第3話

店でダラダラと時間を過ごしていると、カランカランと扉の開く音が聞こえた。チラリと視線を向けるようにして見てみると、どうやら他の常連のお客さんのようだ。


スマホで時間を確認すると、とうに店の開店時間を過ぎていた。


「帰るか……店長、会計を」


「今度でいいわよ。その代わり、ちゃんとその子を送り届けなさい」


「わかりました。なんかすいません。早めに払うんで」


「はーい。そうしてちょうだい。いらっしゃいませ〜。ハッピーハロウィーン」


気づくと続々と他の客が入ってくる。各々は店に入ってくると、今日はハロウィンだったと思い出し、不思議と笑顔になっていく。この店も繁盛してるんだなぁ……そんなことを考えていると、袖を引かれた。


「はやくかえりましょう。とけものは買ってないですがわたしたちはこの場ではどうやら浮いているようですし……」


「そうだな……」


店を出ると、肌寒かった空気はさらに冷え、もう一枚何か羽織らねばならないほどに冷えていた。

吐く息はまだ白くないが、あと数日もすれば白くなってしまいそうに感じる。


ガキと手を繋いでいるが、熱は感じない。風の冷たさとは、また違うひんやりとした感覚が肌を伝う。


何も話すことはなく、黙々と歩いている内に自宅のアパートへと戻ってきた。常日頃から誰がきてもいいように、いつでも綺麗にはしていたつもりだったが、よくよく見てみると隅の方ににうっすらと埃が溜まっているのがわかる。


そう言えばしばらく掃除もしてなかったな……


そんなことを考えていると、ガキはどこからか座布団を取り出し、ちょこんと座った。


その対面に俺もあぐらを組んで座った。


「お茶を淹れましょう」


「湯呑みどころか急須すらないぞ」


「ちょっと待っててください」


ガキが手をポンポンと叩くと、煙と共に茶器が現れた。

一体どうやって……とも思ったが、この際気にせずにおこう。


テキパキと手慣れた様子で、茶を入れ始めた。どこでこんなのを覚えたのだろうと考えていると、コトリと目の前に湯呑みが置かれた。


淹れられた茶を一口啜る。茶は程よい温度で、スッと飲めた。


「そういや帰らなくていいのか?」


「はて、帰るとはどこへですか?」


「お前の家だよ。夜になってきたなら送らないと」


「そして狼になるのですか?」


「ガキにそんな感情になることはねぇよ。あれか、幽霊には帰る場所はないのか?」


「いいえ、ありますよ」


「じゃあそこまで帰れば……」


「帰れないのです」


「……帰れない?」


「ええ、以前天国まで行こうとしたのですが門前払いをくらいまして。ですのでいつもその辺をふらりふらりと歩いているのです」


「ふーん、それ以外はどう過ごしているんだ?」


「そうですね。暗く湿った場所を探して日々散歩し

ています」


「散歩、かぁ……」


「ええ、たのしいですよ。あと、気になった人の後ろについていって観察するのも楽しいものです」


「そういうもんなのか」


「ええ、そういうものです」


どうしてだろうか。フフッと笑うガキは、自分よりも大人びて見えた。


気づくと、時計は0時を指そうとしている。アルコールを飲んだせいか、妙に眠たい。瞼を擦りながら、ウトウトとしていると肩をポンポンと叩かれた。


「眠いと思ったら寝たらいいんです。おやすみなさい」


「いや、お前を放置したまま眠れんだろう……」


「それはどういう心の意図でして?」


「ガキと女には優しくしろと言う死んだばあちゃんとの約束があるんだ」


「……あなたはやさしいのですね。では、玄関まで送ってください。そこからは自分で行きますから」


「わかった」


玄関先まで歩いて行くと、生あくびが止まらなかった。

瞼を擦りながらも玄関へと足を進めていく。

ガキがドアノブを捻り扉を開くと、寒々とした空気が部屋を貫いた。


「それではごきげんよう」


「ああ、またな……」


「ええ、また……」


ガキを見送ると一気に眠気に襲われた。どうやら……今日は……とても……疲れていたらしい……


◇◇◇


コツリコツリ。

アパートを出たあと、わたしは夜道を一人歩いていく。


わたしは頭に被った腐ったかぼちゃを外した。現れたのは、綺麗に切り揃えられた銀髪のおかっぱ頭。どうやら匂いは染み付いていないようだ。


「ふぅ……」


一息ついていると、暗闇から何者かの気配がした。姿は見えないが、誰かがいるのはわかった。


「よう、景気はどうだい?」


「残念ながらダメでした」


「そりゃあ残念だ。次のチャンスは来年以降になるがどうするつもりなんだ?上にも突かれるぞ」


「そうですね……来年のことはまたちゃんと後日考えましょう」


「ほだされたか?」


「まさか。ただ来年まで待ってやってもいいかなと思っただけです」


わたしがそう言うと、謎の影はケラケラと高笑いし、

コウモリの大群となって飛んでいった。

……あの様子だと、彼は今年もいい結果を出したらしい。


「来年、か……来年こそはあの男の魂を獲らないと」


自分に固く誓い、来年のプランを練るのだった。

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腐れた南瓜 @Marks_Lee

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