341 ついに舞い降りた悪戯な妖精

 使われていない第二音楽室を練習場にして、カジ&グチの演奏レベルを測ってみた俺。


その結果……

カジは、かなりの即戦力。

グチは、俺がベースでリズム引っ張らないと、かなり微妙……っと言う事実が浮き彫りになった。


ぐぬぬ(´Д`)


***


「ふぁ~疲れた。バンドの練習って、結構、疲れんだな」


10回目の音合わせをした時に、梶原がそんな事を言ってきた。


おやおや、この程度の練習で、もう疲れちまったのかい?

そりゃあまた、情けねぇ野郎だな。



「アホか。この程度で、イチイチ疲れてどうすんだよ。こんなもん、まだ序の口にもなってねぇぞ」

「マジ?マジで?そんなにバンドの練習ってハードなのか?」

「あぁ、マジもマジ、大マジだ。つぅかよぉ、根つめてやるときゃ、2~3日のオールなんぞ当たり前だぞ」

「うへぇ~、音楽業界って厳しいんだな」

「まぁ、音楽業界に限らず、どの業界もそんなもんだ。甘ぇとこなんぞどこもねぇよ」

「うへぇ~~~、大人って大変だな」


因みにだが、梶原と、俺が喋ってる間、山口は、完全に沈黙している。

どうやら慣れてねぇ練習に、完全にグロッキー状態になっちまったみたいだな。


んじゃあ、しゃあねぇか。

カジも少し喉に疲労が溜まって来てるみたいだし、此処は1つ休憩にすっか。


……しかしまぁ、なんだな。

今のこの2人を見てると、自分がベースを始めたバッカの時を思い出すよな。


ちょっと弾いては、直ぐにヘロヘロになって、バンドのメンバーには一杯迷惑掛けたもんな。


なんか懐かしく感じるな。


そんなノスタルジックな気分に浸っていると……『カラッ……』っと小さな音を立てて、開く筈の無い扉が少しだけ開いた。


そしてそこから、何故か『おさげ』に『牛乳瓶眼鏡』の少々モッタ臭い女の子が半分だけ顔を出して、部屋を覗き込んでいる。


誰だ?


俺は、無意味に、その女の子に興味を引いて、そちらに向かって歩き出した。


……だってよ。

こう言う展開って、漫画とかだったら、スーパーで、スゲェヘルプの人間が登場する場面だろ。


『ひょっとして、この子がそうなんじゃねぇか?』なんて期待を込めちゃうんだよな。


まぁ、あの見た目からして、絶対無いだろうけどな……



「なんか用か?」

「あっ、あの……」

「うん?なんだよ?」

「だから、あの……」


なっ、なんだ?

なにが言いたんだ、コイツ?

しかも、妙にソワソワ・モジモジしてやがるな。


あっ!!あぁ……ひょっとして、あれか。

これは梶原か、山口のドチラかのファンの子か?


此処で2人が楽器を弾いてるって情報を、どこからか仕入れて、どちらかに逢いに来た訳だな。


んで、俺みたいな厳つい奴に、声を掛けられてビビってると。


なるほど、解り易い展開だな。


しくしくしくしく……



「あぁ、別にビビんなくて良いぞ。カジか?グチか?ドッチに用事なんだ?」

「はぁ、あのねぇ……ちょっとは気付いてよね。この鈍感」

「はぁ?」


うっ、うん?

誰だかは知らないが、この子、豪く攻撃的なセリフを吐いてきたな。


俺に向って、そんな言葉を言う奴は、この学校には少ないんだがな……はてはて、これはまたおかしな光景だな。


『ふわ』

そう思っていると、おさげの女は髪を少しかき上げた。


……って、オイ!!

この独特の柑橘系のさわやかな香り……


オイオイまさか……


そう思った瞬間、おさげの女の子は、眼鏡をずらして、自らの顔を見せた。


『!!』



「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと奈緒さん!!こっ、こんな所で、なにやってんッスか?」

「うん?なにって、クラが遅くなるからって連絡してくれたから、逢いに来ただけじゃない」


かぁ~~~!!確かに、俺の予想通りの漫画展開。

このバンドにとっちゃあ、スーパーでヘルプな人間だが……寄りにも寄って、それが奈緒さんって、アンタ。


あまりにも求めてるレベルと掛け離れ過ぎてるわ!!



「いやいやいやいや、つぅか、仕事はどうしたんッスか?」

「うん?そんなのとっくに終わったよ。そんでね。暇だから、素直に制服借りて、勝手に入って来ちゃった。……似合う?」

「いや、そりゃあ、似合いますけど……いやいや、そうじゃなくてッスね。なんでワザワザそんな手の込んだ事するんッスか?家で待っててくれりゃ、終り次第、直ぐに行きますのに」

