Episode.2-2『崩壊と力』


 「ラナ、後ろにいるんだ…!」




 ラナを自分の後ろに姿を隠させ、アサルトライフルを構えていつでも撃てる体勢を維持した。


 土埃が消えていくにつれ姿が見えていく――。

 身長は165cmほどあり、頭には猫耳が生えており、オレンジ色のショートヘアで横髪が肩下まで伸びており、研究衣装服を着た男の子で災いの子だ。

 手には変わったリボルバーを持っている。

 シリンダーは八角形でリボルバーの先端は少し長く、先端のバレルの下側には何かを装着可能な長方形の穴が空いている。


 地面にはロケットランチャーを撃った後の物が捨てられていて、猫耳の災いの子がこちらの存在に気が付くと喋り出した。




 『誰?』

 「災いの子…?」




 猫耳の災いの子はラナの存在も気付くが、猫耳の災いの子は敵意を感じられない。




 『その子…もしかして君が噂の災いの子を連れまわしてる人?』

 「そうだが…なぜ知っている?」


 『ああ…ごめん、僕はレイ・アイリア。 D区域の中央施設に居て、そこで噂を聞いたんだ。』




 D区域の中央施設の災いの子――。

 何故こんなところにいるのだろうか。




 『ご主人様、この人は大丈夫なの。』




 緊張が走っていたがラナの言葉でアサルトライフルを構えている姿勢は緩んだ。




 「そうなのか…?」

 『パパからレイのことは少し聞いてたの…。』




 構えているアサルトライフルを降ろした。

 猫耳の災いの子、レイには敵意はなく、ラナの言葉で緊迫した状態が解ける。




 「結界を張っている災いの子以外にも中央施設にいたのか。」

 『まぁ僕と結界を貼っていたルエしかいなかったけどね。』




 近くで銃声と人々の悲鳴が聞こえ、魔物もすぐ側まで来ているのが見えた。

 ここに留まり続けるのは危険だ――。




 「ひとまず安全な場所に行こう…!」




 自分とラナ、そしてレイは共に魔物を避けつつD区域から抜け出すため移動を始めた。




 『君たちはどこへ向かうの?』

 「ん…そういえば名前を教えてなかった、リオ・メサイアだ。」


 『ラナ・フォリアなの。 ご主人様と安全な場所に向かうの。』




 レイは提案を出してくれる。




 『それならC区域に行かない?』

 「C区域? あそこはもう崩壊したところだが…。」




 C区域、7年前に崩壊した場所だ。

 しかし、C区域ならば過去に使われていたものが残っているかもしれない。




 『僕は他の災いの子たちを助けるために、崩壊した後のC区域を拠点にして僕の妹と災いの子達といたんだけど…僕だけ捕まっちゃって…。 今はどうなってるかわからないけどどうかな?』


 「人間の自分が行っても大丈夫なのか…?」

 『大丈夫だと思うよ、もし何かあっても僕が話してみるよ。』




 頷き、自分とラナはレイと同じくC区域に向かうことにした。

 移動を続け、東南の方向へ歩き続ける。



 D区域を抜けると、無法地帯は所々に戦闘痕などもあり、軍用車や戦車などが通った跡や一般の車が潰れているのが多く、色々なところに草木が生えている。

 建物や道はD区域よりもひどい状態で、建物はほとんどが入れるものではなく、そのような状態の場所がひたすらに続いている。


 普通は無法地帯に魔物がいるはずではあるが、D区域に魔物が集まっており、無法地帯には魔物がいる気配がない。

 魔物がいない為、レイに色々聞いてみることにした。




 「レイは施設でどんなことをしていたんだ?」

 『僕は主に武器製造だね。 作れても12時間に1つぐらいだけど…。』




 レイはこちらが見やすいようにリボルバーを持ち上げた。

 生成した武器だろうか、普通とは変わっている理由を理解した。




 「能力か?」

 『うん、燃費は悪いけどねー。 一気に2個作っちゃうと1時間ぐらい倒れちゃうけど…。 そういえばラナの能力は未だに発見されてないのかい?』




 ラナは腕を掴んでくると嬉しそうに喋る。




 『ラナはご主人様を死なせない能力を持ってるの!』

 「まぁ…はっきりとわからないが自分にだけ不死の能力がかかっている。」




 ラナの能力はこれで合っているかわからないが、自分が死なないことを考えるとこれが妥当だ。

 レイは少し考え、答える。




 『…ということは他の人には効果がない?』

 「そうなのかもしれない。」


 『変わった能力だね。』


 『えへへ! ご主人様は無敵なの!』




 レイは微笑んだ。

 結界が消えた理由、そしてルエは警報で言われていた通りに死んでいるかもしれないがルエと一緒に居ない理由について聞くことにした。




 「そういえば結界が消えたのは何故だ?」

 『ルエは…死んだんだ。 それと同時に結界が消えた。』




 レイは少し落ち込んでいる。




 『どうして死んじゃったの…?』


 『わからない…でも、ルエの魔力の使用量が限界を超えていたからだと思うよ。 ルエはE区域が発明した魔力増強剤を使用し続けてこの5年間、ずっと能力を使って結界を張っていたんだ。』




