340 イケメンコンビの実力

 なんだかんだとありながらも、バンドがする事が決まったので。

先に上島のオッサンへのデータ送信を済ませてから、学校内にある練習場所に移動する事にした。


さて、そんじゃまぁ、一発やってみますかね(´Д`)ハァ…


***


 ……30分後。

カジ・グチコンビを従えて、二ヶ月間、全く誰も使っていない第二音楽室に到着した。

此処なら騒音対策も出来てるし、崇秀の馬鹿が楽器類を一式揃えているからだ。


なので俺は、ポケットから勝手に作った合い鍵を取り出し、何事もなかった様に扉を開く。



「おぅ。最近使って無いから、少し汚れてるけど、中に入れよ」

「オッ、オイ、クラっさん。此処、勝手に使って良いのか?」

「構わねぇの。此処は元々崇秀が好き勝手に使ってた空き教室なんだからよ」

「そっ、そうか」


最初は、少しビビッた感じでオドオドと中に入ってくる両名。

どうやら、この様子からして……この2人は、こう言う事には慣れていないらしい。


コイツ等2人、前々回、津田が屋上に勝手に入った時の感じに似ている。


……にしても、意外とショボイな、コイツ等。

俺の中では、こう言うナンパな手合いは、こう言う場所の1つや2つ確保しているものだと思っていた。


得てして女誑しとは、そう言う生き物だと認識してたんだがな。

(↑誑し代表、崇秀・山中)


***


 まぁ一応、そんな感じで中に入って来た2人なんだが。

誰も居ない事に安心したのか、まずは適当な席に腰を下ろす。


それを確認すると、俺は落ち着いて話を始めた。



「さてと、お2人さんよ。まぁ今日は、初顔合わせって事で、まずはオマエ等の演奏レベルを教えて貰いたいんだが。……どんな感じなんだ?」

「さっきも言ったが、叩ける程度だ。正直言えば、人に聞かせられるレベルじゃないな」

「俺も、俺も、カラオケで97点出したのが、唯一の自慢って所だな」


糸色望・糸色句した!!


オイオイ、オマエ等なぁ。

一体どうやったら、そんな味噌ッカス・レベルで『優勝する』なんて厚かましい言葉が出て来るんだよ?


まぁ……まぁ敢えて言えばだな。

ボーカルであるカジのカラオケ97点は受け入れられる。

楽器を使わない以上、ヴォーカルには、多くのテクニックが必要ないからな。

曲の音程さえ合って、ソコソコの歌唱力があれば、何とかならなくも無い。


だがなぁ『優勝を狙う』って言う目標を掲げるなら、ドラマーであるグチが『人に聞かせられないレベル』ってのは、流石に頂けない状況だな。


どうしたもんだ?


マジで、そのレベルなのか?


此処は、真相を確かめて置く必要が有るな。



「おいおい、グチ。人に聞かせられねぇレベルなのは結構だがよぉ。4・8のリズムぐらいキッチリ取れんだろうな?」

「『正確に?』っと聞かれたら、正直自信は無いな」


ぐっ!!事態は、更に困窮してきたな。

最低限4・8のリズムぐらいキッチリ取れてくれねぇと、流石にどうにもなんねぇぞ。

何故なら、ドラムのプレイが悪い=バンド自体のバランスが崩れやすい。

こう言う基本的なバンドの方程式が有る以上、このまま演奏をする事自体危険極まりない。


どこかの誰かが言った言葉なんだが……『良いバンドには、必ず最高のドラマー有り』

それ程ドラムは、バンドにとっては重要なパートだ。


こりゃあまいったなぁ。

これじゃあ早くも致命的だよ。


まぁでも、しゃあねぇ、しゃあねぇ。

落ち込んでても、なんの好転も有る筈無いし、まずにしてなにも始まらねぇ。

取り敢えず1度、この部屋にある安物のドラムを叩かして、グチの正確な実力を測ってみるか。


悩むのは、それからでも良いだろう。



「OKだ。んじゃあグチ、取り敢えず、そこにあるドラム叩いてみろよ」

「えっ?今、叩くのか?」

「オ~イ。今、叩かねぇで、いつ叩くんだよ?早めにオマエの実力を把握しておきたいんだから、ゴチャゴチャ言ってねぇでサッサと叩け」

「そう言う事か」


山口は、俺の指示に従い足早にドラムに向い椅子に座る。


そして座るなり、自分の腕を伸ばしながら、軽い腕に柔軟をし始めた。


あぁ……あれ、山中も演奏前に、よくやってたな。

あれをするって事は、ひょっとして、結構、上手いんじゃねぇのか?


