第16話 アリーナ、想定外の展開に戸惑う

「……これは、確かにわたくし達が討伐したはずの魔物ですわ」

 

 魔物庁長官の追及に黙り込んでしまったエイトの後ろで、その状況に小さくため息をついたミザリーが声を上げた。

 

 ミザリーは魔物の方に歩み寄り、そっと魔物の体に手を触れ、悲しげに目を伏せる。

 その姿は、魔物であってもいつくしむ、まさに聖女そのものだった。


「魔物には様々な能力を持つものがいます。名付き魔物ネームドモンスターともなれば、私達をあざむき、逃げおおせることも可能でしょう。此度こたびの失態、深くお詫び申し上げます」


 そう言うと、ミザリーは魔物庁長官と、さらにその後ろにいる国王陛下に向かって深々と頭を下げた。

 そして、ふと顔を上げ、街の方に視線を送る。


「……幸い、街に被害はなかったようで安心いたしました。この魔物を討ったのは、どの騎士でしょうか」

 

 聖女の言葉に、国王陛下が「おお、確かに勇者でないとすれば、どの者が……」とアリーナの方に視線を向けてくる。

 

 上手く話を変えられてしまった……


 そう、アリーナが心の中で小さく舌打ちをして、国王陛下への返答を考えていた時、後ろの方から声がした。


「サタナキアを倒したのは、私です」


 それは、アリーナの後ろに控えていたルークの声だった。

 

 ルークはそう言ってアリーナの前に歩み出てくると、エイトとミザリーの方に向き直り、おもむろに被っていた兜を脱ぎ捨てた。


 あらわになったルークの顔に、エイトとミザリーが硬直する。


「久しぶりだな、エイト……それに、ミザリーも」

「……お前……生きていたのか……!?」


 エイトは口をパクパクさせたかと思えば、やっとのことでルークにそう言った。

 ルークはフッと鼻で笑って答える。

 

「もちろん生きていたさ。転生者の身体はだからな。まあ、それでも、痛かったがな……」

「転生者!? お前も!?」


 ルークからの想像していなかった言葉に、またしてもエイトは驚愕きょうがくして目を見開き、固まってしまった。


 急な展開に、エイトとミザリー、そしてルークの三人以外、その場にいた人々は全員取り残され茫然ぼうぜんとその様子を眺めている。


 そしてそれは、アリーナも同様だった。


 こんな話をするなんて……聞いてない……

 

 想定外の展開に、アリーナはただ、黙って三人のやり取りを見守ることしかできなかった。

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