330 余計な事は言うもんじゃねぇな
文化祭の出し物候補が黒板に記されていた。
だが俺は、それに対して、心の中で難癖付けながら、たっぷり愚痴を零すばかりだった。
***
「……って言う事で、多数決により、喫茶店に決まりました」
「「「「「パチパチパチパチ……」」」」」
はいはい、結局の所、一番順当な出し物である喫茶店に決まったらしいな。
まぁ、あの地獄の様な選択肢の中から『絶対にどれか選べ』って言われたら、確実にそれに行くわな。
一応だが、一番マッシな選択肢ではあるからな。
しかしまぁ、なんと言う捻りの無さ。
せめて、先で流行りそうな『メイド喫茶』ぐらい出来んもんかね、君達は?
(↑1997年には、企画はあったそうだが、実現してる店は殆どなかった)
……っと言ってもだ、今回ばかりは、順当な意見が通っただけに、俺には、なんの被害もなかったな。
これは奇跡と言え様。
出来もしない様な演劇なんぞに比べたら、1000倍以上マッシだしな。
だから、総称的に見れば、この結果は有りだよ有り。
寧ろ、ある意味『してやったり』っと言っても言い位だ。
***
……な訳が無い。
1つの難関を越えたからと言って、俺が、その程度で『なににも巻き込まれない』なんて筈も無く、いつもの事ながら、此処から面倒に巻き込まれていく。
勿論、そこには、恒例の俺のロクデモナイ一言があり、この一言が、死を招く結果になる。
それが、これだ!!1・2・3↓。
「……ったくよぉ。文化祭の出し物で、今更ただの喫茶店ってなんだよ?どうせやるなら、ちょっとは頭を捻って、メイド喫茶ぐらい出来ねぇもんかよ」
へい、そうなんでゲスよ。
今になって思えば、この一言は、本当に不用意な一言だったと思いやす。
これさえ……これさえ俺が口に出して言わなきゃ、何事もなく、丸く事は収まってたんだよな。
けどよぉ、頭に過ぎった事を口にしてしまうのが、俺の悪い癖なんだからしょうがねぇじゃんよ。
(↑結局、自業自得な俺)
「うん?ねぇ、倉津君。今『メイド喫茶』って言ってたけど、それってなに?」
隣の席に座ってる女子、伊藤舞歌(イトウ・マイカ)に、俺の独り言が聞こえたらしく小声で話してきた。
そして思考停止中の俺は、なにも考えずに、その解答をする。
ハイ、明らかに馬鹿ですね。
「うん?あぁメイド喫茶ってのはな。なんか此処最近、秋葉原の方面で、密かに企画されてる『コスプレ喫茶』のこった」
「ふ~~ん。そのメイド喫茶って、コスプレ喫茶の事なんだ。でも、なんで倉津君が、そんな事を知ってるの。なんか、あんまり、そう言うイメージ無いよね」
「あのなぁ伊藤。俺ん家は本家のヤクザなんだぞ。流行りモノを敏感に捉えなきゃ、商売上がったりだし、組員を食わせられねぇの。生き残る為には、なんでもしなきゃイケネェ、ヤクザ者にとっちゃあ今は、そんな世知辛い時代なんだよ」
「そうかぁ、なんか納得」
なにを興味を引いたのか、隣に座ってる伊藤舞歌は、やけに興味津々だ。
「なんだよ伊藤。オマエ、ひょっとして、そのメイド喫茶に興味でも湧いたのか?」
「うん。まぁちょっとだけならね。勿論、エロイ格好とかは、流石にNGだけど。可愛い服とかだったら着てみたいかなぁ」
「可愛い服なぁ。まぁ、普通にメイド喫茶ってのを考えりゃ、あのアニメみたいなヒラヒラした可愛い衣装が基本になるんじゃねぇか。……あぁ、そう言やぁオマエ。結構、そう言うの似合うんじゃねぇか」
「えっ?それ、マジで言ってる?」
「あぁ、まぁ確証はなんもねぇが、恐らく似合うだろうな。それによ、このクラスの女子って、2~3人のブスを除けば、かなりレベルが高いだろ。だから商業ベースでメイド喫茶をやったら大儲け出来んじゃないか」
なんて、適当に調子の良い事を言ったのも間違いだった。
その言葉を聞くなり、伊藤は、雛鳥に向かって、とんでもない事を言い出した。
「千夜ちゃん、千夜ちゃん。あのさぁ、あたし、ただの喫茶店やるより、メイド喫茶やりたい」
……ってな。
って!!うぉ~~い!!
冷静に成って考えてみたら、なにを言っとるのかねチミは?
自分で、なにを言ってるのかわかってんのか?
オマエさんは軽々しく、そうやってメイド喫茶を提案したけどな。
まずにしてメイドの衣装から、テーブル・椅子・料理道具、それ等を、なにからなにまで揃えたら幾ら掛かると思ってやがんだ?
