Episode.5-3『記憶と罪』
45年前――――――2032年。
一人の10歳ぐらいの幼い少年と一匹のたれ耳うさぎが見える。
幼い少年は自分の小さい頃と同じ姿だった――。
しかし、前髪に白いメッシュは入っていない黒髪ショートヘアの男の子だ。
周りはきれいな建物と高いビルなどの様々な建物がたくさんある。
歩道には人々が歩いている姿、道路には車が走っていて魔物も災いの子もいない平和な世界だ。
そんな中、幼い少年は家の庭でボールを軽く蹴り、うさぎも一緒にボールを追いかけ遊んでいた。
「えへへ! ラナー! ボールだよー!」
母親だろうか家の中から姿を現し、庭にいる少年に話しかけた。
母親の姿は何処となく似ている部分がある。
『もうリオったら。 その子は人間じゃないのに人間のような名前付けちゃって…。』
少年の名前は今世と同じ名前だ――――――――。
そしてうさぎの名前はラナ。
今世と全く同じ………どうなってるんだ………?
「えー、だってラナは僕と一緒だもん!」
『何を拾ってきたかと思えばうさぎだったものね。 びっくりしちゃったわ。』
「ラナは僕のお友達! えへへ!」
『でもこんな元気そうなの久々に見たわ…ママ嬉しいわ。』
うさぎは少年に飛びつき、少年はそのまま倒れ込み尻もちをついた。
「うわぁ、びっくりした…よしよし。」
少年はうさぎをとても大切にして撫でている。
『うふふ。 そういえば今日はお友達の家に行く日だったわね。』
「うんっ! セリカちゃんと遊ぶ約束してるんだー!」
『うんうん。 気をつけて行くのよー?』
「はーい!」
自分もラナも同じ名前………そしてセリカまで……………どうなっている?
前世の記憶だ…よな………?
自分は混乱し始めていた。
サンダルを脱ぎ捨て家に入り、玄関へ移動して靴を履き、少年はうさぎを抱え家の玄関で母親に声を出す。
「それじゃあ、行ってきまーす!」
『うさぎも連れて行くの? まったく変わった子ね。 気をつけて行くのよ!』
「はーい!」
家を出てセリカの家に向かう途中、信号機はなく、辺りは家などの塀で視界が悪い道を歩いている。
「メイドと主人の本、続き楽しみー! ラナも一緒に見ようね!」
メイドと主人の本はラナの家でもあった本と同じ名前だ。
内容は詳しくわからないが前世では読んでいたのだろうか。
向かい側に渡ろうとした瞬間だった――――――。
車の急ブレーキの音がして少年は車の方に振り向くが、その時にはもう遅く、避けることができない少年はうさぎを庇いながら轢かれ、体が宙を舞い、地面に転げ落ちた。
うさぎは少年が庇って無事のようだったが少年は血を吐き、重症だ。
骨や内臓がぐちゃぐちゃになっていてもおかしくはない。
車から175cmほどの男性が一人出てくる。
黒いスーツ姿に黒いオールバックヘアー。
左目は眼帯をしているがもう片方の目は鋭く、怖い雰囲気を持った人物だ。
『くそっ! だめそうだな…面倒くさい。』
うさぎは少年から飛び出し、男の前で男を睨みつけている。
『なんだ? このうさぎ。』
うさぎを軽く蹴り飛ばし、男は離れていった。
少年はかなり苦しんでいる――――――。
「う…うぅ………ラナ……………。」
『まぁいい、こんなとこおさらばだ。』
男は車に戻り、車を再び走らせ急ぐように逃げていった。
「ラ…ナ………。 ごめ…んね……………。」
少年はうさぎに這いずりながら近寄るが力尽き、息が止まる――。
打ち所が悪かったのだろうか。
うさぎは少年を見つめ、声が聞こえる。
この声はうさぎの視線から感じられる――――――ラナの声と全く同じだ。
『ラナは…禁忌を犯すの………。』
うさぎからは金色の光を放ち、光は少年の体全体に吸い込まれていった。
『ラナの能力…ラナ、本当は普通の動物とはちょっと違うの………ご主人には気づかれてたのかな…えへへ……………。』
再生能力だろうか?
少年は息を吹き返した――――――。
『でも、本当はこの能力は使っちゃいけないの…別世界から魂がこっちに来たことだけは覚えてるの…でも、なんで使っちゃいけないかは覚えてないの………。』
別世界………?
一体どうなってるんだ?
