酒以外も扱ってるからお腹も満たせるわよー!」どうやら、奥まで私達から響き渡る我らが飼いならせない獣の咆哮が聞こえてしまっていたようですわね。


お互い、頬が赤くなっていましてよ?貴女も恥ずかしかったのね。



その光景が可笑しかったのか、二人は笑いながら酒場まで行くことに。


最初は、あんな凄まじい鬼の様な団長の元に配属され、この世を恨みそうになりましたけれど、案外、この場所も悪くないのかもしれないわね。


ぱぱ、まま!私、頑張ってみる!何処にも居場所が無い私でも、ここだと居場所が作れそうな気がするの!


頑張ってみる!だから、遠い国からでも私を応援していてね、、、ぱぱ、まま、、、

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