Episode.9-2『人間と欲望』
E区域管理者、グレイスは気づいていない。
転生して戻ってきたのだからわかるわけがない。
『貴様は誰だ? お前と会うのは初めてだろう………?』
「俺はあの時の幼い少年だ。 お前は45年前…すべてが始まる時にひき殺した犯人だろうッ!?」
『ほう………なるほど。 なおさら生かしてはおけんな。』
転生に気づいたグレイスの目つきが変わる。
やはり45年前に少年とうさぎを轢き殺した人間で間違いない。
しかし、45年も経っていてグレイスはもっと老いているはずだ。
「だが45年…もっと年を取っているはずだが………何故だ?」
『ここまでこれた褒美だ、特別に教えてやろう。 素晴らしい研究データをな………!』
グレイスはこちらに背を向けて近くにある円柱形ガラスの方にゆっくりと歩き、語り出した――――――。
『災いの子は魔力の影響により生まれる子だ。 魔力は魔物、もしくは災いの子の魔力や能力が人間へと送り込まれると災いの子が誕生することが可能になる。』
「じゃあラナも………。」
グレイスは円柱形のガラスに手を触れ、再び語り始めた。
『父か母が魔力の影響を受けたのだろうな。 魔力や能力によって負った傷、魔力や能力によって送られた力などで人間に魔力が目覚める。 だが魔力の許容量は人間には微々たるものだ。 しかし、影響を受け生まれた者は獣耳が生え、災いの子へと進化し魔力の許容量が大幅に強化されるのだ!』
グレイスはこちらに振り向く――――――。
『見たところお前は人間の姿を保ったまま魔力が使えるようだな。 面白い。』
「俺は普通に生まれてはいない。」
俺が母のお腹から取り出される間に母が魔力の影響を受けたのだろう。
能力が使えるのも納得がいく。
しかし、最初のころは何故全く使えなかったのかわからない。
グレイスは近くの研究テーブルに置いてあったアタッシュケースを開くと、中には8本が並べられていて黒めの小さな円柱形で細長く、容器の中が見えるガラス部分が縦にあり、容器の中には赤い液体が入っていて先端部分には押すことができるボタンのようなものがある。
8本のうち、1つを取り出してグレイスは魔力増強剤をこちらに見せてきた。
『魔力を無理やり引き出す物…それが魔力増強剤だ。 しかし、人間が使えば高確率の副作用で死ぬが災いの子に使えば膨大な力が手に入る!』
魔力増強剤………あれがあれば――――――――――!!
グレイスが魔力増強剤の先端部分を押すと、反対側から針が出てくる。
「あれさえあれば………!!」
『こいつは魔力を増幅可能な災いの子の血から抽出した物だ。』
グレイスは片方の手でアタッシュケースを閉じてもう一度魔力増強剤の先端部分を押すと針が収納された。
『魔力を使ったその時から時間が止まったように若くいられる…それが答えだ………!』
グレイスは魔力増強剤をスーツの中に入れてこちらの方へ向く。
「お前………まさか…!!」
魔力増強剤を使ったのだろう――――――。
下手をすればすでに人間ではない可能性がある。
そして、能力もあるかもしれない。
俺はグレイスを睨みつけた。
『さて………褒美はここまでだ。 大人しく死ぬがいい!!』
左手でホルスターからリボルバーを取り出して構え、トリガーを引こうとした瞬間、足元から勢いよく赤い煙が出てくる――。
赤い煙はすぐに消えたものの煙を吸い込んでしまった――――――。
「っ――――――――――!!」
グレイスは人間離れした速度で1秒も経たないうちに10mの距離を移動して接近してくると、隠し持っていたナイフをスーツから右手で取り出してナイフで攻撃してくる――――――。
グレイスの左から右に大きく振られたナイフを俺は後ろに飛び、回避しながら左手のリボルバーを1発撃つがグレイスは右に回転して回避されてしまう。
「なっ――――――――――!!」
グレイスは回転して回避した勢いのまま左足で蹴り飛ばしてくる。
早すぎて避けられない――――――。
胸元を蹴られて吹き飛んでいる最中、ラナを背中から降ろすが俺は壁に激突して壁は大きくひび割れへこんだ。
蹴られた部分の骨はひびが入り、壁に激突した衝撃で口から血を吐いてしまう。
ラナは地面に落ちて倒れている。
あのまま吹き飛ばされていたら壁の激突がラナにいっていただろう――。
「くそっ……………!」
『その程度か?』
