【2-09】尋問の刻、明かされる"真実"

 おれさけんだしゅんかん、黒主が「しまった」という顔をした。


「まさか、ソレが条件カ――!!」


 しかし、もうおそい。貴様は『逆理ぎゃくりのリート』の条件をんだ。

 いっしゅんだけどうようした黒主の表情が収まると、ヤツがうやうやしくおれひざく。


「――ハイ。ボクはアナタ様に従いマス……」


 ひざいた黒主が頭を下げ、おれきょうじゅんする姿勢を見せる。

 その姿を見ていっしょに居るマハとアーテイ氏が、一様におどろいた。


「まさか」

「『逆理のリート』で、黒主を従えた!?」


 それは周りの兵士たちも同じで、かれらの中にもどうようの波が広がっていく。


 黒主が口にした「自分に従え」という願いを、逆にかなえさせた。

 確信する。このじんかんは今、完全にリートの術中に落ちたと。

 おれはあっけない、それでいて理想的な結末に、思わずしょうする。


「ふ、ふふ、ははは……なんだ、もう終わりか黒主!」


 おれちょうはつしても、黒主は頭を下げたまま、もう何も言い返さない。

 絶対服従させたじんかんを前にしたおれは、さっそく次の行動に移る。


「ではたずねよう。10年前、貴様はみずはらの里をほろぼしたな?」

「ハイ」

「里をほろぼした理由と、発案者の名を明かせ」


 最初にタワーでたいしたときと同じ質問をかえす。

 しかし、あのときとはじょうきょうが決定的にちがう。

 今回の黒主はおれに服従している。ウソは返せないはずだ。


ていこくに反逆したからデス。命令を出したのは、こうてい陛下デス」


 しかし、返ってきた答えは、前回とまったく同じ。

 となると前回の黒主は、ウソは言っていなかったことになる。


みずはらは無実だ。それはおれが知っている。なぜ反逆の罪に問われた!」


 前回と同じ返事がもどってきたことに、不快さを覚えながら問いを重ねる。

 しかし語気を強めても黒主はどうだにせず、たんたんと答えていくだけ。


「密告があったからデス。みずはらの里が、ていこくに反逆をくわだてている――ト」


 これも、前回と同じ返事。

 これでは何のためにリートをけたのか分からない。

 タワーで相対した黒主は、まったくウソを言っていなかったのだ。


だれだ! いったいだれが、そんな密告をした!」


 たたみかける。

 となるとこうていざんげんをした人物こそが黒幕だ。

 その人物の名を黒主にかせれば、今度はそいつを標的にリートをける。

 この作業をかえせば、最終的に真実が明るみになるはず。


「それは――」


 黒主の口がよどみなくつむぐ、その人物の名前は――。


みずはらさとおさむすめ……みずはら透歌とうか

「あねうえ、が――――?」


 ヤツの答えを聞いて、おれしょうげきのあまり思わずよろめいてしまう。

 みずはら透歌とうか

 それは10年前に生き別れた、思い出の名前だったからだ。


(どういうこと、だ……?)


 みずはらほろぼすげんきょうとなったのが、みずはらの人間だったと?

 しかし、そんなはずはない。

 みずはらの里が無実なことは、おれも姉上も知っているはずなんだ。


「バカなことを言うな、姉上がどんな密告をしたと言うんだ!」


 信じられない名前を聞き、つい感情を高ぶらせてさけぶ。

 しかしそんなおれの言葉にすら、黒主は忠実に応答した。


みずはらの里が、呪歌リートかくっていル。ひそかに呪歌リートを集め、ていこくに対して反逆をたくらんでいル――と、いう内容でシタ」

「ウソをつくな! 姉上が、そんなことを言うはずがない!!」


 おれさけぶと、ひざいた黒主の顔を足でげた。

 げられたじんかんの頭がね、ヤツの白い歯が折れて飛び散る。

 それを見た兵の一人が「貴様!」と言っておれじゅうを向けた。

 しかし、その直後――。


「この方に危害を加えては、イケナイ!」


 立ち上がった黒主がそう言ってじゅうくと、問答無用で兵士に向けてはっぽうした。

 たれた兵が、信じられないといった風でくす。


「くろ、ぬし、さま……?」


 きょうがくの表情をかべた兵は、そうつぶやくとたおんだ。

 じんな味方ち。

 ろうばいした兵士たちがきょうこうの声を上げると、いっせいした。


(完全に洗脳した状態だな。それはいい。しかし――)


 ここまで絶対服従の状態なら、今の黒主は信用して良い。

 しかし裏を返せば、「みずはら透歌とうかが密告した」という言葉もウソではない。


(くそ、少なくとも黒主の知識では、それが事実か……!!)


