Episode.13-3『うさぎの子と奇襲』

 車を走らせてC区域を抜けるとセリカがE区域の行き方を説明し始めた。




 『B区域はそのまま横切っていくわ、A区域についたらA区域の中を通って橋がある方の道に出るわよ。』


 「わかった。」


 『異界のゲートを通ることもできるかもしれないけれど安全に通るならこのルートしかないわ。』


 「詳しいな。 いろんな場所を行き来してきたのか?」


 『ふんっ…教えないわ。』


 「まぁいい………道を教えてくれるだけ助かる。」


 『人間になんか――――――感謝されたくないわよ………。』




 セリカの声は低く落ちて、暗くなっている様子を感じた。


 セリカの現状の答えもE区域にあるだろう。

 しかし、セリカにとってきっといいものではないだろう。


 だけど今はE区域に向かい進み続けるだけだ。




 「セリカ、E区域について少し教えてくれないか………?」


 『どうしてあんたはE区域にこだわるのよ?』


 「感情が俺を突き動かすんだ。」


 『なんなのよそれ?』


 「自分自身でもわからない。 そして何か大切なことを忘れている気がするんだ。」


 『あんな腐りきった場所………。』


 「そんなにひどいところなのか?」


 『………行けばわかるわ。』




 車のバックミラー越しにセリカを見ると顔を逸らしていた。

 E区域についてやはり答えたくはない様子だった。

 誰でも言いたくないことの1つや2つはある。



 これ以上は聞かないほうがいいかもしれない――――――。




 沈黙が続く中で2時間ほど走らせているとセリカは先の方の少し左側、北東側に指をさして喋り始めた。




 『あっちの道よ。 あの道からB区域を横切ってA区域にそのまま行くわよ。』


 「了解だ。」


 『…E区域の後、私をB区域に送ったらその後はどうするのよ。』


 「ん? そうだな………その時考える。」


 『ふーん。 ま、あんたがどうしたいのかは知らないけど好きにするといいわ。』


 「ああ。」




 左に少し曲がり、B区域を横切ると瓦礫が多く、道もあまりよくないが通れないことはなさそうでゆっくり走らせていく。


 1時間ほど走らせるとまたセリカは左の方の道に指をさし案内する。




 『今度はこっちよ。』


 「わかった。 今どこら辺なんだ?」


 『B区域を横切ってA区域に着くところよ。 …あそこのビルがたくさん崩れてる場所よ。』




 セリカは前方を指さした所を見るとビルが多く存在しているがほとんどが半壊と全壊している場所で、A区域は多くの建物が存在した跡や破損と大破した車も多い。

 ビルは穴だらけで劣化や衝撃によるひび割れがあり、殆どは崩れ落ちて倒れたものも多く、死角になっている場所もある。

 道もひどく荒れていて、運転するのも大変そうだ。


 A区域の奥には噂に聞いていた異界のゲートが見えて、円形状に赤く薄暗い場所にはたくさんの瓦礫が浮いているのがわかる。


 異界のゲートの方が気にはなるが今はE区域が最優先だ――――――。




 「ここにまず入って行くのか…?」


 『そうよ。』




 A区域に近づいて行くと重たい空気に襲われて背筋に悪寒を感じる。

 とても嫌な感じだ。




 「…嫌な予感がするが。」


 『私が来た時はそこまで魔物は居なかったわ。 大丈夫なはずよ。』


 「やはりいるのか…魔物が。」


 『今いるかはわからないわ。 それに無法地帯になんてどこにでもいるわ。』




 セリカの声を聞いていると悲しさを感じた。

 突然の感情に違和感を感じて警戒心が高まる。


 セリカは何も感じ取っていない様子で普通に座って周りを見ているが心配だ。




 「…念のため警戒しといてくれ。」


 『別に大丈夫よ。』


 「頼む………。」


 『何なのよ……………わかったわ。』




 セリカは嫌々ながらも戦闘準備を始めた。

 車内に乗せてあったライトマシンガンのコッキングレバーを引き、ハンドガンを手元に持っている。


 すでにA区域手前まで来ていて、悲しい感情と嫌な予感はどんどん強まる。




 「A区域に入るぞ…?」


 『いいわよ。』




 A区域に入ると道は剥がれたアスファルトや建物が崩れたコンクリートの瓦礫が多く、車のアクセルを緩めてスピード60kmを30kmまで落とすもガタガタと音を立てて車体が揺れる。

