第14話 授賞式のあとで

ここは「アナハイム・シーザーパレス」


アカデミック賞授賞式が開催されるホテルだ。


アメリカ映画界の発展を願って設立された賞。

そのトロフィであるタスカーを抱いた俳優は

永遠にその地位を約束されると言われる。


この年のアカデミック賞は100年を超える歴史の中で

ありえない出来事が起こった。


主演男優・女優賞。共に初の外国人受賞者が誕生する。


そう、倉田浩平とマリー・デュ・コロワ

「A chance Encounter」の主役2人が受賞、


主催者側も粋な計らいをした。

W受賞のお祝いプレゼンはエディ・ターフィだった。


「おい、クラ、約束がちがうぞ。

 お前、初めて会った時言ったよな?

 このエディ様を追い越す事はありませんって?」


会場は大爆笑。


「契約違反だから、月末に金振り込めよ?」


「振り込みは日本円でいいかい?」


「なんで?」


「今安いんだよ」


大爆笑と共に観客からは「three~」との声が。

2人のやり取りが「ハリウッドコップ」そのままなのだ。

早く続編を撮ってくれという歓声。


「3?見たいならみんな、DVD買えよ?

 え?まだ売ってないの?ロッキー3だろ?」


MCが頼むから先へ進んでくれとエディに懇願。

会場は大爆笑と拍手が止まない。

エディは続いてマリーに声をかける。


「Hi マリー初めまして。話題のマリー 噂のマリー!」


倉田はエディが暴走しないか冷や冷やした。


「Hello 」


照れくさそうに挨拶するマリー。


「かわいいよな?クラ、おい」


そう言いながら倉田につんつんする。


「マリーの事、どう思う?ん?」


「アイ、キャンノット アンダースタンド エングリッシュウ」


「おいおい何だ急に?」

 


今度はマリーに近づき倉田を指さしながら。


「ねえ?マリー。この態度はダメだよ、ね?」


「アイ キャンノット イングリッシュ」


「あ”~ こいつらダメだー」


床に寝転がって駄々をこねるようなしぐさ。

会場はさらに大爆笑。

その雰囲気のまま倉田とマリーが順に感謝のスピーチ。




「さすがエディね?」


ガミラがビルにささやく。

ビルは大きくうなずいた。


笑いで2人のスキャンダルを煙に巻く。

誰も傷つけずに会場を沸かすトーク。

倉田とマリーの2ショットに注目が集まったが

何事もなく式は無事幕を閉じた。





*********




授賞式も終わり23時。

倉田もやっと部屋に戻る。


「ガミラ、すまない、いいか?」


エリックが帰ろうとしていた背中に声をかける。


「あら?私を覚えてたんだ?」


「おいおい、手厳しいな、勘弁しろよ」


アメリカでは大人しいのね?こいつ…

少し笑いそうになりながらガミラは尋ねた。


「どうしたの?」


「実は…」


マリーが倉田と話がしたいという。

少しでもいい時間を取ってほしい。

なんとかならないか?

オレたちはスケジュールの都合で

明日、朝の便で帰るんだ。


「マリーが…」


ガミラはなんとかしてやりたいと思った。

個人的にマリーの事は好きだった。

でもホテル内で会うのは記者の目もある。

絶対に倉田を守らなければならない。


ビルとも相談したが、会うのは難しいという。

場所のセッティングもできないし時間もない。


ガミラは会わせてやりたかった。

マリーの願いをかなえてやりたかった。

同性でもついついほだされてしまうほど

彼女は魅力的な女性だった。


ビルは反対したがガミラは強く出る。


「なんとなくこれが2人の最後だと思うの。

 お願い、ビル、話をさせてあげて」


悩んだあげく、ビルはこう提案した。


まずホテルに報告、内緒はだめ。

ここの支配人はMPSのホルダー(株主)だ。

相談して、OKをもらおう。


そして1時間でいい、部屋を提供してもらう。

その上で2人を会わせる。

あとガミラ、エリックも交えて4人で。

2人だけはマスコミにバレた時言い訳できない。

臨時の対談を組んだ態にしよう。


「わかったわ、そうしましょう」


「セッティングしてやる」


エリックはマリーに電話で連絡。

部屋を用意してもらえるまで待機だ。


「あ!クラに言わなきゃ…」


ガミラはあわてて倉田に電話する。

彼は部屋に戻って風呂の用意をしていた。


「え?マリー?さっき会っただろ?」


「違うのよ、マリーと時間をとって

 話をしてあげて、おねがいだから」


「いつ?」


「今からよ、用意してるから」


「おいおい、式は終わっただろ?

 何のインタビューなんだ?」


「クラのバカ!」


「マリーはあなたが好きなのよ」


「せっかくこうして会えたんじゃない?

 あなたは女の気持ちがわからないの?」


「ガミラ…」


「オレだって馬鹿じゃない。

 人の気持ちくらい分かるさ」


「映画と現実は違うんだぞ。

 オレとマリーの関係はビジネスさ」


「マリーの事きらいなの?」


「嫌いじゃないけど、Love じゃない。

 それがオレの気持ちだよ、だから話すのはいい。

 でもマリーが本当にオレが好きなら会わないほうがいい」


「クラ…女の気持ちわかってないね」


「会えば未練が募るだろう?

 それでもいいというのなら…」


「クラ、考えすぎよ。もっと自然でいいんじゃない?」


倉田は渋々了解した。

なんとか会ってくれそうだ。


これはこの男の性格なのかな?

嫌いじゃないなら付き合えばいいのに?

サムライの心はそういうものかしら?


ガミラはそう思いつつスマホを切った。




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