【3-07】雨宿りと10年前の話
どこからか聞こえてくる、
それもそのはずで、声は高台からでは見えにくい、下の道路から聞こえていた。
そこではフードを
ふと昨夜の旅人たちの会話が、
魔女の名前はそう、確か――。
「……マリーツィア……?」
二人は何やら話し合っていたが、やがて。
「
話していたマハが声を
「さて、では行きましょうかの」
声はいかにも
しかし
「待ってくれ。あなたは
問いかけると、相手は少し
ややあって返ってきた言葉は、意外なもの。
「……私も、そこの
そう言って、相手は
フードの下から現れたお
「ベクター……」
耳の形が、
細く長く、先の
ベクターたちの
「こういうことじゃよ。街中では『
「ベクター耳は、
確かに
それは
「……ベクター耳をしていれば、
ゆえに、
大きなウソを伝え運び、その結果として
まあウソの話も
「そこの
そう言うと、
マハの顔を見ると、
それどころか
「奏は
マハは当てつけのように言い放つと、自分は
コイツ、
(しかし、どうする)
ベクターはうかつに信用できないが、相手は
あまり
「……ふん。あいにく人を見る目には自信があるつもりだ。
本当は人物眼なんて別に持ち合わせちゃいないが、張り合うように言い返す。
――――――――……………………。
――――…………。
――……。
マリーツィアと名乗った
温泉宿で魔女の
しかしマハは「親切なお
「なるほどの。
「マリーツィアさんは、ここに住んで長いのです?」
「そうだねえ、この里が黒主らに
家に着くまでに少し
一方で、雨宿りの礼のつもりなのか。マハは家事を手伝うと申し出て、今はマリーツィアと
「ここに来る前は、どこに居たんですか」
「
「ゲネ・サレトに居たんですか。私も
「10年前に
「…………ああ、そんなこともありましたね。でもそのとき私は子供だったので」
マリーツィアの話に、家事をしていたマハの動きが止まる。
しかしそれもわずかの間で、すぐに
「おお、そうだったの。今から10年前となると、マハちゃんは」
「まだ8
「もしかすると、マハちゃんがベクターになったのも、そのときなのかい?」
居間で立っている
「そうですね。私がベクターになったのも、10年前です」
「あの事件では色んな無責任なデマが流れたからのう。反逆を
「その話なら知っています。皇太子は民衆に人望があったから、その
二人がベクターになったいきさつを、
10年前と言えば
(そうだ。その皇太子の反逆事件に連座して、
マリーツィアが話すように、皇太子の
しかし皇太子も
(
つまるところ、罪の
ヤツらにとって大切なのは日々の
「マハちゃんは子供だったから分からないだろうけど、私はその事件でうんざりしてねえ。どれが真実かを追い求めることにも
「そうだったんですね。この地を選んだのは、当時まで人が住んでいたからですか」
「
ベクター耳で色々と疑ったが、
するとマハが皿を受け取りに出ながら、またマリーツィアに話しかけた。
「10年も住んでいるなら、この辺りには
「ある程度ならの、なぜかえ?」
「少し行きたいところがあって……ええと」
マハがどう
(目的地……
確かに
ところが
「ああ。さっき
「「こっ、
いきなり
大人しく
「
「ぜんぜん、
実に誤解いちじるしい関係に、
なんてこった、そんな風に見られてたのか。
「うんうん。若いうちは人に
(誤解を解きたい気持ちはある……が、いちいち説明するのも
今の口ぶりからすると、マリーツィアは
ならサッサと話に乗る方が早い――のだが、そうなると否定するマハが
「だから
ムキになっているマハさんの後ろに回ると、その口を手で
薬師の
「はっはっは、実はそうなんです。
言ってるそばから、マハさんに手を
しかし
そんな『仲
「この家から
古いヤシロ、と言われて思い出す。
そうだ。
あのヤシロには確かに、神の
だから黒主の話を聞いて、もしやと思ったのだが、当たりだったようだ。
「本当ですか!」
もっともその直前には、こちらに最高級のジト目を向けてくれたが。
「ほら。窓から細道が見えるじゃろ。あの道をまっすぐ行けば……」
「行ってきます!」
マリーツィアが言い終わらないうちに、マハが飛び出そうとする。
よっぽどリートに
ともあれ外に出ようとしたマハに、
「まだ外は雨が降ってるぞ」
「もう
「おいおい、
「だったら
……ああ、そういうことか。
つまり
少しでも早く別行動したい、それが本音のようだ。
マハは言い捨てると、
「確かにもう
「……別に
「知っとるよ」
マリーツィアは笑いながら、マハが出て行った戸を閉める。
それから足音も立てずに
「……こうしないと、あの子に大事な話を聞かれてしまうでの」
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