 セリカはハンドガンを持ったまま周りをよく見ている。




 「道が悪いな………。」


 『危ないッ――――――――――!!』




 セリカが叫んだ瞬間、左側から魔物が跳躍による飛びかかる音とセリカの方から銃声が3発聞こえ、血しぶきと共に左方向を見るとこちらに襲い掛かってきたシャドウは弾丸が2発命中していて血を流しながら倒れこんでいった――――――。




 「ッ――――――――――!!」


 『よそ見しちゃだめよッ――――――!!』




 前方から出てきたシャドウをセリカはハンドガンで撃ち、1発目を回避している間に2発目で頭に撃ち込み仕留めてシャドウは血を流しながら倒れた。

 倒れた魔物を避けつつ急いで前進しようとするも道がひどくてスピードが上げられず、スピードは出せて40kmで、これ以上スピードを上げてしまうとタイヤの操作が効かなくなりハンドルを取られて車がスピンしてしまう可能性がある。


 セリカは後部座席から顔を出して左手で奥の左方向に指をさして指示してきた。




 『あそこに曲がる道があるからそこを曲がって!!』


 「これ以上はスピードが出せないぞ!!」


 『わかってるわよ!! 魔物は私がやるわ――――――!!』


 「援護は任せたぞ――――――――!!」




 道路にある瓦礫やアスファルトの亀裂にハンドルを取られないように避けつつ運転してスピードを維持し続け、後部座席からハンドガンの銃声が何発も聞こえる。

 今は運転に集中している為、後部座席にいるセリカの方を見ている暇はないがコンクリートの壁をぶち破り崩れる音とバサッバサッと羽ばたく羽音、そして四足歩行で素早く走る音が聞こえ、ブローダー、デビル、シャドウのすべての魔物が後方から来ているのがわかる。


 ガタガタと車体を揺らしながら進み続けて後ろからはリロードの音と銃声が鳴り響き続ける。

 魔物が途切れず出てきているのが感じられ、今度は前方ビルの死角からデビルが2体出てきた。




 「前方にデビル2体いる――――――!!」


 『わかってるわよッ――――――――――!!』




 セリカの方も余裕がなさそうでこのままだとやられてしまう。


 ハンドルを左手だけで操作して右手で右のホルスターからハンドガンを取り出し、前方にいるデビルに向けてハンドガンを撃つが避けられてしまう。

 デビルは2体とも槍を生成し始めている。




 「セリカ――――!!」


 『この距離じゃ倒せないわ! 右側の方を撃って――――――――!!』


 「ああッ――――――――――!」




 こちらとの距離が一番近い右側のデビルの方を撃つと、弾丸はかすりもせずにデビルは回避をするが、それに合わせセリカはデビルが回避している隙にハンドガンを撃ち、弾丸はデビルの頭に命中して血しぶきを流しながら落ちてくるがもう1体のデビルから槍が飛んできた――――――――。




