343 機体名 GUILD/M-80

 田中奈緒美と言う偽名を使って、俺の手伝いとしてバンドに入り込んだ奈緒さん。


そんな彼女が使うギターを探しに、準備室に行ったまでは良かったが。

奈緒さんは、なにやら棚の上にある怪しげなギターケースを発見して、俺に「あれ取って」っとせがんでくる。


当然俺は、取りに行く。


(;´д`)トホホ、奈緒さんの可愛さには勝てんのぉ。


***


 俺は、何冊かの古びた教科書を重ね、その怪しげなギターケースを引っ張り出した。


そうすると当然の如く、大量の埃が俺に向かって落ちてくる。


ぐぉ……



「ゲホゲホゲホゲホ……」

「ちょ、大丈夫クラ?」

「平気ッス……ブハッ!!」

「ごめんね。後で家に帰ったら、一緒に風呂に入って洗ってあげるね」

「はい……」


聞くな。


奈緒さんが言った風呂の件に関しては、なにも聞くな。


にしても、これ……汚ねぇなぁ、オイ。

俺の全身が、一瞬にして埃塗れになりやがったよ。

(↑必死に、心の中で誤魔化す俺)


取り敢えず、このまま奈緒さんに渡す訳にもイカネェから、カバーの部分だけでも拭くか。

俺の記憶が正しければ、奈緒さん『素直に制服借りた』とか言ってたもんな。


なら、尚更、汚す訳にも行くまいて……


俺は、本で作った段差を降りると、そこら辺にあった雑巾でケース全体を拭き取った。

それが終わると、再度持ち上げて奈緒さんに渡そうとする。


それにしても、やけに重いな。


なにが入っとんじゃ?



「はい、奈緒さん。どうぞ」

「うふふ、ありがとクラ♪お礼に、ちゅ~したげよっか」

「いや、それは後程、タップリ頂きます」

「うん、わかった」


ご機嫌だな。



「じゃあ、じゃあ、早速開けよっか。……ねぇねぇ、クラ。なんか、こう言うのドキドキするよね」

「はぁ、まぁ、それ也には」

「ノリ悪いなぁ、もぉ」

「あぁ、嘘ッス。ドキドキしてるッス」

「はいはい」


あっ、膨らんで、ちょっと怒ったみたいだ。


まぁ、奈緒さんがこの程度の不機嫌に成るのは、いつもの事だから、気にしないでおこう。



「あぁもぉ、クラのせいで、折角の緊迫感が、なんか無くなっちゃったよ。開~けよ」


ロックされてる箇所が4箇所。

ハードケースの形からして『セミアコ』『アコギ』『SG』……まぁ後は特殊ななんか。


ギターケースの中身は、恐らく、この選択肢で間違いは無いだろう。


しかし、ギターとは解ってはいるが、一体なにが入ってんだ?

あれほど埃が被ってるって事は、相当年代もんだよな。


全てのロックを外し、奈緒さんがケースを開けた。


そこには……



「うわっ。なんッスか、それ!!予想通り、きったねぇギターッスね」

「あぁ、凄~い!!M-80じゃない。やったぁクラ!!お宝だよお宝♪」

「へっ?」


あっ、あれ?なに、この反応の違い?

俺には、ピックガードも無い、傷だらけの小汚いギターにしか見えないんッスけど……なんか、それ、そんなに凄いもんなんッスか?


そのウルトラマンが住んでそうな星雲の名前のギターッスけど。

(因みにだが、ウルトラマンに住んでる星雲はM-78……どうでも良ッスね。そうッスね)



「あの~、奈緒さん。なんで、そんなに喜んでるんッスか?」

「うん?だって、これ、M-80だよ。テンション上がるって」

「なんッスか、そりゃあ?」

「あのね、あのね。このギターってね。仲居間さんが持ってるSG同様のビンテージ物なのよ」

「ビンテージって、あれッスよね。あの『古臭くて良い物』って意味の奴ッスよね」

「そぉそぉ、そのビンテージ」


う~~~ん、このボロさでビンテージって言われてもなぁ。

どう見ても、ただの小汚いギターにしか見えないんだがなぁ。


つぅか、崇秀のSGと違ってボロボロじゃないッスか。



「あの、奈緒さん。結構ボロそうッスよ。ビンテージって言うには、ちょっと汚すぎませんか?」

「なに言ってのよクラ。この独特の風貌が良いんじゃない。なんか使い込まれてて、これ、凄い良い感じだよ」


う~~~~~~ん、ビンテージの定義が、全くわからん?

