323 取り敢えず、上がれよ

 ダッツと広田を仲直りさせるつもりだったが、その意に反してお互いが激しい口論に成り、アッサリと仲直りは決裂。

その上、言い過ぎてしまった広田の『赤の他人』っと言う言葉が、ダッツに突き刺さってしまい、彼女はその場に居辛くなって逃げてしまった。


だが、それで倉津君が仲直りさせる事を諦めた訳ではなく。

この状況を上手く利用して、取り敢えずは、広田君を校外へ連れ出す事に……


ホンマ世話の掛かるやっちゃな(;´д`)トホホ


***


 ……っで、そんな思考をしてる間に。

近隣の駅から京急電車を乗り、横浜から相鉄を乗り継いで『上星川』に到着。


勿論、此処にきた理由は1つ、騒いでも怒られない奈緒さんの家をお借りしようって寸法だ。


まぁ本心を言えば、あんま俺以外の男を、奈緒さんの家には上げたくはねぇんだけど、今回は、事態が事態だけに、そんな事も言ってらんねぇ。

故に俺は、広田を引き連れて、奈緒さんの家に足を踏み入れた。



「うぃ~っす、お疲れ~~~ッス」

「おぅ、誰かと思えば、クラッチャじゃねぇか。なんだよ、こんな時間に?今日は、やけに早いな」


おぉっと、言い忘れてた。


この、今俺に話し掛けて来たオッサンは、柳田義明(ヤナギダ・ヨシアキ)

32歳・独身・通称『ヤッキ』

奈緒さんの家にある、あの例のバーみたいな部屋を借りて、今現在バーを営業してるオッサンだ。


まぁダーツに、楽器、それにミッドセンチュリーっぽいテーブルや、椅子。

んで、とどめに、バーカウンターまであって、それが完全に眠った状況になってりゃ、誰だって、此処で営業したいと思うわな。


……つっても、実際は、そんな理由で、奈緒さんが、このオッサンに部屋を貸した訳じゃねぇんだけどな。

実はその真相はな、此処で、このヤッキが店の営業してりゃ、俺が奈緒さんに逢いに来ても、なんの違和感もねぇからなんだよな。


傍から見りゃ、俺は、ただの店の常連にしか見えねぇからな。


だから此処ら辺は、奈緒さんの上手い策略って訳だ。


以上、ヤッキと、奈緒さん家の現状説明終わり。



「サボりだよサボり。ちょっとした野暮用があってな。緊急臨時休講って奴だ」

「なにが緊急臨時休講だ。この不良が、調子の良い事バッカリ言ってんじゃねぇよ。……あぁ、それと、先に言っとくが、奈緒ちゃんに逢いに来たんなら不発だぞ。奈緒ちゃん、まだ帰ってねぇからな」

「そっか。そいつは、逆に好都合だ。ヤッキ、奥使わせて貰うぞ」

「おぉ、勝手に使え、使え。そこは、この店を借りてる俺でも不可侵領域のオマエ等の愛の巣だからな。俺に断りを入れる必要なんかねぇよ」

「やっ、やかましいわ!!」


余計な事を……


オマエは、そんなツマンネェ事を言ってねぇで、淡々と店の営業準備でもしてやがれ!!糞ヤッキ!!



「つぅ事で、オイ、広田、上がれよ」

「此処で良いのか?だが、約束の昼食を食べる雰囲気じゃないな」

「バ~カタレ。俺は、オマエと、ダッツの関係の話で、もぉお腹一杯なんだよ。飲み物ぐらいなら出してやるから、少し俺の話に付き合え」

「昼食代わりに、何か飲むのは良いが。それでは話が、変わってきてると思うんだが」

「まぁ、上がって話をすりゃ、なにもかもが、わかるってもんだ。グダグダ言わずに、サッサと上がれつぅの」

「なんだか、よく理解は出来ないが、上がらせて貰おう」


変な所だけは、素直な奴だな。


なら、なんで、そう言う素直な気持をだな。

もっと全面的に、津田に向けてやれねぇのかなコイツは?


ったくトロ臭ぇ!!


取り敢えず、席に付く広田を確認しつつも、俺は台所へ行き。

冷凍庫で冷えたグラスを2つと、ビールを2本開けて、部屋に戻って行く。



「おぅ、待たせて悪ぃな……ほらよ、飲みもんだ」

「ビールか?」

「おぉ、夏が過ぎたとは言え。ヤッパ、この時期はビールだろ」

「悪いが、アルコールはやらない」

「はぁ……もぉ早速これだよ。オマエさぁ、さっき『俺に付き合う』って言わなかったか?奈緒さん家には、ジュースなんて洒落たもんはねぇぞ」

「それでは、水を貰えるか?まだ後に、やる事が残ってるんでな」

「あのなぁ、俺がビールで、オマエが水で、どうすんだよ?話になんねぇな。オマエは、俺に付き合うと言った以上、約束はキッチリ守って貰うぞ」

「しかしだな」


俺は、苦情を投げかける広田のグラスに、強引にビールを注いでやった。


まぁ本来は、無理矢理、酒に付き合わせるのは不本意なんだがな。

酒の力を借りてでも、奴の本心を上手く引き出したい俺としては、此処は少々強引にでも付き合わさる必要性があるんだよな。


酒には、相手の本音を引き出させると言う『特殊な能力』が有るからな。


なんとしても、今日中に、コイツの真意も確かめておきたい。

じゃなきゃ、津田が、また泣く事になるからな。



「はぁ、ホントにオマエって奴は、何所までも融通の聞かねぇ男だな。そんなこったから、いつまで経っても、人とのコミュニケーション上手く取れねぇんだよ」

「言いたい事は理解出来る。だが、どうして、そこまでアルコールに固執するんだ?」

「……今からダッツの話をするからだ。俺は、飲まなきゃ、とてもとてもやってられねぇ」

「んっ、どうして倉津が、里香の話を……関係の無い話だと思うが?」

「大有りだっつぅの。つぅかオマエも、アイツの気持ちを少しぐらい察してんだろ。……それともわざと、今の段階で、これ以上を、俺に言わさせたいのか?」


この言葉には、流石の広田もなにか感じたらしく。

意を決した様に、ビールが波々と注がれたグラスを持った。


矢張り、本人も、この件に関して、かなり気にしている様だ。


にしても良かったぁ。

これで、まだゴチャゴチャ言う様だったら、いっその事、問答無用で、ぶん殴ろうと思ってたからな。


俺は、基本的に男には容赦しない。



「ふぅ……どうやら不本意ながら、飲まなければいけない問題の様だな」

「漸く、理解しやがったよ」


そうは言っても、勿論、この場面で、乾杯なんて野暮な真似はしないぞ。

『乾杯』と言うものは、話が上手く纏まった時にまで、取って置くものだからな。


故に、俺は一気にグラスを空にするだけだ。

そして広田も、これに倣って、一気にビールを飲み干した。


空になったグラスに再度ビールを波々と注ぎ、俺は、もう1度飲み干した。

広田も同様に飲み干す。


最後に、後、もう1回注ぐ。


これで駆けつけ三杯。

堅物の朴念仁が、言い難い様な話をするには、丁度、頃合の筈だ。


……にしても広田の奴、結構、良い飲みっぷりだな。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


話し合いの場を、奈緒さんの家に移し。

アルコールを入れて本音を吐き出させようとする倉津君ですが。

本音を引き出すには、その話に行き付くまでの経緯も大事なので、そこを上手く出来るかが勝負処ですね♪


さぁさぁ、どうやって、その話に持って行くのかは、次回の講釈。


また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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