第21話 アリーナ、聖女に罪を償わせる

 数週間後、アリーナはルークと共に王城を訪れていた。


 案内されるまま行きついた先には、髪や肌にかつての潤いも失せ、粗末な服を身にまとい、随分とやつれてしまったミザリーがいた。

 ミザリーは、檻の外に現れたアリーナ達に気付き、憎しみを込めた目線でにらんでくる。

 

 エイトとミザリーはあの後、王城の地下にある牢獄に収容され、様々な取り調べを受けていた。

 

 時に、魔道具などを用いた拷問に近い苛烈かれつな取り調べが行われる中で、分かったことは、二人が”勇者”や”聖女”にはおよそ相応しくない、数々の悪事を行っていたということだった。


 ”勇者”は、その功績の大部分であった魔王討伐において、当時、勇者パーティーに属していたルークにすべての戦闘を強いていたにも関わらず、魔王討伐後にルークを殺害し、その功績を自分のものとした。


 ”聖女”は、治療を求めてきた人々から集めた病気を、自身にとって都合の悪い人間に移し、表舞台から消し去っていた。

 

 その他、神から与えられたギフトの悪用による所業は、小さなものを含めると数えきれないほどで、早々に”勇者”と”聖女”の称号は剝奪され、同時に、エイトに与えられていた辺境伯の爵位も取り上げられて、一時的にではあるが、アリーナに授爵されることとなった。

 

 辺境伯の爵位を得たアリーナは、その足で王城の地下にある牢獄に向い、鎖に繋がれながらもなおも、こちらを睨みつけてくるミザリーを見つめ返す。

 

 千里眼で見た、ミザリーが行っていた過去……ミザリーが病気を移した人々は今も病にむしばまれ、生死の境を彷徨さまよっている人すらいる。


 その救済と償いを、アリーナは国王陛下に申し出て、既に承認されていた。

 同行する騎士たちに目配せをして、ミザリーを牢獄から外に連れ出す。



 

 連れてきた先は、かつてミザリーが嫁いでいた公爵邸だった。


 ミザリーはベッドに横たわる女性の前に立たされ、拘束されていた両手を解放される。

 ミザリーの周囲は、いつでも取り押さえられるようにと騎士達が取り囲んでいた。


 後から部屋に入ってきた騎士が、同じように鎖につながれたエイトを連れてくる。

 

「……イヤ……」


 これから何をさせられるのか、やっと気づいたミザリーが小さくそう言った。


 助けを求めるかのようにキョロキョロと視線を漂わせるミザリーの肩を、騎士達が掴んで女性の方に体を押し出す。


「お願い……エイト……やめて」


 首だけをエイトの方に向けて、涙ながらにミザリーは訴える。

 しかし、エイトは「ごめん……俺も命が惜しいんだ」と言うと、ミザリーに命令した。


「ミザリー、


 その言葉に勝手に動き出す右腕を、ミザリーは大粒の涙を流しながら必死に反対の手で押さえようとする。

 しかし、その手も騎士達にがされ、ミザリーはベッドに横たわる女性に触れてしまった。


 その瞬間、女性の全身を覆っていた赤い炎症や腫瘍は少しずつ小さくなり、消えてなくなっていった。苦しげだった表情は和らぎ、呼吸が穏やかになっていく。

 

 逆に、ミザリーの方は女性に触れた右腕から徐々に炎症や腫瘍が体を上っていき、やがて全身にあらわれたと思えば、苦痛に顔を歪め、自身の体を抱きながら泣き崩れた。


「い、痛い……私の体が……あぁ……ごめんなさい……ごめんなさい……」


 その様子を、アリーナはただ静かに見つめていた。


 ミザリーも転生者だ。この痛みも、炎症や腫瘍も、すぐに癒えていくだろう。

 でも……これで終わりではない。この女性と同じ症状の人は、


 体の内も外も病魔でおかされ、全身に激痛を抱える地獄を、自身が犯した分だけ繰り返させる……これこそが、アリーナができる被害を受けた人々への救いであり、ミザリーへの復讐だった。

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