Episode.10-1『変わらぬ世界と神の子』
『Episode10.変わらぬ世界と神の子』
アタッシュケースから魔力増強剤を1つ取り出してラナの元へ戻った。
「ラナ……………お願いだ…。」
魔力増強剤の先端部分を押すと、反対側から針が出てくる。
「これしか………。」
しゃがんでラナの首元に魔力増強剤の針をゆっくりと刺して魔力増強剤を注入した。
魔力増強剤のガラス部分から見える液体は徐々に減り、液体はラナの体に全部入った。
しかし、時間が経過しても変わらず息は止まったままだ――――――。
しばらくの間静寂が続いた。
力なく声がこぼれた――――――。
「また………全部…………………。」
手の力が抜けて魔力増強剤が手から離れ落ち、落ちた音と転がっていく音だけが聞こえる。
「壊れた………。」
全身の力が抜けて座り込んだ――――――。
「結局誰も救えない………誰も救えなかった…。」
「不死身だったラナでさえ………。」
「俺は……………無力だった…。」
「何もできなかった…………………。」
両手で顔を覆い、両手の隙間から見える変わらないままのラナ――――――。
自身の無力さのあまり感情が収まらない。
「俺の………せいだ…。 全部俺のせいだッ――――――!!!」
「ラナの両親も! レイもミーアも! セリカも!! クリリアも!!! 他の災いの子たちもッ――――――!!!」
「みんな…みんな俺のせいだッ――――――――――!!」
「俺があの日事故らなければこんな世界生まれなかったッ!!」
「うさぎと出会ったあの日から俺はなにもできなかったッ――――――!!」
手を力強く握りしめて叫んだ――――――――――。
「くそがああああぁぁぁぁぁッ――――――――――!!!」
握りしめた拳を振り下ろして地面に叩きつけると地面が割れる音と共に地面がひび割れた――――――。
叩きつけた拳からは血が滲んだ。
感情がコントロールできない。
怒り、悔しさ、無力さ、悲しさにあふれて涙がこぼれ落ちた。
「くそっ…くそぉっ………。」
「また……………何にも変えられなかった………。」
ふと、出る言葉に違和感を覚える――――――――――。
「また………? 変えられなかった…?」
気が付くと左側にあった強固な鉄製の扉に視線がいっていた――――――。
「俺はこの場所を知っている…? 混乱しているだけか………?」
記憶が曖昧で、またデジャブを感じる――――――――――。
ラナを背負って左側にある強固な鉄製の扉へ向かった。
鉄製の扉は左右にスライドで開くタイプの扉で、扉の右側にはカードキーを縦にスライドさせてスキャンする場所がある。
「カードキー………確か研究テーブルの近くにあるんだったな…。」
手で頭を抱えるが、近づけば近づくほど確かな記憶が頭によぎってくる。
偽りではない記憶――――――。
「……………何の記憶だ?」
研究テーブルの付近へ移動して研究テーブルの近くを探すと落ちているカードキーを見つけた。
まるでそこに落ちていた記憶があったかのようだ。
「何故この記憶がある………?」
しゃがんでカードキーを手に取って再び強固な鉄製の扉へ戻った。
扉の右側にあるカードスキャナーの場所に立って拾ってきたカードキーを縦にスライドさせ読み込ませた。
ピピッと認証音を立てると開閉音と共に強固な鉄製の扉は白い煙を出しながらゆっくりと左右に開いて部屋の中が見える――――――。
周りにはモニターと制御盤がたくさんあり、ぶら下がっている配線と乱雑に繋がっている配線もたくさんある。
中心には柱があり、配線が繋がっていてそこには裸で両手足が鎖でつながれて座っている災いの子がいた――――――――――。
両手は鎖に引っ張れて頭の上まで両手が上がっている。
両手足についている物は過去にセリカの首につけられていた物とほぼ同じだ。
黒みがかった灰色のドーナツ形の装置。
小さな四角い緑色の発光と細長い透明な部分があり、透明な部分には赤い液体が入っているのが見える。
そしてこの災いの子は前世で見たことがある――――――いや違う、確かな記憶があって覚えている災いの子だ。
ラナとそっくりの災いの子、白い目と白いロングヘアーでロップイヤーの災いの子。
目には生気がなく、表情もないがずっと半目を閉じたジトっとした目でこちらを見ている。
前世で見た時から少なくとも45年は時間が経過しているはずだが姿は幼いままでラナと全く同じ身長。
「覚えている……………。」
声はラナよりも少し低く、こちらに喋りかけてくる。
俺は白い髪の災いの子にゆっくりと歩いて近づいていく。
『だって………あなたはもうここに来たことがある。 でも忘れていた。』
「あぁ…………………。」
『私はラナ。 ラナ・アストラル。 どれぐらい思い出せた?』
ラナ・アストラル――――――――――。
前世の記憶を見て聞いた名前と同じだ。
エステル・サーストがうさぎのラナを作り変えてこの姿になった子だ。
「前世の記憶とここのことを覚えているぐらい………だ…。」
『同じ………何回やっても同じ。 もう諦めたら…?』
何回も同じ――――――――――。
この言葉に俺は嫌な予感を感じてしまい動揺してしまう。
「何をだ………?」
『時間を巻き戻す……………そしてまたここへ来る。 私の能力、それは能力吸収。 あなたと同じ。』
時間を巻き戻す――――――巻き戻されていたのだろうか。
度々違和感や見えていたことはあった。
ラナの腕を吹き飛ばされて意識が飛んで見えたアストラルの姿、レーネに記憶を見られた時に起きたノイズ、デジャブを感じていたこと、記憶が度々蘇っていたこと、不自然な発言をしていたこと、その影響だろうか。
「時間………同じ…?」
『私には別の魂が宿ってる。 肉体は同じかもしれない…けどエステル・サーストがうさぎのラナに授けた魂が宿っているだけにすぎない。』
前世の記憶で見たエステル・サーストの魂操作だろう。
「前世の時のだな………?」
『そう、でも私の魂は悪の塊だった。 けれど元の体に宿っていた善意の記憶と心が私を変えた。』
「魂は今、こっちのラナの方にあるんだな…?」
『正解。 魂は前世の形でもあり記憶の形でもある。 だから今のラナは私とそっくり。』
うさぎがラナの姿になったのもそのせいだろう。
そしてうさぎの前世は――――――わからない。
何故ラナの姿に――――――――――?