それに伴って掛かる金は、恐らく、何十万って掛かるんだぞ。
そんなもん、学校の文化祭レベルのヘチョイで資金じゃ、出来る代物じゃねぇよ。
まぁ基本的にはな、俺も、ただの喫茶店よりは面白そうだとは思うが、やめとけ、やめとけ。
この企画を実行するには、あまりにも無理が有り過ぎる。
「舞歌。今、言ったメイド喫茶ってなによ?」
「由佳ちん知らないんだ?最近ね、秋葉原の方面で流行りだしてる、メイドの格好をした女の子が給仕してる喫茶店だよ」
「ふ~ん。……っで、結局、それってどう言う風に、此処で再現するの?」
「うん?クラスの女子がメイドの格好をして、お客さんをもてなすだけ。他は、普通の喫茶店となんら変わらなくて良いみたいだよ。要するにオプションみたいなものと考えれば良いんじゃないかな」
がっ!!確かにそれは、俺の求めてた『オプション的要素』だな。
けど流石に、現状じゃ無理が有るだろ。
しかしまぁ、これはまたヤバイ展開になったもんだな。
これは、メイド喫茶以前に、非常にヤバイ展開だぞ。
今、伊藤が仲良く話してる大谷由佳は、伊藤の大親友。
そんで、この2人は、ある意味、このクラスの女子のボス=発言力が高く、コイツ等が2人が此処でそれを認めちまったら、済し崩しに『メイド喫茶』に決定しちまう可能性が非常に高い。
だったら、これは、何としても早目に阻止しねぇとな。
このまま決定したら、俺にロクでもないお鉢が廻ってきそうだしな。
「オイオイ、なんでも良いから、早く決めてくれよ。俺は早く帰りてぇんだよ」
取り敢えず、メイド喫茶に決定する前に潰しちまえ。
こうすりゃ、普通の喫茶店で終了するだろ。
「なぁ~んで、そう言う事を言うかなぁ。倉津君が、普通の喫茶店に文句を言いながら、コソッと私に、メイド喫茶って物を教えてくれたのに」
「がっ!!」
アカン!!これはマジでアカン展開や。
この伊藤の一言で、この企画の全てが、一気に俺のせいになっちまったじゃねぇかよ。
これはあまりにも最悪の展開だ。
こうなったらしょうがねぇな。
出来るだけ早く、思い付くだけの打開策を打たねば……
「ふむ。倉津君が言だしっぺか。……そっか。じゃあ、それも良いのかもね。あたし賛成ね」
「がっ!!」
はい、打てませんでしたぁ~。
大谷由佳選手の剛速球かつストレートな意見に、ノーヒット、ノーラン。
はい、残念。
ノォォオォォォオオォ~~~!!なんでやねん!!
「あっ、じゃあ私も、勿論、賛成。みんなも、それで良いよね」
「おぉ、俺も賛成で良いぞ。クラっさんが出した案なら、なんか面白そうだしよ。やってみようぜ」
「あぁ、じゃあ、俺も俺も」
「うんうん。じゃあ、みんな、それで良いかなぁ?」
「「「「「賛成」」」」」
「がっ!!オッ、オイ……」
アホかオマエ等!!
成り行き任せと、勢いだけで、調子の良い事ばっかりブッこいてんじゃねぇぞ!!
さっきも、心の中でちゃんと言ったがなぁ。
メイド喫茶ってもんをするにはなぁ、結構な額の開業資金必要なんだよ。
中学校の文化祭レベルの経費じゃ無理だって、さっきから心の中でそう言っるだろうがよ。
「オイオイ、オマエ等、気は確かか?確かにな、俺が言いだしっぺなのは認めてやる。だがな。現時点で、女子の衣装代だけで予算オーバーする事すらわからねぇのか」
「あぁ、それなら心配ないって、衣装なんて、家に有る服をアレンジしたら、なんとかなるし」
「がっ!!」
「それに、ウチのおねぇが『スタンリー・バックス』って喫茶店でバイトしてるから、話を通せば、道具も一式借りられると思うしね。倉津君の意見、凄い良い意見だよ」
「がぁぁあぁ!!」
なんでやねん?
なんで、そんなにスムーズに話が進むんねん?
オマエ等、全員アホちゃうか?俺はアカン言うてるやろ!!
はぁ……これは終わったな。
綺麗な形で、完全に終わりましたよ。
だからよ、終わった事は認めるから、これ以上厄介事は……
・・・・・・
うん?いや待てよ。
……ってか、毎回こう言う弱気な事を言うから、俺に不運が舞い込むんじゃないのか?
今までの傾向から言って、弱気になった瞬間からロクでもない事が起こってるしな。
なら、この弱気な態度に成るのは改めるべきだな。
よし、じゃあ、弱気は辞めた。
きっと弱気は、不運を呼び込むキーワードなんだな。
『あぁそうかい、そうかい。なら、何でも掛かって来いやぁ!!』
……俺は心の中で、そう念じてみた。
「ちょっと待って欲しいの。そんなの勝手に決めないで欲しいの。私、賛成なんかしてないの」
おっ、なんだなんだ?
俺が、そう念じた瞬間、どこからともなく、そんな女子の声が上がったぞ。
これは……ひょっとして上手く行くパターンに入ったんじゃねぇのか?
とうとう俺の意思が、意地悪な神の野郎にも通じたのかも知れねぇな!!
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【後書き】
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>
文化祭の出し物は喫茶店。
されど、倉津君が余計な事を、伊藤舞歌ちゃんに言ったのが発端に成り。
今では文化祭の定番に成りつつある【メイド喫茶】を、1990年代の後半にする羽目に成りそうですね。
まぁただ……最後に反論の声が上がりましたので。
そのまま、普通の喫茶店の方向に転がって行く可能性もありますが(笑)
さて、その結果は如何に!!
次回は、その辺りの話を書いて行こうと思っていますので。
良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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