 魔力、魔法みたいな力を出す特殊な能力の為に使うものだろうか。

 興味が沸く。

 そして魔力増強剤、知らない薬だ。




 「魔力増強剤…?」

 『僕も詳しくはわからない。 ただ、魔力を引き出すことができる薬だね。』


 「その薬が原因で死んだのか…?」

 『わからない…その可能性が大きいけどね。 自分の魔力を超えて結界を張っていたから確実に体に負荷がかかってたと思うよ。 普通は魔力を使いすぎると倒れるからね。』




 体を蝕みながらも魔力増強剤を使用し続けて、ルエはずっと結界を張っていたことに驚く。 




 『じゃあご主人様も死に過ぎるとラナは倒れるの…?』


 『ラナも能力を使いすぎると倒れると思うよ。 …魔力が切れて倒れるのは避けたほうがいいかもね。』




 魔力の使い過ぎもよくないようだ。

 戦闘中に倒れるのはリスクがある。

 自分はあまり無茶できなさそうだ。




 「戦闘はやはり避けたほうがよさそうだな…。 自分は魔物に対して戦うのは厳しすぎる。」

 『大丈夫なの! ご主人様はラナが守るの!!』




 ラナは戦闘経験を積めばもっと魔物と戦える可能性がある。

 槍を真っ二つに出来るほどの力は相当大きく、人間ではまず不可能だ。




 「ああ。 自分もできるだけ死なないように気を付ける。」

 『えへへ!』




 中央施設に詳しそうなレイに再び問いかける。




 「それと一つ気になっていたが、何故D区域の中央施設ではなく戦闘教育学校にラナを入れたんだ?」

 『ラナがこの結界の中、D区域に入れたかっていうのはルエに限界が来ているのが分かっていたから防衛策として人間に敵意のない災いの子を導入したんだ。』


 『パパがずっと前からラナをD区域に入れるために管理者にお願いしてたの…。』


 『うん、だけど本当はルエの限界をきっかけに管理者は危機的状況を打開するべくラナを戦闘員として導入することを決意した。』

 「中央施設でも戦闘訓練はできたはずじゃないか…?」


 『不明な能力でルエを殺してしまう可能性があったからそれを回避するために、能力がわかるまで遠くから監視されてたはずだよ。 中央施設にダメージを受けないためにね。』




 ラナの両親が殺された時、警備隊に調査されすぐ解放された事にも納得した。

 普通だったらしばらくは捕まっていただろう。




 「そういうことか…。 だが結界内に入って能力で施設を破壊できることが可能だった場合危険だと思うが…。」

 『正直施設の警備は厳重だから入るのはほぼ不可能だったと思うよ。 …皆殺しにするレベルの能力でも持ってない限り。』


 『ご主人様をいじめない限りラナは壊さないの!』


 『まぁ、他にも理由があって能力は判明してなかったけれど並外れた強さを持っている災いの子を実戦投入する為に戦闘教育学校にしたのもあるよ。』

 「いずれにせよラナは利用する気だったんだな…。」


 『ラナはご主人様と居られるなら何でもいいの。』

 「自分は許せないけどな…。」




 誰かに利用されることに対してとても嫌気がさした――。


 D区域中央施設に入れず、戦闘教育学校に入学してきた理由がわかった。

 初めからこの事態は想定されていたのかもしれない。

 そして、実戦投入する前に崩壊した感じだ。

 



 「レイは捕まった時、脱走とか考えたりしなかったのか?」

 『考えたよ。 ルエと脱出をね。 …でも僕一人じゃ脱出は不可能だと思ってやめたんだ。 だから問題が起きた今、脱走して来たんだ。』


 「そうなのか…。」




 C区域に向かう途中、1本の白く微かに光る花が咲いていた。

 根元の5つの葉の中心から、白い茎が伸び、花は3つに分かれて開き、中の小さい黄色い部分も3つに開いてた。

 ラナがこちらの袖を引っ張り、白く光る花について問いかけた。




 『ご主人様、あの花なぁに?』

 「ん…初めて見るな。」




 レイはこの花を知っているようだった。




 『…それは災いの子が死んだ跡だよ。』


 『死んだ跡なの…?』


 『災いの子が死ぬとその場所の近くに1本の花が咲くんだ。』




 辺りを見渡すが、戦闘の痕があっただけで、死んだ跡や死体などはない。




 「死体が見当たらないが…。」


 『死ぬと1週間もかからないうちに塵になって消えていく。 そしてその花が咲く。』

 「この花に害はないのか?」


 『なにもないよ。 ただ星のように白く光る花だよ。 …まぁ災いの子達はこの花を星の記憶って呼んでる。』

 「星の記憶…か…。」




 ラナは白く光る花、星の記憶をゆっくりとちぎり手に取った。

 不思議な花だ。

 光る花なんて見たことがない。

 しかし、なぜかその花を見ていると悲しい気持ちが湧きあがってくる――。




 『きれいなの…。』




 ラナが星の記憶を持って見つめるが、数秒後に花は塵になり、崩れて消えて行った。




 『地面から切り離すとすぐ消えちゃうんだ。』


 『なくなっちゃったの…。』




 ラナは少し悲しそうにしている中、自分は空を見上げ、呟いた。

 空は透き通っていてきれいだ――。




 「どんなものでもいずれは終わりが来る…。 この戦いも…この星も…。」




 レイも同じく空を見上げ喋る。




 『そうだね…僕たちもいつ死ぬかわからない。』




 そんな中、ラナは目の前に出て来て喋り、自分はラナを見た。




 『ご主人様は死なないの…!』

 「たとえ不死身だとしても限界はあるはずだ。 …だけどありがとうラナ。」


 『えへへ…。』




 ラナとD区域でどんなふうに過ごしていたかレイと3人で喋りながら1時間ほど歩き、D区域とC区域の中間地点辺りに到着すると、レイは一つの気配に気づく。




 『まって…何かいる――。』













 『To be continued――』

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