342 クラ……あれ、取って

 第二音楽室で練習を続ける俺達3人組。

だが、慣れない練習で、イケメンコンビに少し疲れが見えて来たので休憩していたら……そこにモッタ臭い女の子が登場。


そして、その正体は『変装した奈緒さん』だった!!


しかもその場で、いつもの様に、奈緒さんに良い様にからかわれる俺だったが。

イケメンコンビの片割れであるカジに、その間抜けな姿を見られてしまったかもしれないので、焦る俺。


辞めろぉ~~~俺を見るなぁ~~~!!(/ω\)


***


「つぅか、クラっさん、誰?」

「いや、あの、あれだ……」

「あっ、あの、はじめまして、私、一年の田中奈緒美です。今日は、倉津先輩に頼まれて楽器を弾きにきました。宜しくお願いします」


うわぁ~、俺が動揺する中、間髪入れずに、奈緒さんの悪乗りが始まったよ。


しかし奈緒さん、そんな微妙な設定付けして、どうする気なんッスか?



「『楽器を弾きに来た?』なんで?今日決まった事を、田中さんが知ってんだ?」

「いや、だから、あれだ」

「あぁっと、さっき、倉津先輩から連絡が有ったんですよ。私、まだ学校に居たもんですから、コチラに駈け付けさせて貰ったんですけど。……ご迷惑でしたか?」


奈緒さんは、牛乳瓶眼鏡の下から、上目遣いに梶原を『チラチラ』見てる。


それを見た梶原は、直ぐに顔を赤らめる。


そうなんだよなぁ。

この人、こう言う表情させたら天下一品なんだよな。

『おさげ』に『牛乳瓶眼鏡』っと言うモッタ臭い格好してるクセに、隠し切れない色気があんだよな。


幾ら梶原がモテる中学生だからって言っても、中学生なんぞに抵抗出来る訳ないんだよな。


まさに、恐るべし向井奈緒。

この辺に関しては、向井だけに『向かう所に敵なし』って感じだな。


上手いな俺!!



「ぜっ、全然、全然。寧ろ、女の子が来てくれるなんて大歓迎!!」

「本当ですか?嬉しいなぁ」

「あっ、あの、それで田中さんは、楽器なに出来るの?」

「えぇっと、ギターですね……あぁっと、それと私の事は、奈緒で良いですよ先輩」


瞬時にギターが居ない事を悟って、自分を、そのパートに突っ込んでいったよ。


ホント、無茶するなぁ。


あぁ、けど、そうかそうか。

この人、楽器に関してはユーティリティー・プレイヤーだから、なんでも楽器が弾けるんだったな。


しかし、大丈夫かねぇ。

(↑違う意味で)



「あっ、あぁ……」


あぁ、やっぱりだ。

梶原の奴、奈緒さんの天然フェロモンに、完全に侵されてやがる。


それを見た奈緒さんは『クスッ』っと悪戯に笑った。


ダメだ、これは、絶対に奈緒さんが悪乗りするパターンだ。



「さぁ、先輩。早く練習しましょ。みんなで一杯練習して、一杯上手くなりましょうね」

「あっ、はっ、はい」


うん、完全に堕ちちゃったな梶原。


それじゃあオマエ……どっちが先輩で、どっちが後輩かわかんねぇぞ。


ショボ!!



「ほぉ~らっ、倉津先輩も早く」

「うっ、ウッス」


問答無用で俺の背中を押して、第二音楽室に押し込んでいく。


俺もショボ!!


あぁ……とうとう奈緒さんが仕切り始めちゃったよ。


そんな中。



「誰だ?」

「えっとな、グチ。この子は、1年の田中奈緒美ちゃんって言うんだ。なんかクラっさんの知り合いで、俺等を手伝ってくれるらしいんだよ」

「それは、本当か?」

「あっ、あぁ」

「そっ、それで、彼女のパートはなんだ?なにが出来るんだ?」

「ギターだそうだ」

「それは助かるな。丁度、居なくて困っていたパートだったからな」

「初めまして、田中奈緒美です。先輩、宜しくお願いしますね」


また眼鏡の下からチラ見したよ。


奈緒さん、奈緒さん。

奈緒さんの目は、生まれつきの『魔眼持ち』なんだから、無闇矢鱈に、その魔力を放出しちゃいけませんよ。


少しは自重して、悪乗りを抑えなさいっての!!



