325 心の浮気は誰に向けて

 広田の本音を引き出して行く内に、奴の口から出た不穏な言葉『裏切り』


一体、この言葉の意味する所とは、なんだ?

朴念仁である広田が、ダッツに対して何を裏切ったって言うんだ?

(。´・ω・)?


***


「いや、勘違いなら悪いんだけどよぉ。オマエさぁ、既に、自分の足で立ってるじゃんよ。中学生で仕事してキッチリ金儲けてる奴なんて、そんなそんな居ねぇぞ」

「確かに、傍から見れば、それはそうなんだろうな。だが、俺の言いたい事は、そこじゃないんだ」

「うん?」


少々アルコールが入ってるから、口が自然に軽やかに動いてるみたいだな。


このまま本音を引き出せれば良いがな。



「俺は……里香を裏切った」

「それってオマエに対する『期待』の話か?」

「いや、違う。精神的な話だ」

「精神的だと?オイオイ、ダッツとオマエの間に、一体、なにがあったんだよ?」


はぁ~~~~、これはどうやら一番厄介な話になりそうだな。

『期待を裏切った』ではなく『精神的に裏切った』なら、確実に浮気だ。

しかも、ある意味、一番性質の悪い『心の浮気』の可能性が高そうだしな。


まいったなぁ。

こりゃあ、話の持って行く方向を間違えたら、先の見えない泥沼に嵌るっぽいぞ。



「……俺は……浮気をした」


やっぱりだ。


しかし、そうなると、おかしな問題が有るな。

なんでコイツ程の自覚のある朴念仁が、そんな出来もしない様な真似をしたんだ?

俺みたいなアホが余所見をするならまだしも、広田は、比較的、真面目な性格。

そんな真似をしても、上手くいかない事ぐらい、自分でも解っていたと思うんだがな。


そんな風に、話が少し嫌な方向に向いてきたので、此処で再度ビールを勧める。

すると広田も心苦しいのか、これを一気に飲み干す。



「浮気かぁ。……まぁ、男女が付き合ってりゃ、誰しも通る道だな」

「何故だ?好きな女子が隣に居ても、そう思うものなのか?」

「あぁ、俺は、特に思うな。奈緒さんと付き合ってなかったら『コイツに靡いていただろうな』って思う事なんぞ多々有るぞ」

「だが、事実、靡いていないんだろ?」

「あぁ、一応は、誰にも靡いてはいないがな。……此処だけの話。断腸の想いなのは否めないな」

「何故だ?」


いや、実体験すりゃ解るんだろうけどよぉ。

どんなに綺麗な子に言い寄られようと、結局、俺は、奈緒さんが一番好きなんだよな。


だから、誰にも靡かない。


まぁけど……これは建前の話であって、正直言っちまえば、勿体無いと思ってる節がない訳でも無いんだよな。


理由は、こんな感じだ。



「そりゃオメェ。素直に、ステラ、咲さん。んで『Fish-Queen』の面々に告白されりゃあ。誰だって断腸の想いにもなるってもんだろうよ」

「それは事実なのか?それに、その女子達は、仲居間がプロデュースした女子。それが全員、オマエに告白したって言うのは、少々眉唾物だな」


まぁそうだな。

俺も、自分の事ながらそう思うな。


だから、オマエの負う思う気持ちは何も間違っちゃあいない。



「あぁ、したな。まぁ、椿さんと、樫田がしてねぇから、全員とは言わねぇがな」

「信じられないな」

「俺もそう思う」

「そうなのか?オマエはモテるから、なんとも思っていないものだと思っていたぞ」

「馬鹿言うな。俺なんぞ、なんもモテねぇつぅの。偶然が重なって、偶々そうなっただけなんだよな」

「どういう事だ?」


いや、だからよぉ。


言ったまんま。



「どういう事もヘッタクレもねぇよ。ホント、偶然そうなっただけに過ぎねぇんだよ。大体にしてオマエ、俺みたいなヘチョイ男が、あの人達を狙って落とせる様な相手だと思うか?」

