第21話 石の裏にはファナティスト


「人類協会ぃ……?」


 炎を取り払った森の中、ケイスは眉をひそめた。


「私たちは人間の可能性を信じ、魔族という不完全な生命から脱却するために活動する崇拝者です……!」


 フェイルノート2匹に吊られ、宙ぶらりんになった仮面とローブの男……おそらく魔族であろうそいつは仮面越しに胡散臭い演説をした。


 ケイスとオデットは顔を見合わせる。

 演説を信じる由もなく、どうしたもんかと考えていると、仮面ローブ男が喋り出す。


「人類にもいるでしょう? 魔族を信仰している人たちが」


 確かに、いる。


「それと同じです。少し変なんですよ、私たちは」

「自覚あんのな……」


 オデットが苦笑いを浮かべた。


「信じられないのでしたら、私たちの集落に案内しましょう。お仲間の方たちも既に到着していますよ」


 仮面ローブ男のペースになっている。右も左もわからない魔界で現れた一縷の望みに、あやうくすがりそうになっている。

 そのことに気づいたケイスは、炎竜ガラティーンの咆哮を仮面ローブ男の顔の前で浴びせた。


「なんでジョルテを殺した」


 ケイスはひどく怒っている。返ってくる答えに期待はしていない。


「……申し訳ない」


 仮面ローブ男はそう言うと、声を出さなくなった。

 仮面の目と口から血を流して動かなくなった。


「おい、どうした?」


 オデットが体を揺さぶると、後方から若い男の声が聞こえる。


「自害したのです」


 暗闇に浮かぶ仮面とローブ。さっきの男と同じ所属らしき魔族たちがずらっと並んでいた。


「人類の方にご迷惑をおかけした分の償いは、ご所望でしたら他にもありますが」


 頭領なのか、一歩出てきた一人の男が腕を広げる。


「まずは歓迎を。ようこそナワルビン島へ」


 怪しさMAX。

 信じる根拠はどこにある? 


 そんな疑心を胸に、2人の円卓騎士は人類協会と名乗る魔族の集落へ向かった。




 *




 魔族の首都アークガルダ。既に人間軍は一人残らず去っており、生々しい戦いの跡だけが残るこの場所に、数万の魔王軍が集結していた。


 この軍の指揮官は魔王軍四天王『ジグロム』。


「ナワルビンに送ったぁ~?」


 死神、道化、そんな風に表される引きつった白い顔をした魔族で、眼も白一色である。逆立った黒髪には白い触手のようなものが生えていて、右腕が無く、全体的に細身で、ひらひらとした赤い布を身に纏っている。


 ジグロムは不気味だが表情豊かで、「嘘だろオイ」と小うるさい反応をよく示す。


 対して、ジグロムに問い詰められているのは、背丈がジグロムの膝ほどしかないタコのような魔族。

 背中にたくさんの子供を抱える彼女は、人間軍を転送した魔族の母親である。


「ここの真反対ですから。しかも上空に転送したので、着地までに半分は死ぬかと」


 タコはジグロムの質問に真面目に答えている。


「そうじゃない。妙な連中がいただろ」

「人類協会ですか?」

「あー、それだ。あいつら喜んで協力しないか? 空から救世主が降りてきたーってな感じで」

「しかし、遅かれ早かれ共倒れするのでは?」

「そうだよなぁ。あ、蘇生鏡もあるか……」


 ジグロムは顎を手を当てた後、隣にいた部下に命令する。


「ニコトスに言っといてくれるか? 『部屋から出てこい』って」


 軽く言っているが、魔王軍としてはかなりの大事だ。未だ四天王の空席が埋まらない中で、戦力の限界を突き詰めるような事態になっている。


「魔王様はどこだ!? ただえさえ、ドラガとルルテミアが死んで色々とこんがらがってるってのに」


 ジグロムのそれはもう愚痴だった。


「で、何人飛ばした」

「およそ三千人です、円卓の祝福を受けた者は3名いたようで」

「誰と誰と誰」

「イエルカ、オデット、ケイスです」


 タコが騎士の名を羅列する途中で、ジグロムは目を丸くしていた。


「マジ? オデットいたの?」

「はい」


 ジグロムは自らの右肩を叩き、ヘラヘラとした笑い声を上げる。


「こりゃ、鬼ごっこがはかどるね」


 そしてタコを豪快に蹴り抜いた。


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