『ごめんねなの…ご主人………。』
「うっ…うぅ………。」
少年は目を開け、苦しみながらゆっくりと体を起こすと同時にうさぎは少年の元を離れて行き、角を曲がり見えなくなった。
「あ…あれ…? 僕は…確か轢かれて………。 ラナは…どこ………?」
少年はゆっくりと立ち上がり、辺りを見渡すがうさぎの姿はない。
すると突然、頭上に大きな歪みが発生し、空間が割れた――――――。
ガラスが割れたように割れ、10mほどの大きさの空間が見える。
空間の中は黒紫色に光っていて宇宙のような異空間だ。
異空間は異界のゲートと言われる物だろうか。
空間の中から一人の人物が出てくる。
170cmほどの女性で頭には黒い鬼の角が2つ。
肌は青白く、微かにピンク色をしている白いロングヘアで右目は金色に輝き、左目は赤い目。
服はなく、レースのあるゴシックの下着だけで胸はロングブラジャーで十字架が付いている。
鬼の人物は浮遊しながら辺りを見渡し、ゆっくりと降りてきた。
『魔力を感じ、着たと思えばなんだ…ここは? つまらん世界だな。』
恐怖心を抱きながらも少年は鬼の人物に話しかけた。
「だ、誰………?」
『微かに感じるな…貴様が魔力を使ったのか…?』
「魔力………?」
ラナが使った能力のことだろうか。
ラナの能力を少年に使ったことによって鬼の人物は何かを感じ取っていた。
『ふむ…わからぬか。 まぁよい、貴様に面白いものを見せてやろう!』
すると割れた異空間、異界のゲートから勢いよく沢山の魔物が流れ出てくる。
デビル、ブローダー、シャドウ――――――見たことある魔物だ。
少年は後ろに倒れ込み後退りしていき壁にぶつかる。
「な、なに…これ………。」
瞬く間に街中は魔物が駆け巡り、街を破壊し、人々を殺してゆく。
遠くから悲鳴と家が壊れて崩れる音――――――――――世界が崩壊していく音だ。
「ひっ……………。」
少年は青ざめ、恐怖で支配されている。
『なんだこれだけじゃもの足りぬか。』
視界と重力が歪み、周りの地面や家がひび割れて崩れ、瓦礫やコンクリートなどが浮き始める。
周囲はえぐれていき、円形状に空間は暗く、赤く染まっていく。
浮き始めると視界の歪みは消えていくが瓦礫などの物はずっと浮いている。
「怖い…怖いよ………。」
『あはは! この世界は私の物にしてやろう!!』
すると離れていったうさぎが角から出てきて戻ってくる。
鬼はうさぎに対し喋りかける。
『ほう…見つけたぞ。 貴様が魔力を使ったのだな?』
うさぎの視線から声が聞こえる。
『やめて! 悪いのはラナなの! この世界を壊さないで!!』
『断る。 せっかく魔力を感じて面白い場所を見つけたのだ。 手放してたまるものか。』
鬼が右手をうさぎにかざすと、重力が歪んだ場所はねじれて見え、うさぎは後ろの壁に勢いよく吹き飛び、激突する――――――――――。
少年は立ち上がり、うさぎを庇うように両手を広げて止めようとする。
『うっぁ――――――!!』
「やめて…! いじめないで!!」
『ふむ…いいこと思いついたぞ。 少年を痛みつけたらどう反応するか試してやろう!!』
鬼は右手を少年にかざすと、少年はゆっくりと浮かび上がり、鬼の元に引き寄せられて右手で少年の首を掴んだ。
鬼は重力を自由に操ることができるようだ――――――。
「ぅ…っ………。」
『や…めて………!』
『あははは! 面白い!!』
「ラ…ナは………僕が守るんだッ――――――――――!!」
鬼は突然、右手が全く動かせなくなると同時に身動きが取れなくなり、少年の近くは時間が止まったように動かなくなる。
記憶の中が徐々にぼんやりとしていき、周りがよく見えなくなってきている――。
『腕が動かせないだと………。 なるほど…能力が開化したのか! あはははは!!』
『ご主人………。』
『この様子だと時間が極限まで落ちているようだな、しかし少年もそのまま身動きが取れないではないか!』
少年は時間操作の能力だろうか。
しかし、少年自身の身動きも取れなくなっており、鬼を封じ込めるように止まったままだ。
『そ、そんな…だめなの………。』
『分け与えてくれた能力で貴様は改造してやろうじゃないか………!』
『ぁ…ぁ……………。』
鬼は左手をかざすと、うさぎもゆっくりと浮かび上がり、鬼の元に引き寄せられて1匹のデビルが近づいてくる。
『手始めに本来の姿になるよう、魔力を入れてやろう!!』
『ぅ………ぁ……………。』
うさぎの体に鬼の左手が触れると徐々に人の形となり姿が完全に変わる。
今世のラナと同じ姿。
しかし、白いロングヘアーでロップイヤーの白い目だ。
目には生気がなく、ジトっとした目で、表情は一切動かさない。
あの時見た災いの子と同じ姿だ。
ラナの右腕が吹き飛ばされノイズと共に見えた姿と同じ――――――。
『あとは魂を入れ替えるだけだったか………。』
うさぎの体に手を触れ、うさぎの体から透明な玉を取り出し、鬼は透明な玉を左手で握りつぶした。
うさぎは透明な玉を抜かれた瞬間から糸が切れたように力がなくなり意識が消え、鬼はデビルの体からも同じように透明な玉を取り出すとデビルは崩れるように倒れ込み動かなくなった。
デビルから取り出した透明な玉をうさぎの体に入れると、うさぎは意識を取り戻した。
記憶がかなりぼんやりしていく――――――――――。
『前の魂は邪魔だったから消し去ってくれたぞ…貴様はこれから我の元で動くのだ。 世界を破滅へと誘え!!』
透明な玉は魂だったのだろう。
白い災いの子になったラナは全く別人のように反応して鬼に従っている。
『はい………。』
『あはははは!! ………そうだな貴様の名前は…ラナ・アストラル。』
今世のラナ・フォリアとは違い、白い災いの子はラナ・アストラル。
ラナ・アストラルは完全に別人なのだろうか。
わからない――――――――――。
『わかりました…。 エステル・サースト様………。』
鬼の名前はエステル・サースト。
この人物こそが、世界に
しかし、自分がもし事故らず、うさぎが能力を使わなければこんなことにはならなかったのかもしれない。
全ての元凶のきっかけは自分から起きていた………そう考えただけでも罪悪感に押しつぶされそうになる――――――――――――――。
『さぁ…破滅の時間だ………! あははは! あははははははは!!!』
記憶が完全に何も見えなくなる。
しかし、最後に聞いたことのない少女の声が聞こえる――――――。
『ころ――――――――――――――?』
途切れて最後までは聞き取れなかった――――――。
周りが眩しくなり、すべてが白く包まれて意識が戻り始める――――――。
『To be continued――』
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