左手のリボルバーを再び構えて残りの5発全て撃つが1発目と2発目は頭を左右に動かして3発目は体を捻らせ避け、4発目はジャンプして避けて5発目はそのまましゃがみすべて回避されてしまう。
リボルバーのシリンダーを外し、弾薬入りシリンダーを生成して再装填しようとするが生成ができない――――――。
「生成能力が………使えない…!?」
いつもより身体能力も下がりD区域に居た頃に戻っているように感じる。
これは相手が早いんじゃない…俺が弱くなっているんだ――――――。
『魔力弱体剤の効果が効いているようだなッ!!』
魔力弱体剤、さっきの赤い煙だろう。
セリカの過去に魔力弱体化装置があったように、煙でも使用可能のようだった。
ウェストポーチから最後の1発が入った赤の弾薬入りシリンダーを取り出して装填するが一瞬のうちにグレイスに急接近され、左下から右上にかけてナイフを振り、攻撃される――。
赤い弾薬が装填されたリボルバーでグレイスのナイフを防ぐが左手のリボルバーは遠くに吹き飛ばされてしまう――――――――――。
「まだだッ――――――!!」
とっさに背中に右手を伸ばして2本目の黒いリボルバーを取り出し、1発撃つがグレイスは後ろに飛んで回避し、そのままグレイスからナイフを投げられてこちらの右腕にナイフが刺さり、血が出る――――――。
刺された衝撃で黒いリボルバーを落とした――――――。
「ぐっ――――――――――!!」
『もっと楽しませてみろ。』
右腕に刺さったナイフを引き抜き、血が出る。
傷口が塞がらない――――――。
不死の能力も使えなさそうだ。
このまま致命傷を負うのは危険すぎる。
引き抜いたナイフを構えた。
グレイスは再び急接近してくると右手で殴りかかってくる――――――。
しかし、早すぎて対応できない。
グレイスの殴りに対応できないまま腹部を殴られて吹き飛び、転がりながら倒れてナイフも落としてしまう――――――。
俺は腹部を殴られて咳き込みながら血を吐き出した。
「ゲホッ…ゲホっ……………!! 力さえ…あれば………!!」
『後で背負っていた子をおもちゃにしてやろう………。』
セリカの過去を思い出す――――――。
犯されていた過去だ。
それだけは絶対にさせない――――――――――。
セリカと同じことをラナにするのは絶対に――――――――!!
「殺してやる………。」
『貴様も実験体だ…楽しみだなァ………?!』
「絶対に殺してやるッ――――――――――!!!!!」
セリカが副管理人を殺した時のを思い出して俺は立ち上がった――――――。
(セリカ…少しでいい………力を貸してくれッ――!!)
「グレイスーーーッ!!!」
グレイスに向かい全速力で走った――――――。
グレイスは憐れむ顔でこちらを見ている。
『愚かな。』
セリカの能力を強く意識して捕縛の能力を振り絞る――――――。
「止まれえええええぇぇッ――――――――――!!!」
セリカの能力で一瞬だけグレイスの動きが鈍くなり、避ける速度が普通の人間と変わらなくなる。
『何だ――――――?!』
グレイスに体当たりをするとグレイスは避けきれず当たるが吹き飛ばず、俺はグレイスのスーツの中から魔力増強剤を奪い取るがセリカの能力がなくなり、グレイスの動きが戻って俺は蹴り飛ばされて吹き飛んでしまう。
痛みに苦しみながらも俺は再び立ち上がった。
「……………もらったぞ?」
グレイスから奪い取った魔力増強剤を持ち上げて見せた。
『貴様ッ………!!』
魔力増強剤の先端部分を押して針を出し、自身の首元に針を刺して魔力増強剤を注入した。
すると体は軽くなり、再び人間離れした動きが可能なように感じ、力が溢れて傷口も痛みも引いていく。
自身の時間を少し加速させた――――――。
(時間を加速させても魔力を取り戻せそうにない。 きっと回復した状態も一時的な物だろう…あまり消費するのは危険だ――――――。)
魔力が時間で戻らないのは魔力弱体剤の効果だろう。
魔力増強剤で補充された分しか使えなさそうだ。
魔力増強剤を投げ捨て、魔力増強剤は落ちた音と共に床に転がっていき、床の配線にぶつかり止まった。
目を瞑り、大きく深呼吸する――――――――――。
目を開けてグレイスを鋭く睨みつけ、両手を強く握った。
今ある分の魔力だけで俺は――――――。
「一瞬で………終わらせるッ――――――――――――――!!」
『To be continued――』
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