 黒主の知識が必ずしも正しいとは限らない。

 コイツが何かしら誤った情報をもとに、答えている可能性がある。

 しかしこうなると、事の真相を確かめるためには――。


(姉上に問いただすしかない。しかし、姉上が生きているとは――)


 10年前のみずはらしゅうげきで、里の者はほろぼされたと聞く。

 ならば姉上も、もはやこの世には――。

 あんたんたるおもいになりながら、おれは姉上について黒主にたずねた。


「ならば姉上は――みずはら透歌とうかは、どうなった!」


 密告者が姉上だと知っている黒主なら、かのじょのその後も知っている。

 その可能性にけて、おれは黒主に問いただした。

 すると歯の折れたじんかんが、おもむろに口を開けると――。


みずはら密告の功により、今は朱泉国しゅぜんこくていさいおうをしていマス」


 と、またしても従順に、姉上の消息について答えた。


「姉上が、さいおう――ていを守る巫女みこになっている、と?」


 おれにとって初耳であり、信じられないことだった。

 さいおうと言えば都市国家を守護する巫女みこであり、最重要人物だ。


(その地位に姉上がいている? しかも密告のがらで?)


 黒主の答えが本当なら、みずはらは姉上が売ったことになる。

 里人全員の命をせいにして、自分だけは高い地位を得たことに――。


「そんなはずはない!!」


 思わず大声で、黒主を否定する。

 あるはずがないのだ。

 あの姉上が、いつもやさしくおだやかだった人が、故郷を売るはずがない。


「……………………」


 しかし否定された黒主は、何も言い返さない。

 それはつまり、少なくともヤツにとっては事実ということなのだ。

 だまっている黒主の存在に、おれの言葉を否定されているような気がして。


「くそっ!!」


 おれいまいましげにさけぶと同時に、黒主が兵をったじゅううばった。

 しかしじゅうこうを向けられても黒主は無言で、ていこうで。

 それがまた強固な意志を示しているようで、許せなかった。


「もういい、お前は死ね!!」


 引き金を引く。

 じゅうせい。頭をたれ、黒のじんかんがその場にたおれた。

 もの言わぬむくろとなった黒主を見下ろしながら、おれあらい息をく。


 やりげた。ついにみずはらほろぼした張本人を殺した。

 しかしこうようは全くなかった。それどころか黒主の言葉が、心に重くのしかかる。


(姉上が、みずはらを売った?)


 思わず頭をかかんだおれに、おずおずとマハが話しかけてきた。


かなで、今の黒主の話で『姉上』と言ってたけど……」


 しかし今のおれに、マハの話を受け付ける心のゆうはなく。


だまれ!! ここから立ち去れ、今すぐにだ!!」


 八つ当たりするように、らす。

 そのけんまくにたじろいだように、マハが後ずさった。

 かのじょおれじゅうを見比べると、あきらめたように息をついて。


「また、来るから」


 そう言い残すときびすを返し、庭園からけ去って行った。

 一人取り残されたおれを察したように、アーテイ氏が無言で見守る。


(姉上が生きている。生きて、だけど――)


 10年前に死んだと思っていた姉上が生きていたのは、うれしかった。

 だけど、その姉こそがしゅうげきげんきょうと聞かされると、なおには喜べなくて。


「くくっ」


 最も親愛な人と最もふくしゅうすべき敵が、同じという現実。

 あまりにもじゅんした心情に、しょうしてしまう。

 おれじゅうあしもとに投げ捨てると、ほうに暮れてひざいた。


(いったい、どうすれば――――――――)


 おれだけになった庭園に、赤黒い空からカラスがりてきた。

 しかしおれは起き上がることもできず。

 カラスのいとわしい鳴き声を聞きながら、いつまでも頭をかかえ続けていた。

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