第32話 2人のライン
「どうした?電話では言えないって?」
「すいません」
ここは新宿駅地下、とある居酒屋だ。
込み入った話なのかな?と思って
個室があるここに来た。
結婚の相談かな?と倉田は思ったが
それにしてはタイミングがおかしい。
何だろう?聞いてみると…
「社長、堀井さんなんですけど。
連絡取れないですよね?」
「うんメールもラインも返事無し
なんだ?堀井ちゃんの事か?」
「はい、さっきは尾崎さんと岡元さんも居たから…」
吉岡と堀井は仲がよかった。
倉田は気づいていなかったが
ラインで常に連絡を取っていたというのだ。
あの醤油のテストから吉岡は堀井を尊敬していた。
元々料理好きな吉岡は彼女に料理を教えてもらおうと
出会った時から弟子入りを懇願した。
堀井がアメリカに行ってからラインで指導を受けた。
吉岡にとって彼女は姉貴分で料理の先生だった。
「もちろん料理の話もしましたけど
やっぱりほかの話もするじゃないですか?」
「うん、そりゃそうだろ?」
「で、話をしてて…」
「あーん、どうしよう?私が漏らしたってなるし
でも堀井さんとは連絡とれないですよね?」
「絶対秘密って約束したしなぁ…」
えらく困っている。なんだろう?
昔なら(社長命令だ、言え)なんて言えたけど
今のご時世、そんな圧力は掛けられない。
「社長、今独身ですよね?」
「なんだ?急に?」
「堀井さんの事どう思ってます?」
え?そう言われて…
オレの身の回りの世話してくれて
料理の腕前は最高で…
あの休暇から堀井ちゃんが帰国して
そのまま戻らなかったから本当に困ったな。
「堀井ちゃんはオレの大事な人だよ」
「それは社長のごはんを作る係という意味でですか?」
「ごはんを作る係だなんて言い方はどうだろう?
お手伝いさんとか、家政婦さんじゃない。
堀井ちゃんは、うちの社員なんだけど
友達みたいな家族みたいな感じだったな」
「じゃあ、堀井さんはごはん係っていうんじゃなくて
大事な友人以上の人って事でいいですね?」
えらい力の入りようだな?
どうも話が入ってこないまま返事をする。
「堀井さんね、ずっと社長が好きだったんです」
「えっ?」
「ただのファンのレベルじゃなくて昔から
社長がデビューされた時からずっと好きで
料理人の話が出てチャンスだ!と思って
それで面接に来られたんですって。
で、社長のごはん作って幸せだったんです」
「でもなんか?アメリカでミスしたとかで
岡元さんに事務所ですごい叱られて
責任とって辞めたんでしょ?」
「堀井さん、私はブスでこんなだけど
料理でがんばって社長の健康面とか
しっかり支える事ができて幸せだったって
社長のお傍に置いてもらえて幸せだったって
私におっしゃってましたよ」
「引退されるのはしかたないですけど
堀井さんの社長へのまごころを考えたら
社長には知ってもらいたかったんです
同じ女として、堀井さん…」
「堀井さん既読してくれないから
今更何言っても届かないんですけど」
「堀井さんを好きになってくださいとは言いませんけど
社長をずーっと思って傍で見守っておられたのに
どんなミスか知らないですけど、ひどいですよ。
社長が居ない間に追い詰めて辞めさせるなんて…」
吉岡はこらえきれずに泣きながらスマホを出した。
「ほんとはダメなんですけど」
そう言いながら2人のラインのやり取りを見せた。
******
普段の社長はスターに見えないよ
普通すぎて草
かわいい人
やっぱりずーっと憧れてた甲斐あるよ
あーでもダメダメ
20年間ファンだったなんて
口が裂けても言えねえ~
倉田は驚いた。面接では借金もあるし仕事もないし
オレの映画は見た事ある。そんな話だったはずだ…
ポーカーフェースかっこよかったよ~
ギラギラしてない暗殺者とか超かっけー
これ仕事人にヒントを得たのかな?
来月日本でも公開だと思うから
ももちゃんも見てよ
仕事人?すごい、見抜いてたんだ…
シアターシティの新居すごいよ!
キッチンなんかまるでレストランの厨房
これで中古物件なんて信じられない!
燃えるわ~ めっちゃ料理したい
車乗ってるよ初の左ハンドル
怖いけど道は広いしいけそう
でも自分ちの整理できなくて
私の新居はごみ屋敷 あわわw
吉岡のラインには
本当の「堀井元子」が居た。
マリー・デュ・コロワね、会ったよ
超かわいい!同じ女かよ?って
思って劇的にへこむw
社長~ 好きにならないで~(´;ω;`)
私じゃ無理
竹やりとミサイルの勝負 自爆w
ラブシーン全拒否だって?
超うれしい(⋈◍>◡<◍)。✧♡
フランスロケ
パリってだけでテンション⤴
ももちゃんにもお土産送るからね!
待っててね!
ヤバい
超泣きまくった!
あのラストはマジでヤバかった
ネタばれできないから内緒だけど
ももちゃん絶対見てね!
見た?キュンキュンでしょ?
日本でも人気でるかな?でるよね?
マリーは絶対演技じゃないよ
あの泣き方はガチ
マリーは惚れてる
あ~嫌だー (´;ω;`)
でもしかたないよね?
しゃーねえ、許すか?
(どの口が言う?w)
辞めるかもしれない
居たいよ
辞めるの嫌だ
ごめんねももちゃん
「堀井ちゃん…」
まだ会話は続いていたが
ラインの文字がゆがんで読めない。
「ももちゃん、ありがと、もういいよ」
倉田はあわててトイレに立った。
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