俺の中でのビンテージってのは『古く』て『良い物』で、それでいて『綺麗な物』ってのが定義なんだが……どうやら、この奈緒さんの様子からして、そうじゃないらしい。

奈緒さんの意見だと、前者の2つが重要で『古い』と『良い物』って言うのだけでOKらしいからなぁ。


わからん。



「そっ、そうなんッスか?」

「うん、そうだよ」


やっぱり、そうらしい。



「っで、それって、いつ位の物なんッスか?かなり古そうッスけど」

「うんとねぇ。シリアルナンバーから言って、ロッコーマンが輸入してた時代の物だから、多分1970年代の物だと思うよ」

「結構、古いッスね。あぁそれと輸入って事は、海外物なんッスか?」

「そだよ」

「ふ~~~ん。それにしても、ホントに、そんな薄汚いギターに価値が有るんッスか?」

「うん。思いっ切り有るよ」

「そうなんッスか」

「うん。このM-80はね。『GUILD』って、アメリカのメーカーが作ったギターなんだけどね。今はFENDERに吸収されて、メーカー自体が無くなっちゃってるのよ。だ・か・ら、最近じゃ当時の物のタマ数も減って、高額で取引されてる。多分だけど、程度が良ければ、中古で20万ぐらいで出たら、直ぐに売れちゃうんじゃないかな」

「ぶっ!!」


おいおい、こんな小汚いギターが、中古市場で20万以上で即売だと!!


って事はなにか?

おっ、俺の新品で買ったベースより、余裕で価値が高いって事じゃねぇかよ!!


うわぁ~~有り得ねぇ~~~!!


恐るべしビンテージだな!!



「けっ、けど、なんで、そんな価値が有るんッスか?」

「うん、あのね。この年代のギターってね。木が物凄く良いのよ」

「木が良いだけで、そんなに価値が付くもんなんッスか?」

「まぁ、それもあるんだけどね。年数を重ねたギターってのは、独特の渇いた良い音がするのよ。ギターリストって、そう言う音を求めて、ビンテージ物を買っちゃうのよね。……だ・か・ら、これ、凄い拾い物だよ」


渇いた音ねぇ。

なんか、良くわかんねぇ表現だな。


大体にして、なにを基準に渇いてるのかサッパリだ。


あぁけど、そう言えば……奈緒さんがいつも使ってたベースも、かなり古いものだったな。

あれも、俗に言うビンテージ物なのか?



「あの~、奈緒さん」

「うん?なに?」

「あの奈緒さんの使ってるFresher/Personal Bassって奴も、ビンテージなんッスか?」

「あぁあれ。あれはただの安物だよ。人から譲り受けたものだから、使ってるだけ」

「じゃあ、価値は無いと」

「全然無いよ。確かにメーカーとしては、変な物ばっかり作るから、かなり面白いメーカーではあるんだけどね。残念な事にビンテージ価値は殆ど0。この間オークションで、ハードケース付きのが5000円で売ってたもん」


安っ!!

同じ古い商品でも、木の良し悪しだけで、これだけ価値に雲泥の差が出るもんなんだな!!


つぅか、逆に言えば、奈緒さんは、そんなチャチな商品で、あれだけの音を出してるって事だよな。

そう考えると、この人のベース演奏力って底が知れねぇな。


おっかね。



「そんな事よりクラ。そろそろ戻るよ」

「あぁ、そうッスね。そう言やぁ、アイツ等の事をスッカリ忘れてましたよ」

「何気にヒドッ」


奈緒さんは、そう言いながら、M-80を持って、楽しそうに音楽室に戻って行った。


勿論、俺もその後を追う。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


いやぁ~~~ヴィンテージ商品は怖いですね。

見た目だけで言うなら、ボロボロのギターなのにも拘らず、その価値はなんと20万以上!!


まぁ、そんなビックリするほど高いギターではないんですが。

このギター、私も所持しているギターなのですが、めっちゃくちゃ良い音が出るんですよ♪


もし楽器屋さんなんかで見かけたら、是非、試し引きして見て欲しい逸品です(笑)


さてさて、そんな中、次回は。

そんなギターを下げて音楽室に戻って行く2人なのですが……音楽室に残っていたイケメン2人組は、どんな反応をするんでしょうね?


もし気になりましたら、是非、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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