【1-02】先手必勝に挑む道化
どうやら
「まったくだ。待ちくたびれて、
それを聞いた男が
男が
「そんなわけあるか。必ず勝てる勝負から
「さて? 勝負事はやってみないと分からないと思うが?」
すると男は
「ガハハッ! 禁じ手なしの五目並べは、先手必勝だと知らないのか?」
そう。この男の言うように、いま
ここは、かつては京都と呼ばれ栄えた市街地の
そこまでは良い。問題は
店の看板では『後手で五目並べに勝てば、
(――確かに、五目並べは先手必勝)
五目並べは仕様上、勝ち筋を知っていれば先手側が必ず勝つゲーム。
つまりこの
気に食わない。
だからすべて承知の上で、
(勝てないゲームを勝つとなると、さて至難の
そう思いながら、
「
「言ってくれるねえ。だが、どんなに
対戦相手の大男は、
この
そして今になって、
「そうやってタネを明かすところを見るに、ここでの商売は今日で打ち切りだな?」
「んん? そりゃこれだけ
「商売の
「分かってるじゃねぇか。つまりテメェはオレ様よりバカってことだよ、
どうやら男は大金を
逆に言えば、
周りの
まだ
しかしゲームに
そこに割って入った
しかも
(だが――負ける気は無い)
「……最後にもう一度、ルールを整理したい」
「おう、いいぞ」
「
そこで一息すると、男の反応をうかがう。
男はこちらの言葉をしばらく
「……続けろ」
男に
「禁じ手は無し。ただし
そう言うと
男も同じように砂時計に視線を送り、うなずきながら応じる。
「テメェが持ってきた、その砂時計は
「構わない。あとは
「ああ。テメェが勝てれば――な」
「こちらからはルールの
男が
やがて男は人差し指を立て、一つの要求を出した。
「……じゃあオレ様からもルールの追加だ。『対局者は、
その提案を聞いて、
外見より
(――しかし、そのルールなら構わない。むしろ後で好都合だ)
「構わない。証人は周りの観衆で、いいか?」
すぐさま
他人に
(男のサクラ仲間が、後ろに来てるよ)
アーテイ氏のささやきを聞いて、
(――なるほど。
こちらが
対局者ではないから、手出ししても男の追加ルールにも引っかからない。
男が長く席を外したのは、この打ち合わせのためだったか。
なるほど。確かに
相手の対策が分かれば、それで
「……では最後に、このルールの
民間に広く
「「
すべての
――――…………。
――――…………。
一手10秒以内だから、手が進むのは早い。
そして、こちらの
予想通り、かなり男は五目並べに手慣れていた。こちらが追加させた時間制限に不慣れなせいか
やがて、男が笑い出した。指す手は止めず、
「何か裏があるかと思ったが、考えすぎだったな。オレ様の勝ちだ。最近は何やっても裏目裏目でムカついてたが、今日は久々に大勝ちできそうだ」
(――今日こそ? これまで裏目?)
砂時計を返しながら少し疑問に思うが、すぐに頭から
今は勝負に集中したい。勝ち筋に導くため、少しでも長く
ただでさえ後手は不利。雑念が思考に混ざれば、万に一つの勝機すら
「油断は大敵、と。ほら、まだまだ戦えるぞ?」
ときおり男が
とはいえ逆転には至らない。長引くだけで先手有利の
しばらくして、男が制限時間に慣れてきた。本人も自分が勝勢だと気付いたのか、
「ふん。早指しとポーカーフェイスで、オレ様のミスを期待したか?
やはり先手必勝の現実は
いま男が勝ち筋を読み切っているかは不明だが、
(――なぜ、
つい自問する。余計なことを考える
この
どんなに人々が食い物にされようと、それは知らない者の無知が悪いだけだ。
いったい、なぜ。どうして
自分を
リスクが高い戦いに
まったく
(なのに、なぜ? なぜ、
答えは――あった。「答えが無かった」からだ。
気に入らない現実を
不器用で、まじめな、正直者が。
器用で、ずるがしこい、
これは当然の
だけど、この気に入らない現実を変える
権力があれば、
知力があれば円満に解決し、権力者の人脈があれば、その
力を持たないのが悪い。答えを持たないのが悪い。
ヒーローぶったバカがバカ正直に戦って勝てるほど、この世界は
そんなこと百も承知なくせに、勝てない戦いに
「あと四手だな、笑えないバカの
黒石を置いた男が、砂時計を返して
「ああ、そうだな! 笑えん話だ!」
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