Episode.1-1『終わりと始まり』
『Episode01.終わりと始まり』
生徒の視線が災いの子のラナに集まっている中、ラナは近づいてくると、隣の机に立ち自分に対し喋りかけてくる。
『えっと…よろしくなの…。』
「あ…ああ、よろしく…。」
返事を返すとラナは恐る恐る隣の椅子に座り、ざわつく教室の中、教師は咳ばらいをして説明を始めた。
『色々質問等あるだろうが、貴重な戦力として導入されることになった。 本来、災いの子は中央施設の隔離場もしくは無法地帯に居るがこの子は無害と判明、何の能力を持たないと判断され許可が下りた。 みんなくれぐれも仲良くするように! …それでは授業を始める――。』
災いの子――。
人間の姿に獣耳、そして尻尾が生えた子たちのことを言う。
災いの子には能力を持つ者と持たない者も存在する――らしい。
何の能力を持たないと言えど人間より並外れた身体能力を持つ。
殆どの者は災いの子を恨み憎んでいる。
世界に異界のゲートができたのも災いの子のせいとも言われているからだ。
無法地帯にいる災いの子の多くは能力で人間や魔物を無差別に殺すと言われている。
そして災いの子の能力は1つしか持たないが能力は様々だ。
聞いた話では手を触れただけで粉砕、破壊する能力や冷気などを操る者もいるらしい。
しかし、このD区域は中央施設にある災いの子隔離場にいる一人の災いの子により、結界の能力で5年前から安全が保たれている。
結界は魔物を通さない効果がある。
ぼーっと考えていた時、ラナは袖を小さく掴み呟く。
『え、えっと…リオ…銃の構造…わかんないの…。』
銃の構造についての授業をしている中、ラナは怖いのか上手く声がだせなくて教師に言えないのだろう。
机の中に入れてあったモデルガンを取り出し簡単に説明を始める。
「これがこうなってる――。」
装填、射撃や安全装置について簡単に説明をし終え、ラナは恥ずかしそうに喋った。
『あ、ありがとうなの…。』
軽く微笑み返し喋る。
「またわからないところがあったら遠慮せず言ってくれて構わない。」
『うん…。』
ラナは下を向き、口を軽くにっこりとさせて少し嬉しそうにしていた。
それを見た自分は考えた。
災いの子…魔物とは違い、歩む道が同じであれば人間と全く同じなのではないか…?
何が悪く、何が正しいなんてわからない世界だ…少なくとも災いの子を憎み恨むのは間違っている気がする…。
災いの子になりたくてなったわけでもないはずだからだ――。
考えている間にチャイムが鳴り授業が終わる。
休み時間になった――。
次の授業は実戦練習で基本的には授業の参加は自由だ。
生徒たちは教卓に置いてあるメダルを受け取っている。
参加すれば授業終わりにメダルが貰える。
大体は1回あたり5枚だ。
「さてと…今日はこの辺で帰るか…。」
帰ろうとするが、ラナに引き止められるように声を掛けられた。
『あ、えっと…実戦練習の場所…わかんないの…。』
「教えられてないのか?」
『う、うん…教員室と教室に入るだけだったから…。』
一人で行くのが不安なのもあるだろう。
周りの視線も冷たい。
自分自身も人と関わらなくなったせいもある。
この様子だと困っている災いの子のラナを誰も手助けしようとする者はいないだろう。
場所だけを教えて帰るか、授業を続け手助けをするか悩んだ。
このまま帰れば完全に一人になる可能性があり、少し心配になった。
(難しいだろうが災いの子が平気な人がいれば…だがこの様子だと…いや、落ち着くまで少し手を貸そう…。)
自分は悩んだが決断し、ラナに喋りかけた。
「…ついて来るといい。」
『うん…。』
ラナは頷き、自分とラナは教卓に置いてあるメダルを取り教室を出た。
教室を出て廊下を歩き始めると教室に残っていた生徒たちの声が微かに聞こえた。
『あいつ、災いの子を引き連れてるぜ!』
『リオは死んだな!』
生徒たちは笑い口調で喋っていた。
(帰らなかったのは間違えではなかったな…皆、災いの子というだけでこうなるんだ…。)
ラナからは殺意と能力は感じられない。
むしろ逆に恐れている感じがある。
実戦練習場――――――。
廊下を歩き、実戦練習や射撃などの訓練ができる場所の外に出た。
外には射撃場、ダミー人形、ナイフ用の体術訓練場などがあり本物の銃やナイフもある。
実戦練習に出ることになったが、基本的にどの訓練をしてもいい。
しかし、ラナは何をどうしたらいいかわからないようだった。
射撃場まで移動し射撃場に置いてあるハンドガンを手に取り、マガジンをハンドガンに入れ、装填した。
「ここにあるのは射撃訓練で銃が撃てる。」
そのままハンドガンを円形の的に構え、トリガーを引いて撃った。
