第15話 千載一遇のビッグチャンス、乗るしかない!

 罪人の自分が、ここを出て王都に……?

 

「そっ、それって脱走? いいえ、まさか……駆け落ちってこと!? だ、ダメよ。貴方に迷惑かけちゃうわ!」

 

 ベアトリスは思わずベッドから飛び起きて「ダメよ。ダメダメ」と首を大きく横に振る。

 

 それを見たユーリスが、ふっと微笑んだ。そのまま、珍しく声を上げて爆笑し始める。

 

「なによ、なんでそんなに笑うのよ」

 

「いや、すみません。あまりに予想外のことを言われたので。そうか、駆け落ちか。君って、以外にロマンチストなんだな。神殿でお仕えしていた頃は気付かなかった」

 

 ロマンチストと言われて、ベアトリスの顔が一気に熱くなった。

 

 なにを隠そうベアトリスは、幼少期から大の恋愛小説好き。

 ロマンチックな物語は大好物だ。

 

 特に、騎士と姫の甘く切ない身分差の恋や、思い合うふたりが障害を乗り越え結ばれる王道ストーリーは大好き。


 しかし、『伯爵令嬢、そして聖女として威厳ある振る舞いをしなさい』という両親の言いつけを守り、これまで年相応の趣味はひた隠しにしてきた。

 

 年齢以上に自分を大きく見せるため、虚勢を張り、わざと尊大に振る舞っていた部分もある。

 

 聖女仲間が流行はやりの恋愛小説や恋バナで盛り上がっているのを見るたび、口では「くだらないわ」と言いつつ、本心では会話に混ざりたくて仕方なかった。

 

「べっ、べべべ、別にぃ? ロマンチストじゃないわ! 恋愛小説とか恋バナとか、全然! まったく! これっぽちも興味ありませんから!」

 

「顔が真っ赤ですよ。ふふ、いいじゃないですか、可愛らしい趣味だと思いますけど」

 

「~~~! だから、違うってば! そっ、それで、駆け落ちじゃないなら、どうして私が王都へ戻れるの?」

 

「すみませんが、俺の口からは申し上げられません。詳細な内容は、フェルナン殿下が自ら説明なさるとのことです」


「フェルナン殿下が……?」

 

 

 フェルナン・サンドール第一王子。

 ベアトリスの言い分もろくに聞かないまま、この大鉱山に追放した張本人が、今更なぜ自分を王都に召喚するのか。


 正直、全く信用できないし、やっかい事の匂いがぷんぷんする。

 

「私の刑期はあと何年だったかしら」

 

「違法魔道具使用の罪と脱走未遂が追加されましたから、残り六年半ですね」

 

「クッソ長いわね」

 

「クッソ……?」

 

「ああ、失礼。ここに来て、少々口が悪くなってしまったみたい。それで、王都に行ったら処刑されるとかじゃないわよね? 身の安全はちゃんと保証してもらえるの?」

 

「はい。万が一、貴女に身の危険が生じた際には、俺が必ず守ります」

 

 ユーリスは胸に手を当て、迷いなくそう告げた。

 

 彼はベアトリスの味方ではないが、嘘は言わない男。きっと言葉のとおり、守ってくれる……と信じたい。

 

(どうせここに居ても、私の人生はなにも変わらない。フェルナンのことは信用できないけれど、人生やり直すビッグチャンスよ。この大波、乗るしかないわ)

 

 ベアトリスは思いきって、人生の新たな一歩を踏み出す決意をした。


「分かりました。貴方と一緒に、王都へ参ります」

 

 

 断罪され追放された元聖女が、再び因縁の王都へ──。

 

 この決断が、のちに波乱をもたらし、多くの人の未来を変えることになるとは、この時のベアトリスは知るよしもなかった。

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