第24話 乱れ舞い散る生存戦争 ②
ルルテミア、死す。
(え……私…………これで出番終わり……?)
蘇生から約1分後の出来事だった。
「………………」
イエルカはついブチ切れてしまった自分を律するために剣を納め、長い髪をかきあげる。
(もう少し様子見するつもりが、想定より早く出てきてしまった。ふざけやがって……)
かつて仲間殺しの密約の一人目として殺されたルルテミアが生き返ることは、イエルカにとっては言語道断。生かしておくことはできない。
海面を転がっているルルテミアの生首を蹴ってやりたいが、今はやることが山積みだ。
四天王はもう一人いる。
「アぁ~、首を切るのは見せしめのやり方だろ。脳に魔法を組み立てる時間を与えちゃダメだ」
ジグロムは余裕そうに垂れ、生首など気にもしていない。
「なんだ、怒ってんのか?」
「…………」
その通りだと言う代わりに、イエルカは無表情で跳んだ――。
イエルカはまず、ジグロムの隣にいた緑肌の魔族の脳天にナイフを投げて一人を殺し、もう一人の目を突いて頭部をもぎ取り、最後の一人の拳を避けて肩に乗ってから首をねじ切った。
「!」
さらに流れるようにしてジグロムの首を掴み、集落の家屋のほうへ投げつける。
「ぐおっ……!!」
家屋の壁が崩れ、中から炎が飛び出した。
ジグロムは地面に倒れる。
「ヘハハッ、やっぱイカれてるよお前は……!」
イエルカの異常な身体性能の根底にあるのは、計り知れないほどの度胸と覇気。
「言え。私を迎える策は何だ」
イエルカはジグロムの腹の上に足を乗せた。
「……フハッハッ!! ハァッハッハッ!」
「君が私の来襲を予測していない訳がない。この私を封じる
「戦力で勝る俺が何を話す!? お前はまず、誰をどう動かすかを考えなきゃなぁ! それが指揮官の仕事だろう!?」
ジグロムは笑い続ける。軍艦20隻が待っている前で誰が降参するのか。
イエルカとてあの艦隊には勝ちきれない。3回ほど死なないと無理な話だ。
「それは君を殺してから始まる事だ」
だから1回ぐらい死ぬ対価にジグロムを道連れにしておこう、という考えになっていた。
魔族を殺すことに
イエルカの筋肉が張り詰め、手が固く
「騎士王! こっちを見ろ!」
タイミングを見計らったかのようにジグロムの軍隊が動いた。
後方から飛んできた声にイエルカが目をやると、一隻の軍艦の船首付近に知っている人物がいた。
「イエルカ……様……!」
あの黒髪と切れ長の目はイエルカの側近サモナだ。
枯れ木のような魔族に捕らわれ、喉元を剣に狙われている。要は人質というやつだ。
(サモナ……生きていたか……!)
この魔界で生きていたのは幸運だ。
「動くな! この女がどうなってもいいのか!!」
しかし人質になっていることは……
(え……!? いいの!!?)
幸運な気がしてきたイエルカだった。
(おいおい、サモナは私の側近で上級魔法使いだぞ!
何もイエルカが殺したい相手は円卓騎士だけではない。サモナも殺害リストの上位。
魔界で遭難中という状況下でサモナを失うリスクを鑑みても、けっこうアリだな、としか思えないのがイエルカだ。
ジグロムに背を向け、一歩、二歩、イエルカはグングン歩く。
サモナが「私のことは気にしないでください」とか言っているが、イエルカの耳には入らない。
「は……え……!? お、おい止まれ! あと一歩でも動いたらコイツの首が飛ぶぞ!」
これは逆効果だ。
「やってみろ!!!」
この場合のイエルカは本当にやって欲しかった。
気迫のおかげかビビる魔族たち。地味にサモナの好感度も限界突破しつつ、剣は着実にサモナの喉元に近づいていく。
「くっ……!」
枯れ木のような魔族が決断をした時、間一髪、その魔族は何かに吊られて海に投げ込まれた。
さらに何も無い空間から炎が走り、サモナのいる軍艦を襲う。
火炎の荒波に帆は燃え上がり、甲板は吹き飛ぶ。船上の魔族たちはひどく慌てていた。
「何だと……!?」
イエルカも少し慌てた。
「やりぃー! うちらのガラティーン舐めんな!」
「バカ喋るな!」
猛火の上、空から聞こえた声はケイスとオデット。
ケイスが炎竜ガラティーンを操り、オデットが全員まとめて透明化しているのだ。
さすがの火力か、軍艦一隻が土くれのように破壊されていく。
「イエルカ様ぁ~っ!」
一方で甲板から飛び降りたサモナは、水上歩行魔法で海面を走ってイエルカに抱きついた。
「サモナ! よくぞ生きていた!」
白々しくはない。イエルカは気分を変えることにしたのだ。
(オデットとケイスめ……まあいい。しかし魔王軍も一枚岩ではないぞ。各艦にはそれなりの戦力がいるはず。私がこの状況をひっくり返せる切り札になり得ないのが戦争の難しいところだ)
炎上する軍艦を白いドーム――防護壁魔法が囲った。こうなっては竜も手は出せない。
「ふむ……ならばこちらも使わせてもらうか」
イエルカが海面を歩き始めたところで、オデットが空から叫ぶ。
「ちょっ、その鏡に触れたら死にますぜー!」
「ああ、知ってるさ」
「!……まさか」
何も難しい話ではない。実験のようなものだ。
「私は死ねない。ならばこの鏡を反動無しで使えるのではないか……という希望だ」
イエルカは指先で蘇生鏡の水面に触れた。
(蘇る人間はほぼランダムのようだが、私の知る範囲から選ばれるのならば、当たりはあの男。仲間殺しの密約を知らず、圧倒的なパワーがあり、御しやすい…………)
皆ご存知、あの男を引き当てるまでイエルカが蘇生鏡を使い続ければいい。不都合な者は蘇り次第、殺していき、最良の戦力を確保する。
(さあ来い! カミロ!!)
蘇生鏡が白く光り、水紋が激しく揺らめく。
一回目にして成功か。指先、手、腕、順々に見えてきたその男は、魔王軍兵士の背筋を凍らせた。
これからこの土地は焼け死ぬのだと、絶望と希望を混在させた。
呻き声を伴い顕現した白い皮膚、剥き出しの筋繊維、巨躯の悪魔、大災害の具現化。
またの名を『地獄のドラガ』。
よりにもよって、殺したはずの四天王が復活した。
ドラガを眼前にすれば、イエルカの顔が歪むのも無理はない。
(いやお前かい!!!)
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