 「まずいっ――――――!!」




 大きく右にハンドルを回して回避するがセリカは態勢崩して座り込んでしまい、飛んできた槍はジジジジ――ドンッと音を立てて車体に槍がかすり、ドアに傷ができる。




 「すまないッ――――!」


 『構わず左も撃ってッ――――――――――!!』




 左側のデビルにもハンドガンを構えて撃つと、弾丸をデビルは回避するがセリカはそれに合わせ撃ち、弾丸はデビルの頭に命中して血を流しながら倒れ落ちた。




 『人間!! そこの角を左に曲がって!!』




 前方の曲がれそうな場所からブローダーが1体、歩いてゆっくりと出てくる。

 倒さなければ避けて通れなさそうで、車を減速してしまうと後ろから来ている数体の魔物に襲われてしまう。




 「くそっ! どんだけいるんだ!!」


 『人間ッ――――――!! ブローダーは高威力の武器じゃなきゃ倒せない!!』




 ブローダーはこちらに振り向き、両手で顔を覆いながら突進し始めた。



 やるしかない――――――――――――。




 「任せろ――――――――――!!」




 急いでハンドガンを右のホルスターにしまい、ハンドルを右手で持って運転を続けて、左手でホルスターからリボルバーを取り出し、ブローダーに手を伸ばして構え、撃った――――――。

 強い反動に腕が真上まで上がってしまうが、1発目の弾丸はブローダーの腕右に命中して血を吹きだしながら右腕が炸裂し、吹き飛んだ。



 まだだ――――――――――――――――――!!



 反動を抑えて再び構え直し、2発目を撃つが今度は左腕で防がれてしまい同じく左腕は炸裂して吹き飛んだ。


 ブローダーは目の前まで近づいていて、突進が当たる前に3発目を撃つと頭に命中して、頭は炸裂して吹き飛び、倒れて動かなくなった。

 倒したブローダーをすぐに避けて、セリカに指示されていた角を左に曲がった。




 『そのリボルバー、ミーアから聞いてたけどすごい威力ね!』


 「ああ! スピード上げるぞッ――――――!」


 『いいわよ、そのまま進んで!! 橋に着くはずよ!!』




 曲がった先の道はアスファルトの亀裂や瓦礫などが少なく、スピードを80kmまで上げた。

 セリカは乗せてあったライトマシンガンを持ち上げて立ち上がり、左足をシートの上に乗せてライトマシンガンのストックを右腰に通して構えた。

 さっきまでは武器を持ち変える暇がなかったがスピードを上げて余裕ができて持ち変えたのだろう。


 後ろにはデビル、シャドウ、ブローダーがたくさん集まって一番はシャドウ、二番目にデビル、三番目にブローダーが追いかけてきている。

 脇道からも魔物が出てきているがスピードを出している為、そのまま追い越して切り離していく。


 セリカはライトマシンガンのトリガーを引くとドドドドドドッ――――――――っと重くて激しい銃声が鳴り響いて後ろにいる魔物たちに向けて乱射し始めた。




 『はああああぁぁぁぁぁぁッ――――――――――――!!!』




 セリカの叫び声と鳴り響くライトマシンガンの銃声と共に魔物は弾丸を避ける間もなく、弾数に押されて被弾して血を流しながら倒れていく。


 爪を伸ばしながら飛び掛かってくるシャドウや飛んでくる槍やをハンドルを回して回避して右のホルスターからハンドガンを取り出してデビルとシャドウに構えて撃つが弾丸は避けられてしまう。

 しかし、その隙にスピードを100kmまで上げて追い抜かしていき、ビル群から抜けてA区域を出て魔物から離れていくと追ってくるものはほとんど倒れていて他の魔物は追いつけずに離れて行った。

 セリカは撃ち切ったライトマシンガンを投げ捨ててライトマシンガンは地面を転がっていった。




 『こんなもんね。 …あんた人間のわりに感がいいわね。』


 「何故か悲しさを感じたんだ…。」


 『悲しさ? あんな場所で感じる物じゃないわよ。 相変わらず変な人間ね。』


 「そう…だよな。 でも嫌な予感がしたのは当たったな。」


 『そうね。 そのまま橋を抜けたらE区域はすぐ着くはずよ。』


 「あと少しか…。」




E区域に続く橋へと車は走り続けて進んでいく――――――――――。










 『To be continued――』

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