「確かに、そうだな」

「……っでだ。断腸の想いをして断ったんだが、未だ誰一人として諦めてくれねぇんだよな。……さて、オマエなら、この状況どうする?」

「『どうする』と聞かれても困るな。俺は、事実そう言った状態になった事が無いから、答え様がない」

「だろ。結局な、わかんねぇ事を理解しようとしても、早々は理解出来ねぇんだよ。それにオマエの浮気って、多分『心の浮気』だろ。だったら気に病む程の事じゃねぇよ」

「そんなもんか?」

「あぁ、そんなもんだ」


上手く言えたかは、正直わからん。


ただ……心の浮気なんぞ誰しもがする事だから、そんなに神妙に成る様な問題でもねぇんだよな。


気にすんな、気にすんな。

……っとまぁ、此処は気軽に言った方が良さそうだしな。


実際は、その軽い心の浮気から、本当の浮気に発展する可能性があるだけに、本当はあんま軽視し過ぎるのも危険ではあるからな。



「だが、もし仮に、そうだとしても1つ問題がある」

「なんだよ?」

「俺の好きな相手って言うのは、過去にも好きだった相手なんだ。それでも問題は無いのか?」

「ねぇんじゃねぇの。それによ。付き合ってる程度なら、浮ついた気持ちになるのも当然だ。結婚でもしてねぇ限り、恋愛は自由なんじゃねぇのか」

「しかし、それでは、両者に失礼にならないだろうか?」


そりゃあ、失礼になるわな。

心の浮気つっても、女の子を両天秤に掛けてる事実だけは何も変わらないんだからな。


それが失礼じゃないと言うなら、それはもぉ、精神的な病気だ。



「難しい問題だな。けどよぉ。そこは、オマエの問題なんじゃねぇの」

「なんのだ?」

「津田と別れてまで、天秤に掛けるほど、その女に価値が有るか、どうかが一番の問題だろ」

「まぁ、そうだな」

「それにだ。オマエが、いつ、その女を好きになったのかは知らねぇが、所詮、過去は過去だ。幾ら、昔好き同志だったからと言って、相手方も、いつまでもオマエが好きだった状態な訳じゃねぇ。だからな。……今更『好きだ』とか言われても迷惑なだけかもしんねぇぞ」

「うっ」


思い当たる節有りか。



「まぁまぁ、そう神妙になんなって、俺は、別にオマエを責めてる訳じゃねぇんだ。『心の浮気』大いに結構じゃねぇか」

「そんないい加減なもので良いのか?」

「あぁ、問題ねぇ。……ただよぉ、最終的に一番大切にすべき人間だけは見極めるべきだな。じゃねぇと、ただの女誑しになっちまうからな」

「確かにな」


フッ、決まったな。


崇秀の真似だけど……



「……ところでよ。オマエの好きな相手って誰なんだ?」

「・・・・・・」


あぁ……アルコールが入って、口が軽やかになったとは言え、流石に此処は言い難いか。


なら、此処は追求すべきじゃないな。

変に追求したら、なんか俺自身が自爆しそうな気がする。



「あぁっと、プライベートに突っ込み過ぎてんな。今のは無しって事にしてくれ」


俺の言葉を聞くや否や、なにを思ったのか広田は、自らビールをグラスに注ぎ。


『ゴク!!』っと、それを一気に飲み干した。


オイオイ……この一連の広田の行為、なんか豪く覚悟らしきものを決めてないか?

それにオマエ、確か、さっきは『アルコールはやらない』って言ってなかったか?


イカンな、こりゃあ。

この様子じゃ、なにを言い出すか、わかったもんじゃねぇな。


おっ、俺も、保険の為に飲んどこ。



「……有野だ……有野素直だ」

「ぶぅぅぅぅぅううぅうぅうぅ~~~っ!!」


なっ?なっ?なっ?なんですとぉ~~~!!


広田の口から出た意外過ぎる人物の名前に、俺の口からは霧状になったビ-ルが噴出していった。

それはそれは綺麗な霧状になって、まるでグレートムタの『毒霧攻撃』みたいだな……って、この状況下で、そんな冗談めいた事を言ってる場合じゃねぇな!!


しかしまぁ、広田の惚れてる相手が『素直』だったとはな。


これは流石に、想いも寄らなかったわ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


まさかまさかの「素直ちゃんが好き宣言」をした広田君(笑)

そりゃあ倉津君も、その意外な言葉には、グレートムタに成ってしまうのも仕方がありませんね。


しかし、その話を聞いてしまった以上。

倉津君自身も、このまま放置して置けない立場に成ってしまいましたので。

此処でなんとか、広田君のその恋心を、違う方向に持って行けるようにしなくてはならなくなりました。


そこを上手く誘導して、広田君の気持ちをダッツちゃんに持って行く事が出来るのか?


それは次回の講釈。

また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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