Episode.10-2『変わらぬ世界と神の子』


 何もできなかった俺に何故信じてると言える――?

 理解できない――――――――――。




 『………あと教えなければならないことが一つ、魔力増強剤の本当のことを。』

 「なんだ……………?」


 『まぁこれは今までも言わなかったんだけど、魔力増強剤は本来ある魔力を暴走させ増幅する。 だから魔力増強剤を使えば使うほど能力を使うごとに副作用が出るようになる。』


 「副作用………グレイスが肥大化したのもそのせいか?」

 『そう、他にもいろいろ副作用はある。 自我の崩壊、魔力暴走による体の崩壊………。』




 年老いてなかったグレイスとアストラルが小さいのもその副作用のせいなのだろうか。

 魔力増強剤を1本使用した俺は何も問題なかったが災いの子の魔力増幅でうさぎの耳が生えている。

 魔力増強剤の影響かはわからないが魔力増強剤はかなりリスクがあるようだ。

 D区域の結界もルエが魔力増強剤を使用し続けて死んだとレイから聞いている。




 「D区域の結界がなくなったのも魔力増強剤のせいであってたんだな………?」

 『うん………? 副作用で死んだ子がいるの?』




 この話は繰り返される中でアストラルに1度も話していなかったようだった。




 「詳しくはわからない、魔力増強剤をずっと使っていたのは確かだ。」

 『そう………まぁ私も限界は近い…。』


 「まさか………!!」




 嫌な予感が頭をよぎる。

 その答えはすぐにわかった――――――。




 『………時間を戻す度に魔力増強剤を使用してる。 もしあなたがまた望むのであれば魔力増強剤を私に使用して。 今回はまだ耐えれる………でも次からは厳しいかもしれない。』


 「死ぬってことか………?」

 『そうかもしれない。 能力を使うごとに体が蝕まれている。』


 「俺はもう何回も助けられていないんだろう………?」

 『でもあなたは戻ろうとする。 たとえ変わらぬ世界だとしても………絶対に。』


 「次失敗すればアストラルまで失うんだろう…?」

 『能力を使わなければ問題ない。 だけどもし、次に能力を使うのであれば本当にもつかわからない。』




 どうする――――――?

 また戻ったとしても救える可能性はない――――――――――。


 もう10回以上変わらないまま失敗していることと次失敗すれば、その次はないかもしれない。

 アストラルは魔力増強剤の副作用で蝕まれている。


 そして時間を戻したとしても唯一アストラルの記憶だけは残っているがアストラルは拘束された状態に戻る為、助けを求めることもできない。

 だからこそ俺が何とかしなければならないが時間を戻せば記憶はすべて消え去る。


 微かな違和感と微かな記憶を除いて――――――。



 俺は――――――俺に出来ることは――――――――――――――。




 「くっ………。」

 『私のことは気にしないで。 ………どうせもう長くはないから。』


 「嫌だッ――――――!! 何も救えない世界なんてそんなの望まないッ!!」

 『でもずっと同じ結末。 変えようと何度繰り返しても………。』


 「どうすれば………どうすれば二人を………みんなを救えるんだ…!」

 『みんなを救うなんて考えちゃいけない………。 戻る時間にも限界がある…残された時間はあまりない。』



 『さあ、選んで――――――――。』






 選ぶ――――――?


 選べない――――――――――。


 どっちも助からない未来なんて――――――――――――――。




 「俺は………俺はッ――――――!!」




 アストラルに近づいて座り、アストラルを抱きかかえた――――――。

 アストラルは少し驚いている。




 『………? どうして私を? ………浮気?』

 「違う、ラナ・フォリアもラナ・アストラルもセリカもみんな全員救って見せる………!」


 『そう……………。』

 「心に刻んでやる、今度こそ――――――。」




 アストラルを強く抱きかかえた――――――――――。




 『みんなは助けられないかもしれない。』

 「それでも!! 次がまた同じだとしてもッ!! どんなに世界が繰り返されていたとしてもッ――――――!!」




 アストラルは小さく微笑んで安心した顔をみせた。

 少し喜んでいるようにも感じる。




 『………バカみたい。 みんなを助けるなんて………いや、でもありがとう。』




 「約束だッ――――――!!」




 見張りをしていた時に夜空を見上げ、星々を見た時に感じた約束の意味。



 そう、この約束だ――――――――――。



 記憶を心の奥底に刻み込むように言い聞かせて抱きかかえた体を離した。




 『約束………。 でも…いや、やっぱり何でもない。』




 アストラルは何かを言おうとしたが言わなかった。




 「ん………?」

 『…早く魔力増強剤を持ってきて。』


 「ああ………わかった。」




 アストラルはこちらを急がせるように言った。


 何か思うことがあるのだろうか?