射撃音やマズルフラッシュと共にハンドガンから薬莢が排出され、そのまま3発撃って見せ、弾丸は3発とも真ん中に命中した。
『こ、こわいの…。』
ラナは少し怯えている。
射撃と共に出る弾や音が怖いのだろう。
「大丈夫、やってみるといい。」
少し小さめのハンドガン手に取り、ラナに持たせて構えさせるが上手く銃を構えれてはいない。
「撃つ時は構える姿勢と反動に気を付けるんだ。」
『う、うん…。』
自分の手でラナの腕と体を動かし銃を撃つ姿勢にさせてラナは恐る恐るハンドガンのトリガーに手をかけ1発射撃した。
弾丸は的から外れ、飛んでいった。
『うぁっ!』
銃声と反動に驚きラナは腰を抜かした。
ラナは少し半泣きになりかけている。
幼いラナにはまだ早すぎたかもしれない。
「銃はまだ合わないか…?」
『やっぱり怖いの…。』
銃を使わない別のことを教えたほうがいいだろう。
「そうだな…ナイフの訓練とかやってみようか、こっちだ。」
射撃場から少し移動してナイフ、体術の訓練場まで移動した。
ここにはダミー人形とナイフがある。
ナイフを手に取り、ラナも一緒にナイフを持った。
このナイフは刃先がない物で切ることができないが実物と同じ重さのナイフだ。
「こう持って振ってみるんだ。」
ダミー人形の前まで移動してナイフを左胸の位置で構え、ナイフの持ち方と振り方を教え、右へ勢いよくナイフを振り、ダミー人形に当てた。
『うん…。』
ラナも自分と同じくダミー人形の前まで移動してナイフを同じく構え、勢いよく右へ振ると災いの子の力を目の当たりにする――。
小さな体とは反面に空を切るほどの速さでナイフを振った。
切れ味のないはずのナイフから放たれた小さな衝撃派によってダミー人形に小さな裂け目ができる。
人間では不可能な速さだ――。
驚き硬直した自分にラナは少し不安になっていた。
『あ…やり方間違えてるの…?』
「…いや、あってる。」
『よかったなの…。』
ラナは安心をして練習を続けた。
魔物に体術が効くことはないがこの様子だと銃より体術を使ったほうが確実に有用だろう。
ラナが訓練している様子は後からやってきていた生徒たちに遠くから見られていた。
ひそひそと話す生徒たちの声が聞こえる。
このことでもっと軽蔑するだろう。
正直くだらない、どうでもいい――。
少しするとチャイムが鳴り、今日の授業は完全に終わり帰宅する時間になった。
今日の授業は昼前までだ。
「…今日の授業はここまでだ。」
『う、うん…。』
訓練場の出入口でメダルを受け取り、自分とラナの2人で戦闘教育学校の正面入り口まで移動してそれぞれ帰宅する時、ラナは恥ずかしそうに喋る。
『えっと…今日は…ありがとうなの…また明日なの…。』
「あ、あぁ…また明日な…。」
(また…明日か…。)
普段は最低限しか戦闘教育学校には行かない為、本当は断りたかった。
また明日、と言われるのは自分が学校にまったく行かなくなる以来で友達もいなくなったきりだ。
ラナとは別の方向へ移動し帰宅する。
自分は帰り道、商店街に寄る。
商店街はほとんど露店で立っているがそこまで店は多くはない。
日常品、戦闘用品、食料品など色々ある。
人々も多少見て回っている。
いつもの食料店で少し年をとった店長に食料品を頼んだ。
このお店は保存食や缶詰などが安く売られている。
「いつものを頼む。」
店長はいつものように話しかけてくる。
『お前さん少しはいい物食わねぇと強くなれねぇぞ?』
「余計なお世話だ。」
『相変わらず固いねぇ。』
流すように聞き、食料を買った。
今日入手したメダルを10枚全部使い、携帯食料、缶詰などを購入した。
『まぁまたいつでも来るんだぞ。』
「あぁ。」
その後帰宅し、自宅へ着くころには夕方になっていた。
家に入り、買ってきた食料をテーブルに置いた。
世界は滅んでいるがこのD区域は電気や水道などが使える。
「これで5日は持つな。 …少し休むか。」
自分はベットに座り横になった。
食料品は5日分。
自分は戦闘教育学校には極力行かない為に食料品のみを買い込み、食料がなくなった時戦闘教育学校に向かう。
そのまま1日をまったりと過ごし、買ってきた食料を食べ、睡眠を取った。
次の日の朝になり、窓から光が差し、自分は目が覚めベットに座った――。
「今日は別に行かなくてもいいが…。」
ラナを思い出し考えた。
行かなくてもいいが何故かラナのことが心配でたまらない――。
様子を見るためにも戦闘教育学校に行くためベットから立ち上がり呟いた。
「はぁ…行くか。」
嫌々ながらも外に出るドアに手をかけ、戦闘教育学校に向かった――。
『To be continued――』
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