「それじゃヤダ。クラが驚かないもん」


もぉ、この人だけは……なんで直ぐに、そう言うサプライズ的な事をしたがるかなぁ。

女性に、そんなにサプライズな事をされたら、俺の立つ瀬が無いッスよ。


ったくもぉ……



「っでさぁ、クラは、此処でなにやってんの?」


あっ、ヤバイ。

なにも言ってないのに、早くもなんか感づいた。


勘が鋭過ぎるな。



「いっ、いや、別に……」

「うん?なによ、その煮え切らない態度は?私に隠し事?」

「いや、そうじゃなくてッスね」

「じゃあ、なんなの?早く言ってみ」


いや……別に隠し立てする様な話じゃねぇんだけどよぉ。


奈緒さんは知っての通り、ちょっと変人。

ちょっとした面白い切欠を与えると、直ぐに、思いもよらない様な破天荒な事を平気でする。


故に、これを教えると言う行為は、かなりの危険性を孕んでいる様な気がしてならない。


ってか、解り易く言うとだな。

『核爆弾のボタンを、サルに掃除させる』に匹敵する危険性だ。


危なっかしくて、しょうがない。



「いや、大した事じゃないんッスよ。ちょっとした文化祭の手伝いって奴ッス」

「ふ~~~ん。不良のクラがねぇ。文化祭の手伝いねぇ」


あぁ、疑ってるな。

明らかに眼が疑ってる。


いや、でも、あれッスよ。

不良だって言っても、偶には、人の役に立つ事だってあるんッスよ。


まぁ、極稀にッスけどね。



「まじッスよ」

「じゃあさぁ、その手伝いとやらを、私も手伝ってあげるよ。その方が、早く済むでしょ」

「いやいやいやいや、学校行事ッスから、奈緒さんが手伝ったら不味いッスよ」

「なにを、そんなに焦ってんのよ?良いの、良いの、そんなのバレなきゃ良いの。全然問題なしだよ」

「いやいやいやいや、大体、奈緒さん。俺が、なにしてるか知らないじゃないッスか」

「うん?知ってるよ」

「なんでぇ?」

「だって、さっきから『Blinded by me』が教室から聞こえて来てるじゃない。クラの言う手伝いって演奏でしょ」


はい……おっしゃる通りですね。


なにも間違っていませんな。



「はぁ、まぁ、そうなんッスけど……」

「じゃあ、私も手伝えるじゃん」

「けどッスね……」

「あっそ。やなんだ。私と演奏するのが、そんなに嫌なんだ」

「いや、そうじゃなくてッスね。変装が見破られて、奈緒さんだってバレたらどうするんッスか?」

「うん?どうもしないけど」


無自覚!!

この無自覚王国の無自覚女王!!

あのねぇ奈緒さん、アナタの今の立場は、世間を騒がせてる人気沸騰中の芸能人なんッスよ。

そんな人がワザワザ、こんなチンケな事に付き合う必要なんてないッスよ。


少しは自分の置かれてる立場ってもんを自覚して下さいよ。


お願いしますから……



「いや『どうもしないけど』じゃないッスよ!!バレたら、学校中が大事になるんッスから」

「あぁそう。そう言う事を言っちゃうんだ。折角さ、仕事が早く終わったから、わざわざクラに逢いに来たって言うのにさ、私を、そんな風に邪険に扱うんだ」

「じゃなくて」

「良いよ、良いよ。そんな事を平然と言っちゃうんなら、もぅ2度と遊んであげないからね」


ダァ~~~!!この人は、ホント我儘だな。

自分の思い通りにならなかったら、容赦なく、嫌な事を突きつけてくるんだから。


そう言う意地の悪い事を言っちゃダメですよ。



「もぉこの人は……」

「なによ?手伝わせてくれるの?くれないの?」

「もぉ……」

「『もぉもぉ』言われてもわかんない。私、牛じゃないし」

「もぉ、わかりましたよ。じゃあ、お願……」

「ダメダメダメダメ、お願い事は、ちゃ~んと言うんだよ。『奈緒にゃん、手伝って欲しいにゃん』って言ってみ。じゃなきゃ、帰る」


ぐっ!!


もぉ、この人だけは……俺が学校内で、そんな事を言える訳ないじゃないッスか!!

一応ですけど、俺にも、俺也の立場ってモノがあるんですよ!!


まぁ、そうは言ってもだな。

奈緒さんが、此処まで俺に意地の悪い事を言うのには、訳があんだよな。


実はな、此処数週間、バンドのヘルプが忙しくて、全然、奈緒さんに逢ってなかったんだよな。


その上、此処数日は、女子のダイエットの話で大忙しだっただろ。

恐らくは、そのせいで意地悪度数が30%程上がってるんだよな。


まぁ前々回、広田には、偉そうな事を言ってはみたものの、実際は俺も、人の事は言えた義理じゃねぇよな。


笑えね。


つぅ事なんで、そのお願いの仕方、謹んでお受けします。

(↑結局、果てしなく弱い俺)



「奈緒にゃん、手伝って……」

「クラっさん、さっきから、なにやってんだ?誰か来てるのか?」


『ビクッ!!』


突然、背後から聞こえて来た梶原の声に、俺の体は、液体窒素(瞬間冷凍保存に使われる液体)をぶっかけられた様に、一瞬にして凍りつく。


そして、その隙に、奴は、やや近くにまで近付いて来た。


オイオイ、この至近距離……今のセリフ聞かれたか?

まさかとは思うが、全部、聞かれちまったんじゃねぇだろうな?


もしそうなら、即座に梶原を始末せねば……

(↑ただ単にイケメンを殴りたいだけ(笑))


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


ついに……ついに舞い降りて来ましたね。

サプライズな事が大好きな悪戯な妖精……倉津君の彼女・奈緒さんが(笑)


まぁ、奈緒さんは相変わらずの様なのですが。

これまた波乱の予感+何故、イギリスの会社と契約した筈の奈緒さんが、日本に居るのでしょうか?


その謎についても、徐々にお話していきたいと思いますので。

また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る