 答えがわからないまま立ちあがって魔力増強剤を取りに戻り、扉から部屋を出た瞬間、こちらに聞こえない程度にアストラルが呟いていた――――――。




 『……………もし…もしも、あなたが私を選ぶのなら――――――。』




 魔力増強剤が入ったアタッシュケースがある場所に移動してしゃがみ、アタッシュケースから魔力増強剤を1本手に取った。




 「今度こそ………いや、これが最後だ!!」


 


 魔力増強剤を強く握り絞めて固く決意した。



 もう辛い思いはさせたくない。


 同じ過ちも――――――――――。



 アストラルのいる場所に戻るとアストラルは首を右に傾けて差し出した。




 『さぁ………刺して。』




 魔力増強剤の先端部分を押すと反対側から針が出てくる――。

 ゆっくりとアストラルの左側の首に魔力増強剤の針を刺すと痛みで顔を一瞬歪ませた。




 『んっ……………。』

 「大丈夫か?」


 『平気。』




 魔力増強剤を注入し終えて針を抜き、魔力増強剤をそのまま近くの床に落とした。

 アストラルは左手で左側の首を押さえて多少辛そうにしている。


 繰り返して何本も刺しているせいだろう。

 体に悪影響を及ぼしているのには間違いない。

 副作用で今死ぬ可能性だってある――――――。



 少しするとアストラルは軽く深呼吸をして落ち着きを取り戻し、首から左手を離してこちらを向き、声を掛けた。




 『準備はいい…?』

 「待ってくれ……………。」




 ラナ・フォリアを降ろしてラナ・アストラルの隣に座らせ、右腕で支えた。

 ラナ・アストラルは左腕で支えてそれぞれ向かい合う形でラナ・フォリアとラナ・アストラル、そして自身の頭同士を密着させた。




 「準備はいい――――――――――これで最後にする。」

 『期待はしない。』


 「絶対に約束だ――――――。」




 アストラルは能力吸収で得た時を戻す能力を使うと時間が戻り始めて視界が歪んでいく――――――――――。

 視界が一点に全て飲み込まれて行くような感覚だ。


 アストラルの呟く声が聞こえる――――――。




 『けど……………。』




 世界が巻き戻っているのを感じる――――――――――。


 巻き戻りながら徐々に記憶もなくなっていく。

 E区域でアストラルとの会話やグレイスとの戦闘、異界のゲートでのエステルとの戦い、異界のゲート手前でルルとの戦いでクリリアを失う記憶、A区域での大量の魔物と戦いと中でセリカが撃たれる記憶、B区域でのレーネによる前世の記憶やディーナやフィーナとの会話、C区域でのレイとミーア再開と大爆発。



 そしてD区域――――――――――。

 魔物に槍を刺され死にかける記憶、3人の生徒をラナがナイフで殺す記憶、ラナの両親が殺される記憶…ラナとの思い出………ラナと初めて出会う日……………。




 (嫌だ――――――。)




 強く決意していた救いたいという感情も全て消えていく――――――。




 (嫌だッ――――――――――!!!!)




 全ての記憶が無くなり視界は暗闇に包まれ、何も感じなくなった中でアストラルの最後の声が聞こえる――――――。









 『待ってる――――――――――――――――――。』











 最後の声が聞こえた記憶も全て消えた――――――――――。











 ラナと出会う日の朝――――――――――。

 D区域の朝のアナウンスが流れている。


 寝ている中で自分はうなされながら声が出る。




 『今日は世界が滅んで45年。』


 「――――――さい。」


 『今だ訪れることのない平穏…しかし、人類はいつの日か勝利する日が来るでしょう。』


 「うるさい………。」


 『反撃の時は近づいています。 今こそ立ち上がるのです。』


 「うるさいッ――――――――――!!!!!」




 怒りと共に目が覚めて起き上がった――――――――――。

 左手を顔に当てて怒りと共に歯を食いしばった。




 「初めて見る夢…いつも見ていた悪夢じゃない………。」


 「悪夢…?」


 「そんな夢見ていたっけか…?」




 いつも見ていた悪夢を思い出せない。

 それどころか夢の内容を全く覚えていない。


 混乱しているのか?


 微かに残っていた夢の記憶、目を瞑った白いうさぎの災いの子――――――。



 誰だろう。


 ラナ……………。



 少しして落ち着きを取り戻し、顔から手を離してベットから体を出し、座って今日のことを考え、ふと呟いた。




 「そういえば…今日は新しく戦闘教育学校に入部する子、ラナが来る日か…。」




 疲れと共にラナという言葉が頭から離れず、自分は再びベットに横になった。




 ラナ……………?




 「だけど何だか………疲れたな…。」




 助けろ………。




 「もうなにもしたくない………。」




 思い出せない………。




 「もう………誰も…失いたくない…。」




 救えない………。




 「誰を……………?」




 無力だ……………。




 「どうでも………いい…。」




 何もできない……………。




 「もう一度寝よう………。」




 夢も――――――。




 「怒り……………。」




 希望もない――――――。




 「止まらない怒りだ………。」




 だけど――――――。




 「そうだ………。」




 行かなきゃ――――――――――!






 「この怒りと共に俺は!!」











 E区域へ――――――――――――――――――――――!!













 『To be continued――』





あとがき↓↓↓












――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


あとがき




ここまで読んでいただきありがとうございます!!


Episode11~は全く別のルートになり、ラナ・アストラルによる時間ループは終わりです。


異界のゲートやエステルの秘密、そして魔物の秘密などが明かされていきます。

まだ目の前に登場していないキャラクターや本当の始まりなども明かされていき、本格的な戦いになっていきます。



ですが次回から少し時間がかかると思います…でもできるだけ早くできるようがんばります!

Episode11~の表紙絵も作る予定なので完成したら近況ノートに投稿します!




お楽しみに!!

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