第23話 ふざけんな
MPSビルに車が停まる。
1Fエントランスに横付けされると
倉田は飛び降りた。
ドアを閉めずに走る。
自動ドアにぶつかりそうになりながら中へ。
受付嬢の挨拶に軽く手をあげエレベーターへ。
イラつきながらボタンを連打。
後ろからジェシカが走ってきた。
「クラタ、ビルが30Fで待っています」
一瞥した倉田は返事をしなかった。
こいつは何を言ってるんだ?
ビルとは車中でメールしていた。
マネージメントのつもりだろうが
オレのマネージャーはガミラだ。
エレベーターが来た。
ジェシカも一緒に乗ってくる。
「何で乗るんだ?」
㉚を押しながら尋ねた。
え?と言う顔をして倉田を見返す。
ジェシカは拒否されている事に気づいた。
30Fまではけっこう時間がかかる。
ジェシカは一言も話せなかった。
スゥ
ここに来ると胃が痛いな…
美しいブルーの絨毯はこのフロア専用だ。
もともと好きな色だが、嫌いになりそうだ。
心臓の鼓動が聞こえる。
イライラと恐怖が混ざり合う長い廊下。
いつもの会議室、また3人が居るのだろうか?
ノックする。
付いてくるジェシカに尋ねた。
「なんで付いてくるんだ?」
「……」
ドアがガチャリと開いた。
「Oh クラ、急にすまなかったね」
「ビル、彼女も呼んだのか?」
ビルは申し訳なさそうにしているジェシカを見た。
「君の通訳で」
「誰が決めた?オレはこんな人は知らない」
倉田はそう言いながら振り返りジェシカを見た。
その空気が怖かったのか?彼女は待っていますという。
「すまないジェシカ、あとで呼ぶよ」
ビルはそういうと倉田だけを部屋に入れた。
ドアが閉まった瞬間、詰め寄る。
「ビル!ガミラは?あの女が担当?
どういう意味なんだ?」
完全にケンカ腰だった。
ビルはまあまあ落ち着けと言わんばかりに
倉田の両肩を掴みながら座れと促した。
「君に報告する事がある」
苦い顔をした。
やっぱり移籍か?解雇か?
覚悟した。
「実は……」
「……」
「ガミラが死んだ」
「え!何言ってんだ?おいっ?」
ガバと倉田は立ち上がった。
「座れ、クラ」
「うるせえ!」
「クラ、聞いてくれ」
「ふざけんな、てめえ!ふざけんなっ」
すべて日本語だった。
まるで中高生のケンカのように怒鳴った。
「クラ、落ち着け」
「ふざけんな!」
ガーン
椅子を蹴る。
ビルが肩を掴み押さえつける。
182㎝の倉田だが2m120キロのビルの前では
子ども扱いだ。怪力で机に押さえつけられた。
「クラ、頼む、落ち着いてくれ」
倉田は逮捕された犯人のように
机にうつぶせに押さえつけられた。
泣きながら、机を叩き怒鳴る。
「離せ、てめえ、ビルっ この野郎 はなせえええっ」
泣き声が部屋に響いた。
******
倉田が平静を取り戻すのに5分ほどかかった。
「すまん、ビル」
「いいんだ、オレも聞いた時は取り乱した
いいか?とにかく聞いてくれ」
ガミラは体調がすぐれないという理由から
休みがちだったのは知ってるな?
彼女は母親と2人暮らしだったし
連絡は取っていたので心配はしてなかった。
だがある朝、起きてこないガミラを心配して
母親が見に行くと部屋で亡くなっていたそうだ。
死因は薬物の摂取による心臓麻痺。
遺書は母とMPS宛に2通。
警察の調べで事件性は無く自死の判定。
「遺書には何と?」
「仕事が減ったのは私のせい。責任は私だと」
そういうお詫びの遺書だったというのだ。
そんな…
「オレはそんな事、これっぽっちも思っちゃいない。
ガミラのせいなわけないだろう?」
「F・B財団のせいでオレが干されたんだよ。
ガミラには今回の件、伝えてなかったよな?
教えてなかったから自分を責めたんじゃないのか?」
「いや、彼女にもこの事は伝えたんだ」
あの会議室で倉田と郵便物の確認をした後
ガミラを個別に呼んで F・B財団の経緯は伝えた。
「なんて言ってた?」
「仕事が減った理由がわかったわ。なんとかしなきゃねって」
倉田はガミラの死がどうしても納得できなかった。
他に理由があるんじゃないか?
また倉田自身にメッセージが無いのも気になる。
「クラの言う通りだ、ガミラの死は謎だ。
なので、第三者の調査チームを立ち上げた。
人間関係や仕事内容を調べている。
マスコミに公表するのはそれからだ」
今回の件はF・B財団は関係ないはずだが
100万$スターのマネージャー謎の自殺は
あまりにスキャンダルすぎる。
MPS側としても慎重に対処する事となる。
「絶対につきとめてくれ」
「あ、それから、ガミラのお母さんに
会うことはできるかな?」
「お母さんにお悔みとお別れがしたいんだ」
「わかった。母親がOKしてくれたら連絡する」
「それから、ビル。言っておくぞ」
「ジェシカとか言う女。必要ないからな。
日常会話はなんとかできてるだろ。
もし困ったらアプリで話す」
「ジェシカは嫌いか?」
「嫌いもなにも、勝手に決めるなよ」
「悪かったな、こっちも慌ててしまって」
ビルはさっき押さえつけていた肩をポンと叩く。
話は済んだ。
ジェシカは廊下に立っていた。
倉田は一瞥すると無言でエレベーターに乗った。
ジェシカが一緒に乗ろうとしたが手で制した。
彼女に罪はないがお断りだ。
「オレの担当はガミラだ、バカ野郎」
ドアを閉めた瞬間また涙がこぼれた。
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