第24話 ガミラからの贈り物

3日ほどしてビルから連絡があった。


ガミラの母が会ってくれる。


ナビを頼りに教えられた住所に向かう。

ガミラの家に行くのは始めてだった。


LA郊外の住宅地。かわいい一戸建てだった。

緊張しつつベルを押す。


「Oh クラ、ザラ・トンプソンよ」


ガミラは母親似だったんだ?そっくりだ。

彼女が年を取ればこんな感じだろうと思った。


「あなたに会えてうれしいわ」


泣きながら話が始まる。


ガミラは大学卒業後、日本のMPS支社で就職。

26歳で同級生と結婚したが5年で離婚。


主人が嫉妬深い男で、ガミラの美しさを

心配するあまり束縛が酷かったのだ。

挙句の果てに仕事を辞めろ、家から出るな。

病的な状況から精神的に耐え切れずに別れた。


33歳の時にMPS本社に戻りマネージャーとなる。

だが、受け持つ俳優と悉く馬が合わない。

ケンカやクレームが多くトラブル続き。


マネージメント能力が無いなら勤まらない。

次、ダメだったら辞めてもらうよ。


最後の試金石が倉田のマネージメントだった。

日本に居たのなら、こいつの面倒は見られるだろう?

キワモノ俳優とトラブルメーカーのコンビだと笑われた。


倉田は鳴かず飛ばずの崖っぷちの状態で渡米した。

ガミラも倉田の担当にすべてを賭けていた。

同じような境遇だった2人は相性がぴったり。

トラブルはガミラのせいではなく俳優個人の問題?

そんな評価に変わっていった。


「あの子が残れたのはクラのおかげよ」


「いや、私も彼女に支えられたんですよ」


英語ができなかった頃、ガミラは母のような存在だった。

彼女は倉田のマイナスになるような通訳は一切しなかった。

通訳の齟齬で立場が悪くなることはいくらでもある。

その事を倉田は感謝していた。


話も一段落し、コーヒーのおかわりをもらいながら

ガミラがどういう状況なのか気になった。

日本ならお通夜、葬儀などがあるが?

お墓にいるならお参りがしたい。


「あの子はA国に送るの。今、安置所で。

 エンバーミングできれいなままよ」


葬儀はせずに埋葬を母国でやるという。


倉田はあえてガミラと対面したくはなかった。

実際に顔を見ればその死は認める事となる。

ただ、会っていないだけだと思いたかった。


それより倉田は形見分けが欲しいと言った。

なにか彼女の持ち物をもらえないか?


ザラは喜んでOKした。

彼女の部屋を見てやって欲しいという。

そこから何か選んで持って帰れと言う。




********




部屋に案内される。


ドアには漫画のネームプレートが。

ひらがなで「がみらのおへや」と書いてある。

日本で使っていたらしい。


ザラはドアを開けながら言った。


「あなたと15年前に会いたかったわ」


「15年前?」


「あの子がまだ独身だったからよ

 クラとチャンスがあったでしょ?」


笑いながらドアを開ける。



花の香りがする部屋だった。

彼女のイメージには無いぬいぐるみがベッドに。

きれいに整理された本棚には漫画やCD。

クールだったが、素はかわいい子だったんだ。


部屋の一角。壁にたくさんの写真が貼ってある。


子どもの頃のガミラはかわいいな。

彼女を抱くザラは女優のような美しさだ。

その隣は父親か?ご存命なのかな?


ザラが説明してくれた。


ガミラの故郷 A国は内戦を繰り返していた。

彼女の祖父は戦火を避けてアメリカに渡った。

その子アメルがアメリカで生まれた。

19歳の時同じ中東出身のザラと出会う。


アメルが41歳、母国に帰った際、空爆に遭い死亡。

彼はそのままA国で埋葬された。


「ガミラはアメルと天国で暮らすために帰るの。

 私も死んだらA国へ帰るつもりなの」


そうか、ガミラは父と再会するんだ?

故郷へ…良いことだ。

同じく日本を離れている倉田はしみじみ思った。


「アメルが死んだ時、あの子は高校生。

 狂ったように泣き続けたわ。

 環境を変えるためにも日本に留学したの」


大学、たしか常置大学だっけ?

友人と楽しそうな写真。

父の死を振り切るためだったんだ…


結婚の写真は……無い?。

残したくないメモリーだったんだな。



お!これはMPSだ。

オレ達だ。

写真の枚数が1番多い。


ビル、その他のスタッフと。

撮影中、現場を見守る厳しい眼差し。

しかしキレイだなぁ…

女優をやればよかったのに。


お!これはフランスだな。

堀井ちゃんとだ。

あ、これ2人で買い物に行った時か?

楽しそうだな。


あ!マリーとだ…

いつの間に? 仲良かったのかな?

マリーを見てちょっと複雑な気になる。


そのタイミングでザラが言った。


「このベッドで寝てたのよ…

 本当に寝たままだったの…

 何度も何度も起こしたけど…」


倉田は我慢できずにザラの前で泣いた。

ザラも倉田の背にしがみついて泣いた。




*******




一通り話をして形見分けはTシャツになった。

彼女は身体の線が出るのを嫌ってメンズのMを

着ていたため、倉田にぴったりだった。


「ガミラを想って着ます」


「あの子もよろこぶわ、あ、それから」


そういうと隣の部屋へ。



「これは?」


「クラに渡して欲しいと、メモがあったの

 これは警察に出さなかったの。

 没収されるかもしれないでしょ?」


ザラは小さな箱を倉田に渡す。

タバコより一回り大きな箱だ。


何が入っているんだろう?


空っぽかな?と思うほど軽い。


だが、中身はあまりにも重いものだった。



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