第14話 アリーナ、国王陛下をお招きする
「アリーナ様、国王陛下から至急の通信が来ています」
興奮冷めやらぬみんなの雰囲気に、端の方で一緒に浸っていたアリーナに、防具を身にまとったマーサが通信機を持ってきてそう告げた。
スタンビードの発生を確認した瞬間に、王城には緊急事態として通信を走らせていた。
想定通りの早い返事に、アリーナは深呼吸をして気合を入れ直す。
ルークは期待をはるかに上回る働きをした。今度は自分の番だ。
「お待たせしてしまい大変申し訳ございません。グランドル領主の妻、アリーナと申します。領主は所用にて、代理で報告させていただきます」
「うむ。国王、ドランコフである。して、魔の森でスタンピードが発生したと聞いたが、状況を知らせよ」
通信機越しに聞こえてきたのは、国の祭典などでよく聞くあの声だった。
アリーナは小さく唾を飲み込む。
「はい。一報差し上げました通り、魔の森にてスタンピードが発生いたしました。が、日頃の訓練や備えの甲斐あって、既にスタンピードは収束いたしました」
「ほう、流石であるな。被害状況はどうか」
この通信に応じる時点で既に想定内だったのか、国王の声色に驚きはなく定型文のような問いだった。この通信の間に、何か、
「こちらにおいては特に被害は出ておらず、負傷者もほぼいません」
「なんと!」
流石に、スタンピードを被害なしで治めたことは想定外だったようだ。
国王は純粋な驚きの声を上げる。
そして、国王は、期待した一言を言ってくれた。
「流石は勇者であるな!」
そう、普通はそう思うだろう。
待ち望んだ言葉に、思わずアリーナに少し笑みが浮かぶ。
「いえ……勇者は不在にて……」
「ほう……?」
アリーナの報告に、
少しは興味を引けただろうか。だが、とどめの一手と、アリーナは帰還したルークからもたらされた、とっておきの情報を国王に伝えた。
「追加で報告申し上げたいことが……
「なんだと……!!」
通信機越しに、国王がガタリと立ち上がった音が聞こえた。
アリーナはここぞとばかりに畳みかける。
「どうも、かの魔王の右腕だった魔物のようです。こちらも既に討伐し、その死骸は今後のために役立てようと考えています」
「……」
どうだろう。こちらが出せる情報はすべて出した。
流れる沈黙に、アリーナは
そして国王は、先ほどまでとは少し違う、低い声で言葉を発した。
「……そちらに参ろう。至急、転移の魔道具の準備をせよ。到着は三日後だ。それまで、その魔物の死骸はそのまま保存しておくように」
国王はそう告げると、「承知しました」とアリーナが返事をするや否や通信を切った。
上手くいった。
正直、賭けではあったが、これで最高の舞台が整った。
肩の荷が下りたように、アリーナは天を仰ぎ、ゆっくりと深呼吸をする。
いつの間にか陽は傾き始め、橙色に染まる空に
街の方を見ると、無人だったディーリンガムの街に明かりが灯り始める。
これから国王が到着するまで三日間繰り広げられるであろう宴が、はじまったばかりだった。
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