【4-15】天花のリートよ、彼女を救え
それは真心あふれる愛の歌。想う人のために
その願うところは献身。他人のために身を惜しまぬ、
ゆえ連なる言葉は
「――君がため 春の野に出でて 若菜摘む」
この
古来、『
「わが衣手に 雪はふりつつ」
果たして私が唱えるのに呼応したように、夜の空中庭園に雪が降り始めた。
「
これは
災を避け病が無くなりますよう――そう古来の人々が願い伝えた想いの結晶。
だから私の呪いは、皇帝の呪いにも打ち
「
私がリートを呼び起こす言葉を唱え終えたのと同時に、雪が嵐となった。
突然の暴風が空中庭園の草花を散らせ、舞い狂う雪と共に
「むうっ!」
バルドー帝が予想外の異変に足を止め、風雪に耐える仕草を見せた。
その一方で金網に身を預ける瑞原
「やった!」
私は成功を確信したが、引き剥がされたのは変異した鳥獣だけではなかった。
外縁部にいた瑞原
「――大丈夫、私の
リート・プログラムの効果は、物理法則すら理不尽に覆す強制力がある――。
それだけの力があると、私は『逆理のリート』のときに知っている。
だから大丈夫。あの子はきっと無事――と信じようとするが、不安は尽きない。
思わず
「…………」
察してくれた
だとしたら、もう瑞原
しかし、安心したのも束の間のこと。
「まさかマハ、ヌシが横槍を入れてくるとはな――!!」
バルドー帝の怒声と同時に、二つの文字鎖が私めがけて飛んできた。
油断していた私には避けることなどできず、あっという間に鎖は私の首に巻き付くと、私の身体を軽々と宙に持ち上げてしまう。
「うっ……くっ……」
苦しくて振りほどこうと抵抗するけど、まったく鎖は解けそうにない。
それどころか皇帝の怒りを示すように、逆にぎりぎりと首を締め上げてくる。
「マハよ、『
苦しい。息が出来ない。首が痛い。
足をバタつかせても鎖は緩まず、意識が遠のいていく。
このままだと、本当に死んじゃう。何とかしなきゃ――と思ったときだ。
パァン!!
突然の銃声がして、私を締め付ける文字鎖の力が、不意に無くなった。
どうやら拘束そのものが解けたらしく、支えを失った私の身体は、今度は地面に墜落してしまう。
「いたっ! げほっ、げほっ……」
落下の痛みと気道の確保で忙しい私は、落ち着いたところで状況を確認する。
バルドー帝と透歌が相対して、じっと睨み合っていた。
「むうう……どういうつもりだ
バルドー帝が剣を向けて
それどころか正面から皇帝の怒気を受け止めながら、堂々と答えた。
「
「ワシの邪魔立てをする気か? それこそがヌシの本心か」
やがて透歌の口から、その答えが紡がれた。
「はい。それが私の本心です」
その答えを聞かされた皇帝が、とても複雑な表情をした。
腹立たしげで、悲しげで、寂しげで、つらそうな、そんな表情。
どうしてそんな顔になるのか、私には分からなかった。
「………………分かった。もうよい」
しばらく黙っていた皇帝が、やがて失望したように言った。
目を一度閉じた皇帝は大きく息を吐くと、
「……帝都斎王、瑞原
そう、銃を構えた
その言葉を聞いた
「御意」
次いで皇帝は、地面に座り込んでいる私に剣を向ける。
「マハ・ベクター、貴様もだ。大人しくワシに従えば良し、さもなくば」
さもなくば瑞原
とは、言われなくても分かりきっていた。
剣を突きつけられた私に、
「ごめん。でも、マハは必ず助けるから」
つまり「今は逆らうな」という意味だろう。
私も『
皇帝が剣の切っ先を動かし、
素直に従う私たちの背中に、
「
その言葉を聞いた隣の
しかし、すぐ平素のように表情を封じ込めてしまうと。
「……
――と短く答えて、昇降機へと歩んでいった。
また夜空に湖を渡る風が吹き、庭園に
真実とも幻覚ともつかない夜は、こうして幕を引いた。
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