Episode.9-3『人間と欲望』
自身の時間を能力で一気に加速させてグレイスへ急接近する――――――。
マッハの速さでグレイスの目の前まで迫った。
『なにッ――!?』
「くたばれえええぇぇッ――――――――――!!」
グレイスは反応する間もなく、グレイスの腹部に右の拳で風を切りながら殴ってディーナの能力を流し込んだ。
グレイスの腹部は炸裂して大きな穴が空いて壁まで吹き飛び、激突した衝撃で壁に大きなひび割れが出来た――――――。
『ぐあぁぁぁぁッ――――――!!』
グレイスは空いた腹部と口から大量の血を流しながら壁から滑り落ちて座り込んだ。
俺は飛ばされていた青い弾丸が入った黒いリボルバーを拾いに戻った。
後方からはグレイスの掠れた声が聞こえる。
『へへ………悪くねえな……………。』
右手で黒いリボルバーを拾い上げてグレイスから2mほど離れた位置で黒いリボルバーを構えた。
「終わりだ………。」
グレイスは隠し持っていた魔力増強剤をこちらに見えないように取り出した――。
『俺はまだ終わらねえええええぇぇぇッ――!!』
グレイスは一瞬のうちに魔力増強剤を自身の首に打った――。
俺は反応できなかった――――――。
加速と破壊の能力で魔力をかなり使い果たしてしまった為か身体能力まで再び落ちている感覚だ。
「っ――――――――――!!」
トリガーを引いて黒いリボルバーを撃ったが間に合わなかった――――――。
グレイスの体は一気に膨張して破裂し、破裂した体中から何本もの触手が生えて弾丸は命中するがすぐに炸裂して吹き飛んだ部分は再生し、辺りを飲み込んでいく。
肥大化するグレイスから逃れるために後退した。
『グ、ガが…ぁガアああァァ!!!』
「なんだ………こいつは!!」
壁、天井一部の機材や円柱形ガラスを肥大化した体だった物と複数の触手で飲み込んでいく――――――。
そして、最終的に人間の面影はなく、施設の3分の1は体だった物と無数の触手で飲み込まれた。
ラナは反対側に倒れている為、無事だ。
肥大化の原因は魔力増強剤の副作用だろうか。
頭上には5mほどある巨大な目と1mほどの小さな目が隣り合わせで並んでいて、こちらを見ている。
触手が上からこちらへ飛んで襲い掛かってくる――――――。
「まずいッ――――――!!」
加速の能力を使って回避するが、触手が飛んできた床は粉々になりひびが入って割れている。
頭上にある巨大な目に向けて黒いリボルバーを2発を撃つと目に風穴ができて血がドバっと落ちるがすぐに再生してしまい効果がない。
黒いリボルバーの青い弾丸は残り2発――――――。
加速の能力を使ったことで能力を次だせるかわからない。
生成の能力は確実に不可能だ。
「だめか…能力もそろそろ限界だ…! 残りの弾も後2発だ…弾薬の生成も不可能で時間加速もかなり魔力を使う………!!」
辺りを見渡して魔力増強剤が入ったアタッシュケースを見つけた。
しかし、アタッシュケースは半分触手に飲み込まれている――――――。
アタッシュケースの近くには襲ってきそうな触手も3本ほどある。
「あの様子じゃ、青の弾丸で破壊して取りに行くのは無理だ…接近するのも危険だ………。 魔力増強剤は取りに行くことができない………!!」
さらに辺りを見渡して赤い弾薬が装填されたリボルバーを見つけるが、リボルバーは8本の触手で囲むように防がれている。
能力なしに近づけば攻撃される可能性もある。
「あれも厳しい………どうすれば!!」
ふと、円柱形ガラスを見ると一人の災いの子に気づく。
大人の女性で黒い目と黒髪ロングヘアにたれ犬耳の災いの子が円柱形ガラスに入っている。
まるで大人のディーナのような姿をしている。
災いの子は弱々しく目を少し開いてこちらを見ていた――――――――――。
何かを訴えかけているような感じだ。
「一か八かだ…あの子の能力に賭ける………!」