少しだけ、変な期待をしてみる。



「では、演奏するぞ」

「あぁ、頼む」


♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-……


びっ……微妙……

演奏のメリハリも無く、フィーリングもどこか薄い。

だから、ドラムを叩いてると言うよりは、どちらかと言えば、ドラムに叩かされてる感が否めない。


予想していたものよりは酷くはないが、今まで俺が知り合ったドラマーの中では、間違いなく最低レベルだ。


けど……此処で貶しちまったら、凹んじまうだろうしなぁ。


なら、少し褒めて伸ばす方向を模索してみるか。



「OKだ。悪く無いぞ」

「本当か?」

「あぁ、悪くねぇ。但し、もっと良くしようと思うなら、少しリズム感を鍛えねぇとな。その課題をキッチリとクリアーさえしてくれりゃあ、優勝も、かなり見えてくるぞ」

「どうやるんだ?」

「まぁ、そう慌てんなって、取り敢えず、もう1回ドラム叩いてみろよ。俺がベースで引っ張ってやっからよ」

「倉津には、そんな事も出来るのか?」

「まぁな。伊達や酔狂で、毎日の様にバンドのヘルプばっかしてねぇよ」


俺は、最近演奏傷の増えてきたFenderを取り出した。



「んじゃま、軽くやってみっか」

「頼む」


♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-

♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-♪-


ん?なんだよ。

結構、上手く合わせれるじゃねぇかよ。


まぁ相変わらず、フィーリングって部分では、あまり良い物を感じないが、リズム感自体は、そんなに悪くは無い。

この様子からしてコイツ、今まで、誰ともセッションした事ねぇな。



「おぉ、悪くねぇじゃん。つぅかよ。中二でそんだけ出来りゃ十分だよ」

「本当か?本当にそう思ってるのか?」

「あぁ、思ってるぞ」

「そっ、そうか」


やや満足気だ。


まぁ、この程度で満足して貰っていては困るんだがな。

今のところは、これでOKって事にしておこう。



「おっしゃ。んじゃ次カジ。歌入れてみっか」

「よっしゃあぁ、やっと出番の様だな」

「頼むぜ97点。期待してっぞ」

「おぅ!!」


無駄にヤル気満々だ。


力みすぎて、音外すなよ。



「……っで、曲は、なんにするんだ?出来れば、コンテストで使う曲を教えてくれれば有り難いんだが」

「『Blinded by me』……仲居間さんが作った曲だな」


オイオイ、これはまた初心者が難しい曲を選択したもんだな。

あの曲って確か、崇秀が即興で作った、鮫島の馬鹿を唄った曲。

んで、曲自体はバラード。

しかも、唄や、演奏に表現力が無ければ、アッと言う間にスカみたいになっちまう曲な上に、その表現力を上げる為に必要なギターや、シンセのメロディーラインがないと来たもんだ。


兎に角、そんな理由から、この曲を弾くには、そんな多大なリスクがある曲なんだよな。


それを唯一補えるのが、カジの奴の歌なんだが……コイツ、そこまで上手く唄えんのか?


まっ、良いや。

そんな風に疑問は残るが、取り敢えず、やってみよ。


聞く前から、ゴチャゴチャ考えてても始まんねぇしな。



♪~~~~~


演奏に合わせて、カジが唄い出す。


うっ……上手い!!流石、カラオケで97点を取るだけの事はあるな。


思った以上に歌唱力がある。


勿論、上手いと言っても、素直や、奈緒さん・椿さんの様な、化物的な表現力はそこにはない。

ただな、それでも気持ちが伝わってくる感じは否めない。


これは、意外と拾物かも知れねぇな。



「どうよ、どうよクラっさん?どうよ?」

「あぁ、悪くねぇな。つぅかよ、思った以上に上手いな」

「おっ!!マジかよ?」

「あぁ、その歌唱力が有れば、マジで優勝狙えるかもしんねぇぞ」

「へへっ、そりゃ光栄なこった」


しかし……喜ばしい反面。

カジがこれだけ上手いとなると、また違う問題が出てきたな。


出て来た問題って言うのは、当然『カジとグチのレベルの差』だ。

ある意味、カジの歌唱力は、歌謡コンテストレベルなら、十分な程に完成されたものだと言っても過言じゃない。


ただ、その分、グチのレベルの低さが目立ってしまう。


こりゃあ、グチを早急にある程度のレベルまで引き上げねぇと、とんでもない失敗に終わっちまいそうだな。


それとグチを、再度、褒めておかねぇとな。



「よしよし。2人共かなりイケてる。後は本番まで練習を詰め込みゃ。なんとか形になんだろ」

「倉津。俺は、オマエ達の足を引っ張ってないか?」


げっ!!早速、なんか感づきやがったな。



「アホか?オマエだけじゃなくて、2人して、完全に俺の足を引っ張り捲くってくれてるよ」

「うわっ、ヒデェ言い方だな」

「けどよぉ。マジで練習すりゃ、モノになるのも確実だ。後はヤル気の問題だ」

「ぷぷっ、クラっさんが『ヤル気』とか言っちゃってるよ」

「るせぇつぅの。俺は、元来真面目なの」

「ぷっ」


チミは、何故にそんなに笑うのかな?


顔面が凹むまで、1回グーで殴ったろか?


そうすりゃ、俺の認識が変るのと同時に、少しは正しい物の考え方ってのも出来る様になるんじゃないか?



「おい……なに笑ってやがんだ?」

「悪い。クラっさんって、もっと怖い奴かと思ってたからさ。なんて言うか、オモシレェんだよな」

「なんで、そう言う意見が出るかな?俺、別に、なんも怖くねぇつぅの。……まぁ良いや、んな事より、練習しようぜ」

「マジで、真面目なんだな」

「ほっとけ!!」


この後1時間程ぶっ続けで『Blinded by me』を3人で練習してみた。


さてさて、どうなる事やら。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


カジ君の歌唱力は、かなり高いようですが。

グチ君のドラムは、今の所、倉津君が引っ張らないとイマイチな感じですね。


これは結構、バンドをやる上では難題です。

簡単に言えば、プレイヤーのレベルに差があり過ぎると『音のムラが出ちゃうから』なんですよ。


……って事で、またしても中々の試練が倉津君に降り注いだ感じですね(笑)


さてさて、そんな中。

ぶっ続けで練習した成果は何か出るのか?


次回は、その辺を書いて行きたいと思いますので。

また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る