「あっ、あぁ、コチラこそ、宜しく頼む」


ほらぁ~、またッスよ。

奈緒さんの目を見ただけで、大概の男は一撃で堕ちて行くんッスよ。


山口の奴、完全に動揺してるじゃないですか。



「はい♪」


だから可愛く『はい♪』じゃないですよ……もぉ。


知りませんからね。

そんなムチャな事バッカリして、俺、責任取りませんよ。



「とっ、ところで、田中さんは楽器を持ってない様だが」

「あっ、はい。こちらに来れば、お借り出来ると、倉津先輩から、お聞きしてましたので」

「そうなのか倉津?」

「あぁ、確か馬鹿秀が、準備室の方に、何本かギターを置いてる筈だぞ」

「じゃあ、早速、お借りしちゃって良いですか?倉津先輩♪」


チョコチョコと、教室内を捜索する。


いや……奈緒さん、それ、なにキャラっすか?



「すみません。此処の準備室って、何所ですか?」

「あぁ、こっちだ」

「あっ、はい。慌ててすみません先輩♪」


奈緒さんのしたいキャラが良く解りました。


『後輩萌』を狙った萌キャラ設定なんッスね。


そうッスね。


やりたい事を明白にした彼女は、俺の後をチョコチョコと付いて来て、準備室に入っていく。


***


「ちょ、奈緒さん。マジで、どういうつもりなんッスか?」

「うん?別に、なんでもないよ。後学の為に『最近の中学生事情を知って置こうかなぁ』とか思っただけだけど、なんか不味かった?」

「やり過ぎッス。カジもグチもメロメロじゃないッスか」

「ふ~ん。あんなので、メロッちゃうんだ。ふ~ん。なるほど」

「じゃなくってッスね。俺が言いたいのは……」

「ねぇねぇ、クラ。そんな事よりさぁ。ギター何所?」


聞いてねぇし……


もぉ、ホント、この人だけは、俺の話を聞かない人ッスね。

少しは、俺の話を聞きなさい!!っての。



「あぁ、多分、その辺に、沢山転がってると思いますよ」

「あっそ」


奈緒さんは、俺の言葉を聞くと、直ぐ様、嬉しそうにギターの方に向かって行った。


あぁでも……多大な期待してもダメっすよ。

まぁ多分なんッスけど、アイツ、此処には大したギター置いてない筈ッスから。


確か、安物のギターを何本か置いておいて、初心者相手にギターの講座とかしてただけらしいッスからね。

その為のギターなんで、精々良くても5万程度までの奴だと思いますよ。



「あぁ、やっぱりPHOTO GENICしかないかぁ……残念」


ほらね、初心者が買い易い様な安い奴しか無いでしょ。


それ、確か、アンプとか諸々付いて2万の奴ッスよね。

雑誌の裏側広告で、何度か見た事あるッス。



「なんかないかなぁ?もぅちょっと捻りの効いたパンチのあるギターはないかなぁ?」


諦め切れない奈緒さんは、更に奥の方を捜索しだす。


この様子からして、恐らく彼女は、今こう考えているのだろう。

『崇秀の事だから1本ぐらいなら、この音楽室にも使えるギターがある筈』だと。


まぁけど、非常に申し訳ないんッスけど、多分、そう言うギターは無いと思うッスよ。

アイツ、自分の大事なギターは、大抵、自分の手元に置く様な男ッスからね。


そんな大切なギターを、こんな汚い準備室に置き去りにする可能性は、かなり低いッスからね。



「うん?あっ!!やったぁIBANEZだ」


ってか!!有るんかい!!


アンニャロ~~~!!心の中で一生懸命オマエの心境を説明してやった俺の時間を返せ……


しかしまぁ、それにしても、あれだな。

また奈緒さんも厄介な物を見付けてくれたもんだな。

IBANEZって言やぁ、ステラが使ってるRocketRollⅡとか言うフライングVと、崇秀が使ってるUV-7とか言う7弦の厳ついギターを製作したメーカーだろ。


なんかメーカーを聞いただけで、嫌な予感がするんだよなぁ。

使ってるユーザーがユーザーなだけに、ロクでもないモンが出てこなきゃ良いけどな。



「う~~ん。1ハムに改造されたDTかぁ……悪く無いんだけど、イマイチ。フィルコリンのシグネイチャーモデルとか出て来たら、問答無用で使っちゃうんだけどなぁ」


いや、奈緒さん。

それ以前に、曲のイメージと、ギターの容姿が合ってないッスよ。


なんッスか、その厳ついギターは?

