第17話 アリーナ、勇者と聖女の真実を知る

「エイト……転生者の身体のこと、お前は知らなかっただろう? だってお前は、戦いを全て俺に押し付けて、自分は傷一つ負ったことなどなかったからな」


 国王陛下の面前で地面に膝をつくエイトと、魔物のそばにたたずむミザリーがルークを凝視し、周囲の者たちは固唾かたずを飲んで三人の様子を見守っていた。

 目と鼻の先にあるディーリンガムの街から漏れる人々の喧騒けんそうが、不思議と遠くに感じる。


 ルークの吐き捨てるかのような言葉に、エイトはたじろぎ目を泳がせた。

 畳みかけるようにルークが言葉を続ける。

 

「神からのギフトは能力だけじゃない。この身体、そのものもギフトだ。少し鍛えただけで飛躍的に向上する筋力、疲れを知らぬ体力、どんな病気や怪我もすぐに回復する治癒力……どれも、自分のギフトに胡坐あぐらをかいて楽をしてきたお前には、知るよしもなかったものだ」


 ルークにそう言われて、エイトはぐっと嫌そうに顔をしかめる。


 そしてルークは、おそらく、エイトが最も触れられたくなかったことを暴露した。

 

「お前のギフトは。自分の意のままに、他人を動かす能力だ」


 それは、転生者であり勇者であるエイトにとって、最大の武器であり、最大の汚点だった。

 エイトの表情が、苦虫を嚙み潰したようにゆがみ、ルークを忌々しくにらみつける。


 ルークはそのエイトの様子を確認すると、スッと視線を奥のミザリーに移した。

 ルークと目が合い、一瞬、ミザリーの眉がピクリと動く。

 

「そしてミザリー、お前の能力もおおむね想像できている。触れることで他人の病気をなくしたり、逆に、他人に病気を移したりできる……だろう?」


 エイトと違い、ミザリーはルークにギフトを明かされても微動だにしなかった。

 ただ目を細め、ルークを見つめ返している。

 

 対照的な二人の様子に、ルークは小さくため息を漏らしながら言葉を続けた。

 

「……ギフトは、前世でのに大きく依存する……」

 

 ギリギリと歯ぎしりをする音が、エイトの方から聞こえてくる。

 

「前世において、妻であった黒澤望美くろさわのぞみをモラハラで支配して死に追いやったり、そのモラハラ野郎との不倫を楽しんだりしていたお前たちには、お似合いの能力だ」


 ルークは今まで見たことがないような、心底軽蔑し恨むような眼差しを二人に向けてそう言った。

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