第25話 真実の箱


家に戻る。


8LDKの豪邸にぽつんと一人。

20畳のリビングに夕日が差し込む。

ソファに沈むとポケットから取り出して

テーブルに置いた。


ガミラの箱だ。


何が入ってるんだろう?


夕食の用意も忘れて中を見る。


USB だった。



********


「Hi クラ…」


PCから聞こえるガミラの声。

なぜか懐かしく感じた。


「クラ、これから話すのは全部本当。

 聞くのが嫌かもしれないけど

 最後まで聞いてほしいの」



それは声の遺書だった。



初めての出会いから想い出を語る。

心なしか?少し声に元気が戻る。


「クラのマネージャーで幸せだったわ

 でも私は悪い女、クラを利用したの」


それはザラからも聞いていたマネージメントの話だった。


「今度来るクラタってのを操縦できたらボーナスだ。

 そう言われてがんばったの。

 「ハリウッドコップ2」が大ヒットになって

 私はボーナスがもらえた。私はビルに言ったの。

 彼がヒットを飛ばす毎に臨時ボーナスをちょうだいって」


「正直、クラと居れば儲かると思ったの。

 次のポーカーフェースで私のサラリーも上がった。

 母の暮らしも楽になった。家も引っ越すことができたの」


「クラが人気者になって映画以外の仕事が増えたでしょ?

 TV局や雑誌はクラの独占インタビューがほしくて

 私に連絡してきた。私が仕事先を選んでいたの。

 私にお金をくれた所を優先したの。

 CMオファーもお金くれる所が1番だった。

 私はMPSに隠れておこづかいを貰ってたのよ」


「A chance Encounter の時ね

 フランス行きを嫌がったでしょ?

 あの時のボーナスね、すごく高かったの。

 だからクラが辞めないか?心配だった。

 マリーとの仲がお芝居ってわかって安心したわ」


「私、お金のためにクラを応援したの

 クラを道具のように思ってた」


「でもあの映画が完成した時は、お金じゃなくて

 本当にすばらしいと思ったの。

 だから私、マリーにも協力したかったし

 2人が結婚してほしいと思ったわ」



金のために働くのは当たり前だ。

おこづかいって、どこかの国の政治家も

キックバックとか取ってるじゃないか?

たしかに賄賂になるかもしれないけど

死ぬ事はない…


倉田は理解ができなかった。



「クラ、Top film LA の取材覚えてる?」


「私、あの日、あわてて帰ったでしょ?

 クラが心配して玄関まで出てきた時よ」


「あの時ね、あのときッ…クッ」


我慢できなくなったのだろう、泣き出した。


よほどの事なのか?

これだけガミラが泣くのは初めて聞いた。

早送りせず、ガミラが泣き止んで話すのを待つ。


「あの時、ポストに郵便があったので

 クラに渡そうと思って…」


「F・Bの封筒を見つけたの…」


「びっくりしたわ」


「私、噂で知ってたのF・Bの事」


「インビテーションが届いたらその人は移籍する。

 でもそれって映画界の都市伝説だと思ってた」


「ごめんなさい、クラに来るなんて思わなかったの。

 クラとお別れになるって思った」


「とっさにバッグに隠したの、その時クラがドアを開けたの」


「私はインビテーションを捨てれば大丈夫と思ってた。

 クラは移籍しないし、今まで通りに仕事ができる。

 ごめんなさいと思いながら家で捨てたの」


「でも、あれから仕事のキャンセルが増えたよね。

 TVも雑誌も減っていく。始めはわからなかった。

 みんな Im sorry で逃げるのよ」


「F・Bが仕事を奪うなんて?そんな事があるの?

 そう思うと、どうしようもなく怖かった。

 私が黙っていたらバレないと思ってたのに」


「毎晩心配で怖くて眠れなかった。

 私は身体を壊して何度か入院もしたの。

 休んでる時もクラにごめんなさいって思ってた。

 誰にも相談できなくて苦しかった」


「退院して、ビルに呼ばれて、そこで聞いたの。

 クラの仕事が無くなったって。

 F・Bのせいで、こうなったって」


「ちがうの、私のせいって思ったけど

 ビルにも言えなかった」


「私がクラの未来を消してしまったの。

 自分を守ろうとしてクラの仕事が無くなった」


「クラ、本当にごめんなさい。私は地獄へ落ちる人」

 

A国の宗教では殺人を犯した者は地獄へ行く。

どんな理由であれ地獄の業火に焼かれるという。


「クラの未来をなくしたのは殺人と同じ。

 私は地獄へいくのは当たり前と思うの」


「でもこれでパパに会えなくなる。

 天国のパパと地獄では会えない」


「悪い事をしてきたから罰を受けるのは私なの」


ただし、自らを悔い改め命を絶つのなら

魂は浄化され死後、救済への道が開ける。


「だから、私はパパに会いたいから…」


「死ぬけど、ごめんね」


「天国へ行ってクラの応援するから許してね」


「最後だから全部聞いてもらいたかった」


「クラありがとう」


「お願い、私を許してね… わーん」


叫ぶような鳴き声から

唐突に音声が途切れた。




******



郵便はガミラが隠していたなんて…


バッグを抱えてオレから逃げたよな。


体調不良は良心の呵責からだったんだ。


すべてつながった。


この世に「たら・れば」はない。


あの日、封筒を隠さなくたって

オレは移籍する気は無かったのに。


それにもし移籍しても

ガミラと一緒に移籍していたのに。


悔やんでも悔やみきれない。


倉田はTシャツを手に


ひそと泣いた。




ガミラ…


あまりに美しく


悲しい女よ…







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