第19話 アリーナ、ルークのギフトを知る(※グロ注意)

 ミザリーに触れられた瞬間、アリーナの身体に激痛が走った。


 支えを失って崩れる体と、飛びそうになる意識の先で、空を見上げて醜くわらうミザリーの姿と、地面をいずり、必死にこちらに手を伸ばすルークの姿が見える。


 何もかもの境界が曖昧あいまいになり、世界が暗闇に包まれそうになった……その時、アリーナの身体に何かが触れた感覚がした。


 その瞬間、一気に視界に光が戻り、アリーナは手をついて腰から地面に倒れこむ。


「……え?」


 目を開けて確認してみると、確かに何かが起こっていたはずの自分の体には、何も起こっていなかった。

 ただ……お腹の辺りで少しやぶけていた服に、アリーナの胸がざわめく。


 視界のすみに入ってきた赤い何かに気付き、アリーナは思わず顔を上げた。

 

 そこに広がっていたのは、血の海だった。


 ルークの真っ二つに分かれた体が、その血の海に沈んでいた。着ていた鎧が割れ、剥き出しの断面が見える。


「……噓でしょ……ダメ……ダメダメダメダメ……!!」


 アリーナは慌ててその海の中に飛び込み、血まみれになりながらルークの上半身を抱き起した。

 視線が定まらず、人形のように血の気を失って動かないルークの顔を見て、アリーナの目から涙が溢れてくる。


「やめて……お願い……行かないで……」


 涙で視界がぼやけ、嗚咽おえつを漏らしながらも、アリーナは必死に、離れたルークの下半身を手繰たぐり寄せてグイグイとくっ付けようとする。

 その光景を、先ほどまで嗤っていたミザリーでさえ青褪あおざめ、息を飲んで見つめていた。


 ルークの顔が見えなくなっていく。


 一切の音が聞こえない。

 

 永遠に続く、地獄のように感じていた。


 ……その時、かすかに淡く光りだした傷口に気付いたミザリーが、小さく「あ……」と言葉を落とした。

 ミザリーの言葉に、アリーナは手を止め、目を見開いて光りだすルークの体を見つめる。


 光は徐々に強くなり、ルークの全身を覆ったかと思えば、カッと、思わず目を閉じるような眩しい光がこの場に溢れた。



 

 消えゆく光と戻ってきた視界の先で見たのは、血の気が戻り、元の身体の状態で横たわるルークの姿だった。

 ルークのまぶたが小さく揺れ、ゆっくりと開かれる。


「……ごめんね、アリーナ様望美……心配したかい?」


 ルークの言葉を聞いて、アリーナは顔を崩し、ルークの体を強く抱きしめた。


 


 ルークのギフトは『献身けんしん』だった。

 

 人のために動くことで実力以上の力を発揮し……たった一度、大切な人の身代わりになり、それを無かったことにできる能力。


 目の当たりにした奇跡とも呼べるような信じられない光景に、ミザリーは体の力を失って、その場にへたり込んでしまった。

 国王陛下の護衛をしていた一部の騎士たちがミザリーを取り囲み、腕を引いて連れて行く。


 アリーナはルークにしがみつき、温もりを確かめるように顔を体にうずめて泣き続けた。

 そのアリーナの頭を、ルークは穏やかな表情でゆっくりと優しく撫でていた。

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