バラード系の曲を弾く様な容貌じゃないッスよ。


せめて、使うなら使うで、俺の嫌いなセミアコ系にして下さい。


若しくは、諦める方向で……


だが……そんな俺の意思に反して、奈緒さんは文句を言いながらも、お構いなしに、更に奥へと進んでいく。


奈緒さん奈緒さん、もぉいい加減にしないと、素直に借りた制服が汚れますよ。



「うん?あれ?あれ、ギターだよね?なんだろ?なんで、あんな所にギターケースなんか置いてあるんだろ?おかしいなぁ、普通、あんな所には置かないんだけどなぁ」


また奈緒さんは、なんか良からぬモノを発見したらしい。

ブツブツと文句を言ってる割に、奈緒さんの眼がキラキラしている。


あの表情は危険だ。


けど、此処からじゃ、なにも確認出来無いな。


少し近付いてみるか。



「なんか見付かったんッスか?」

「あれ。あそこのあれ」


奈緒さんの指差す方向は、棚の上にある、天井近くのギターケース。

そのケースは、如何にも、何年も使われていなかった様に、かなりの埃を被っている。


しかも、ケースの先っちょが、棚から少し見えてる程度。


よくもまぁ、あんなもん見つけたなぁ。


けど……明らかに、あれは、崇秀の持ち物じゃないな。

神経質で、潔癖症で、几帳面なアイツが、あんな置き方をする筈が無いからな。


そこから察するに、置き忘れられた卒業生のものかなんかだな。



「あぁ、確かに、なんか怪しげなオーラが出てるケースが有るッスね」

「ねぇねぇ、クラ。あれ、取って」

「いや、あれ、どう見ても、かなり汚い物ッスよ」

「取って」

「もぉ、なんで、そんなにあんな汚い物に固執するんッスか?スカだったら、俺、埃だらけになるだけで、哀し過ぎますよ」

「うぅ~、そうなんだけどさぁ。なんか、あぁ言う所に置いてある物って、宝物っぽいじゃない。ハズレだったらさ、さっきの使うから。お願い取ってクラ」


宝物とな。

あんな汚いものが、宝物ッスか?


いやいや、奈緒さん、そりゃあ有り得ないッスよ。


だって……此処、ただの公立の中学校ですよ。

過度に期待をしたって、なんも良い物なんて出て来ないッスよ。


さっきのDTとか言う奴が限界ッスよ。


変に期待しても、絶望を呼ぶだけですよ。



「もぉ奈緒さんは、しょうがないッスねぇ。奈緒さん、そこ危ないから、ちょっと退いてて下さい」

「はいは~い」


はぁ~、結局、この笑顔にゃ勝てん訳だな。

はいはい、じゃあ取って上げますけど、汚れちゃいけないから少し離れてて下さいよ。


こうして俺は、奈緒さんの指定した汚いギターケースを引っ張り出す為に動き出すのであった……


しかしまぁ、俺って、この人には、とことん甘いみたいだな。


マジで笑えねぇな。

(↑っと言いつつ、奈緒さんの可愛さに、にやけてる俺)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


奈緒さん……また、なにやら倉津君に我儘を言ってますね(笑)


まぁでも、それを可愛いと思わせれる女の子は凄いと思います。

見た目だけの問題ではなく。

性格的が可愛くない子が、これを言ったら『嫌に決まってんだろ!!』って言われるのがオチですからね。


それを嫌々ながらも相手にやらせてしまう。

これを世間では……【魔性の女】っと言うのですよ(笑)


さてさて、そんな中。

次回は倉津君が、そんな奈緒さんの我儘を聞いて、ギターケースを棚から取り出すのですが。


一体、何が出て来るのやら?(笑)


もし、その辺が気になりましたら、また遊びに来て下さいねぇ~~~♪

(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る