「何故エステルの元から離れた?」
『最初は理性がなかった。 人もたくさん殺した。 でも、あなたが殺したあの男、グレイスが持っていた魔力弱体剤の煙を食らって捕まった。』
「抵抗はしなかったのか?」
『過去に戻ろうとしたけど魔力弱体化装置によって能力が使えないままずっとここにいる。 私が研究されている間、時間が経つにつれて理性を取り戻していって今の私になった。』
エステルの手下になっていたがエステルの下に居なかったのに納得し、アストラルの両手足に繋がれている魔力弱体化装置に手を触れてディーナの能力を使いアストラルに繋がれている鎖と魔力弱体化装置を4つとも粉々にした。
鎖に引っ張られて両手が頭の上まで上がっていたが壊れると同時にアストラルは崩れるように腕が落ちて体が沈んだ。
アストラルは力がまだ入らないようだ。
「これで平気か?」
『平気………。』
アストラルは腕にまだ力が入らない様子だったが崩れた体を戻してこちらに顔を向けた。
「………時間を巻き戻したって言ってたな? 何回目だ…?」
『さぁ………10回からは数えてない。 時間を戻した私自身の記憶はある。 ………だけど他の人は何も覚えていない。』
「その力を俺が吸収して使えば…!」
『残念ながらそれはもう試した。 吸収した能力はあなたの能力吸収でも吸収できなかった。』
「じゃあ、俺が吸収した能力もそっちでも吸収できないってことか…。」
『そういうこと………。 でもあなたは私の能力で何回でも、戻る。 そう、何回でも……………変わらない結果が何度続いても…。』
「っ………………………。」
俺は沈黙して絶望した――――――。
膝が地面に付き、下を向いた。
心の中で嘆いた――――――――――――――。
何度も繰り返されていたことを。
何度も変えれなかったことを。
何度も救えなかったことを。
目の前が暗い――――――――――――――。
『今回はひどく………無理もない。』
アストラルはラナと同じ喋り方と声の高さで喋りかけてくる。
『………諦めるのならそれでいいよ? ラナはご主人にずっとついていくの。』
「…………………………。」
『ラナはご主人とずっと一緒に居たいの………。』
ラナの記憶と心がアストラルに刻まれていたのだろう。
同じラナもそういうだろう。
アストラルは声を元に戻して喋り続ける。
『………私はどっちでもいい。 けれど、あなたが諦めればラナも諦める。 元々はラナの体だからそう感じる。』
わかっている――――――――――。
わかっているんだ。
俺は手を強く握りしめた。
「………アストラル。」
『…………………?』
アストラルは軽く首を傾げてこちらを見ている。
「ラナを救う他の方法は………?」
『ない――――――。』
冷たく喋ったアストラルの言葉や他に方法がないこと、そして何もできなかった悔しさで目の前にいるアストラルを見て俺は怒りが湧いて声を荒げた――――――。
「じゃあ――――――どうすればッ!!」
『………星。 星を見て思い出して。』
「……………なんだよそれ!!」
アストラルは軽く口が微笑み喋る。
『知ってる? 星は魂と繋がってるって。 だから私はきっと繋がっている。 みんなと。』
「意味がわからない………!!」
『それもそう…だけど時間が戻ったとしてもきっと心の中………心の奥底にあるはず。 あなたなら……………できるかもしれない。』
「出来てたらとっくに!!」
『信じてる――――――――――――――。』
信じてるという言葉が響いて俺は沈黙した――――――――――。
『To be continued――』
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