第11話 回想録:新たなる円卓
【人類】
騎士王イエルカが円卓騎士エサノアを殺害し、人肉シチューを兵士になすりつけた日の出来事。
「こちら、どうしましょう」
兵士たちに捕縛されて突き出されたのは、死んだはずのエサノアだった。
だが、イエルカは見落とさなかった。
目の前のエサノアの吊った眉、荒い息づかい、外側に向いた足。
裸まで見せ合ったのだ。イエルカには絶対的な確信があった。これはエサノアではない、と。
「…………誰だ……貴様は!!」
イエルカの本気の怒りに兵士たちがザワつき始める。
前代未聞の大事か、そう思って怯えてしまった兵士の手がゆるみ、その隙にエサノア(仮)はとっさに弁明をする。
「私はトスペィラ様の従騎士で、アネスと言います! 見てくれはこうですが、エサノア様でも魔族でもありません!」
その者の言う通りエサノアとは似ても似つかない。声のトーンは穏和ながらも強い芯があり、表情には固い意志がある。
アネスという名は無名だが、エサノアではないことは確定した。
「ならばその姿、説明してみせよ。虚言一つで首が飛ぶことを忘れるな」
イエルカは剣を抜き、アネスの鼻先に向けた。
答えを待つ。別に誰もアネスの返答を鵜呑みにするつもりはなかった。その状況をわかっていも、アネスの眼差しは真っ直ぐだった。
「……私は…………円卓騎士です」
それが最終回答だと、彼は示してみせた。
虚言を忠告した直後の虚言か、ツッコミ待ちか。
ハシゴを外された気分になり、イエルカが「は?」と片眉を上げた、その時だった。
「……!」
エサノア(仮)の骨格や衣服が柔らかに変形し、色や質感が違うものにグラデーションで変化する。
そして化けの皮の下から現れたのは若い青年。
「『他人の一部を摂取することで約10分間だけ他人になれる』……そういう力を持っています」
ややクセのついた黒髪にキリッとした目鼻立ちの爽やかな顔。チュニックを着た軽装に身分の高さは見られないが、彼の瞳には何の汚れもなかった。
「…………」
イエルカは昔の友人に似てるなと思いつつ、一旦信じることにして剣を納める。
「……年齢は」
「16です。おととい誕生日でした」
「それはおめでとう。で、なぜ隠していた?」
「え? 陛下からのプレゼントが!?」
「誕生日のことではない、能力のことだ。円卓騎士になりたくなかったか?」
「……決してそのような事は……なくてですね」
アネスははにかむ。
「自分の力のみで強くなった後にこの能力を明かせば……カッコいいかなと」
唖然。テント内にいたアネス以外の人間は一様にして静まり返り、この重大な場面で振り回されることで思考回路がバグっていた。
(なんだそれ!? 殺すぞ!!!)
イエルカだけは面食らいかけたのを
これならまだ円卓騎士が嫌だったという理由のほうがマシかもしれない。
「うぅむ……しかしだ、君も知っての通り、我々に出し惜しみをしている余裕はないのだ」
イエルカは何とか平静を取り戻し、腕を組んで話を続ける。
戦争の真っ只中に強みを出さない選択肢がどこにあるか。戦力的にも世間的にもアネスは便利な存在だ。
(円卓騎士2人を失い、民は不安がるだろう。この朗報を広め、アネスをそれなりに使い……サクッと殺そう)
でも結局のところ、円卓騎士の魔力使用量が高い以上はアネスもいつか殺さなければならないんだよね。
「この者を早急に王都へ送れ」
「はっ!」
命じられた部下がアネスを縛ってから立ち上がらせ、背中側から警告する。
「お前の身分および能力が確認され次第、円卓騎士に任命される。もし拒むのであれば能力の危険性を考慮して幽閉する。それも嫌なら処刑だ。わかったか?」
「……はい」
アネスは仕方なしに飲み込んだ。
イエルカはイスに腰を下ろす。
「君が円卓騎士に就任した場合は即座に集中型の訓練を受けてもらう」
「訓練……?」
「我が師匠のもとで戦闘の全てを学べ。まあなんだ、私にも悪気があるわけではないが……」
イエルカは申し訳なさそうに目線を外し、
「幸運を……とだけ言っておく」
一切期待できない言葉を託してアネスを見送った。
「えぇ……」
肩を落としたアネスがテントから出る寸前、彼はぐいっと振り返る。
「あの、陛下」
「なんだ」
「将来有望な円卓騎士として頼みがあるのですが」
「急に乗り気だな」
「私は唾液を摂取することでも能力の発動が」
「この者を早く連れていけ」
こうして『模倣の騎士アネス』が円卓の一員に……いや、まだ問題があった。
(あ、そういえばエサノアの肉に気づいたか探りを入れてなかったな…………さすがに大丈夫か)
他人の一部を摂取するという発動条件からエサノアの殺害がバレる可能性もある。
改めて、『模倣の騎士アネス』が円卓の一員に加わった。
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