円柱形ガラスに向かって走ると触手が飛んできた。
黒いリボルバーを触手に1発撃ち、弾丸が命中すると触手は炸裂して千切れ落ちた。
円柱形ガラスに飛んで左手で殴って円柱形ガラスに触れた瞬間、ディーナの能力を使って災いの子が入っているガラスを粉々に破壊すると水が噴き出た。
倒れて落ちそうになる災いの子を横抱きして持ち上げて後退した。
「頼む………力を貸してくれ!!」
災いの子は弱々しく声をだした。
『……………つか………って――――――――――。』
災いの子は小さく微笑んでゆっくりと手をこちらの胸にあてて能力を使った。
金色の光に包み込まれて力が湧いてくる――――――――――。
魔力増強剤を使ったときのような感覚だ。
そして、自身に災いの子の耳が生えてくる――――――。
ラナと同じたれうさぎ耳で黒い耳だ。
これは副作用だろうか。
俺はもう災いの子と同じだ。
魔力増強剤以上に力が溢れる――――――――――――。
「魔力増強の力……………!」
災いの子は能力を使い終えると体中の力が抜けて目を閉じ、死んでいった――。
名前すらわからなかった災いの子。
死んでまで力を貸してくれた。
俺が油断せず、そして強ければこの子も助けられたかもしれない。
俺は――――――――――。
「っ………。 もう…。」
災いの子を安全な場所に降ろして8本の触手が防いでいる赤い弾薬が入ったリボルバーの場所に向かい徐々に加速の能力を使い前進していく。
最終的にマッハの速度で駆け抜けていく――――――。
「全て――――――。」
リボルバーを囲って防いでいた触手がこちらに飛んでくるが、一気に掻い潜って左手でリボルバーを拾い上げた――――。
「これで――――――――――!!」
8本の触手が一斉に戻ってきて襲い掛かってくるが、回転しながら高くジャンプして回避した――――――――――。
「最後だッ――――――――――――――――――――!!」
そのまま空中でリボルバーを2丁とも前に突き出して腕をクロスし、横に構えて右手の青い弾丸が入った黒いリボルバー、左手の赤い弾薬が入ったリボルバーそれぞれ最後の1発を巨大な目と小さな目に向けて同時に撃った――――――。
同時に飛んでいく2発の弾丸は赤と青の軌道を描きながら巨大な目と小さな目に飛んでいき、弾丸が命中した瞬間、肥大化した体と触手が生えていた場所は全て弾丸が命中したところから連鎖して爆発していき、凄まじい振動と爆風でドーム状の施設半分を吹き飛ばした――――――。
肥大化した体の方にいた俺は爆発した衝撃でラナが倒れている場所まで吹き飛ばされて壁に激突する。
爆風で舞い上がった埃と爆発の煙で視界が悪いが天井にある鉄骨や鉄破片の物が崩れ落ちてきて音が止まない。
立ち上がり、ラナを落下物から守る為に自身の体で防いだ。
しばらくすると、音は止んで埃と煙は徐々に消えていき空が見えてくる。
空は夕日が出ていて光が差し込んできた――――――。
「……………全部…終わった………のか…?」
ラナを見ると、この戦闘で怪我は増えていないが変わらず息をしていない。
自身に生えたたれうさぎ耳を触った。
「ラナと同じ耳………いや、そんなことはどうでもいい…。 魔力増強剤を………!!」
辺りを見渡しながら少し歩くと魔力増強剤が入ったアタッシュケースを見つけ、駆け寄ってしゃがみ、アタッシュケースに手を伸ばして開けた。
魔力増強剤は7本全部無事だ。
「これでラナを……………!!」
魔力増強剤は副作用があるかもしれない。
これをラナに使うとどうなるかわからない。
グレイスと同じように肥大化してしまう可能性やこのまま死に直結する可能性だってある。
しかし、これが最後の望みだ――――――――――。
『To be continued――』
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