3
小さい時に親を亡くした。
兄が一人いるが彼も里子になる時に二人より一人の方が貰ってくれる人がいるだろうと兄に言われて嫌がった眞璃を説得した。大好きな兄は眞璃にとってヒーローだった。そこらにいる大人よりも力が強く頭も良く学校の成績も良かった。
しかし、両親を亡くして二人きりになり兄の提案を受け入れた眞璃は一人になった。たまに眞璃のところに送られてくる兄からの手紙には最初は住所があったがすぐに住所がなくなった。
つまり、眞璃の家を確定して手紙を入れに本人が来ているということが推測できた。なので、眞璃は手紙が来た日、必ずと言っていいほど自分が住んでいる家の近くを瑠果を探して回った。彼女に見つかるほどヘマをするはずもなく絶対に見つからなかった。
高校の教室には同級生がきゃっきゃッと話している。
「ね、眞璃は、このあと遊ばない?」
「うん、いいね。」
自分と彼らは違う。
眞璃が四歳の頃に家族で夕飯を食べていた時に強盗に入られた。最悪なことに両親が私と兄をキッチンの下の空間に隠してくれたけど、そのおかげで両親の死を目の当たりにしたことだ。
眞璃は兄に抱えられていたので両親が殺されている現場を見ずにいられた。
両親に死なれた眞璃たちは親戚をたらい回しに回された。ある日、孤児院から里親のもとに行った兄が姿を消した。彼女が小学校に上がる時だった。後になって知ったのだが、眞璃たちがたらい回しにされた理由は兄にあった。彼は学校で問題を起こしていたようだ。内容は大体が暴力沙汰だった。兄は相手をボコボコにしていたようだ。
同級生たちとファストフード店に入り、しばらく彼らの会話に参加し解散して家路について前を見ると男性が立っている。パーカーのフードを目深にした彼の足元に視線を逸らして目を合わせてはいけないと瞬間的に感じ取った眞璃は足早に去ろうとした。
「眞璃」
すれ違う時に呼ばれて眞璃は男を見た。
「瑠果?」
「久しぶり」
男の風貌が中嶋瑠果だと主張してくるが、最後に顔を見たのは七、八年前で脳裏に浮かぶ顔と合うかというと自信が持てない。
「大きくなったな」
「…うん」
たまに会う親戚のおじさんのような物言いをされて眞璃は少し笑いそうになった。
「最近は、どうだ?」
「別に何も。」
記憶の中の瑠果の声と少し違う。声変わりをすると男の人の声が変わるのだなと眞璃が思った。
「…そうか。眞璃、また会おうなっ」
「えっ」
瑠果が何故か急に焦ったように去って行った。
「ほらぁ、新名さんがカタギの空気で近づかないから逃げられましたよ?」
「はあぁ?んなわけねぇだろ。」
瑠果が去って行った道とは逆の方向から言い合いながら歩いてくる身長差がある二人の男性が眞璃の前で止まった。知らない人と話してはいけない。眞璃は二人の男たちを避けるように歩き出すと身長が高い方に止められた。
「
人懐っこいいかにも人が良さそうな顔をして眞璃に話しかけてきた。
「…はい」
自分自身の名前を言われて警戒していると警察手帳を二人同時に見せてきた。よく見えなかったし初めて見たしなんとなく胡散臭い。
「胡散臭いよなぁ。」
身長が低いほうが言った。
「新名さんのせいですよ。」
「はぁあ?なんでっ」
「その軽めのモヒカンのせいでしょう?」
「おっ前みたいにな、髪が長いと掴まれて危ねぇんだよっ」
「普通の長さですよっ」
何やら言い合いがまた始まってしまって眞璃は困ってしまった。
「あ、あのっ、用がないなら帰っていいですか?」
眞璃が言って二人がピタッと止まって彼女に向く。
「中嶋眞璃さん、お兄さんの中嶋瑠果さんの居場所をご存知じゃないですか?」
「いえ、七、八年前から会っていません。それに、もう、義務教育の年齢でもないですし、どこにいるのか……」
大人たちに困った顔をして兄の話から逃れようとしてみるが、兄の瑠果の唯一の身内の自分しかいない今聞かれたことは必然であり逃れられないわけだ。
「そう、ありがとう。もし、お兄さんが来たら教えてもらえるかな?」
「はぁ」
眞璃は背が高いほうから名刺を貰うとくしゃくしゃにして捨てたくなったが目の前でやるのは流石にダメだろう思い、思い止まった。
そうこうしているうちに二人が帰っていった。
彼らとは逆の方向に名刺を見ながら歩き出す。
「警察庁刑事部第6課…」
カバンから携帯端末を取り出すと検索してみる。存在はしているようだがいまいち何をしている部署なのかわからない。
検索結果の中には怪しげな都市伝説が並ぶ。
「……超能力者?」
世の中には超能力者が我々の中に紛れていてそれを取り締まるのが警察庁刑事部第6課だという。
怪しい。
信じられない。
先程の兄だと名乗ったフードを目深にしていた男が仮に兄であったとしても本人だったのか確定できない。瑠果だった場合には通報しなければいけないのだろうか。果たして、自分は兄を売れるのだろうか。
「やだなぁ。」
中嶋眞璃から別れた後、
「さっきの男は中嶋瑠果かな。」
「後ろから近づいたのでわからなかったですね。」
年齢からいって背格好は近かったと思う。
しかし、変に現実味がないというか実体を掴めそうにないというか。相手からの情報が読み取れなかった。
「新名さん、この後、モルグに行きますか。」
「いや、死体からはきっと何も出ないと思う。郷田は鑑識の結果についてなんて言ってるんだ。」
黄一囲は右手の埋め込まれいる携帯端末からメールを確認する。
「来てもいいと言っています。」
「そうか。それなら、そっちが先だな。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます