第27話
これは、俺達と梶田の水面下で蠢く勝負になる。
ルール無用で圧倒的に俺達が有利な状況、失敗は許されない。
――何でもアリは得意分野だ。
俺は昔、合気道を習っていたことがあり、バーリトゥードに憧れがあったりする。
……そんな事はどうでもいいが、何でもかんでもゲーム感覚で生きる癖になってしまった一因なのかもしれない。
「俺がやろうとしていることは、とても陰湿なやり方だよなー」
「今更? 私まで罪悪感が抱きそうだからやめてくれない?」
束音は、そういった陰湿な事にはあまり関わりなかったし、そういう意識を持たせるのは俺の方が嫌だ。
束音には、潔白でいてほしい……俺の好きな束音を汚したくない。
我ながら気持ち悪い庇護欲が出てしまう。
でも、幼馴染という物心ついた頃からの関係だからこそ、変わってほしくないと思うのは自然だろう?
断じて、私物化しているわけではない……と思う。
「そうだった、束音も一枚噛む形になるのにごめん。果乃は大丈夫か?」
「はい。女子同士の争いは陰湿なこともありますから、平気ですよ」
あの茅原と一緒にいるわけだし、そういう事も見てきたのだろう。
「強いなー、私は全然知らないやぁ。首ツッコミたくないから、そういう匂いを感じたら逃げてきたし……」
束音は、半ば笑ってそう言う。
丹羽さんと違い逃げた側……二人の意識の差はわかりやすい。
「いや、それでいいだろ。むしろ、俺は束音がそっち側で良かったよ」
「むっ、私は良くないんですか?」
今度は、丹羽さんが浮かない顔でそう問うてくる。
……話が進まないのだが。
まあ後味悪くはならないよう、今の内に心の整理をさせておこう。
「果乃は、むしろ知らない方が違和感あっただろ。さっきの心配は、実際にやる側となることに抵抗があると思ってしたんだ」
「あっ、そうだったんですか……ふふっ、朋瀬くんは優しいですね」
優しいだなんて、大袈裟な物言いだ。
俺が本当に優しい奴なら、そもそもこんな事は丹羽さん抜きで実行している。
すると束音が、考え込んだ表情の後、丹羽さんへ問いかける。
「あれ、もしかして嫉妬しちゃったの?」
「おい束音――」
「少しだけ、ですよ?」
俺の言葉を遮られて肯定の意を示されてしまった。
嫉妬の原因が俺自身なので、むず痒いことだ。
「いや、意思を確認出来て良かった。俺達の都合とはいえ、方法は中々あくどいからな」
「良心は、大事だと思うんです。でも、勝てば官軍負ければ賊軍……私達の正義は勝てば、曇りなき正義になるじゃないですか」
その言い回しはよくわからないが……成功すれば俺達が正しいのは間違いない。
確かにそうだな……いいじゃないか、陰湿でも。
「ありがとう。そう言ってくれると、気分が楽になるよ」
「どういたしまして」
誰も傷つかない……ただ、一人の男子が騙されるだけのこと。
梶田だって、諦めた方がいいだろう。
引くに引けない状況で、中途半端にプライドが高いから頑固になっているだけだ。
「まったく朋瀬は相変わらず言葉に出さないと伝わらないんだから……まぁそれをわかっていて、告白を失敗した私が言えることじゃないか。ごめん、今の忘れて」
「あ、ああ」
急に束音が自分で言って後悔していた。
……彼女も俺と同じで疑心暗鬼になっているのだろうか。
いや、このタイミングで妙な憶測は止した方がいいな。
話し合いを始めなければいけない。
3人でブレインストーミングだ。
「さて、それじゃあ梶田を釣り上げる案を募りたい」
「まずはこちらに動機がないと下手にコンタクトが取れたところでやりようがないよ」
「つまり、梶田に信用される以前に、味方になる理由が無いと疑われるということか」
「そういう事。だから、まずは偽のアカウントが梶田に協力する動機……つまり背景設定がなければいけないよね」
名前を明かさないアカウント。
梶田からすれば、明らかに怪しく見えてしまうだろう。
念のため、自分の正体を明かしたくない理由も先んじて用意しておくということだ。
「梶田を納得させる方法か……パッと二つ考えた。一つは、梶田と同じく丹羽さんに恋している設定」
「あ、閃いた! ネカマして朋瀬に惚れさせれば良いんだよ」
「俺はホモじゃない……」
束音が恐ろしいことを言い出した。
確かに傷付いた男子を籠絡するのは、一つの解決方法としてアリだが、その場合は俺じゃなくていいだろう。
「束音がやるなら、良いんじゃないか?」
「絶対イヤ。何で好きでもない男子に媚び売らないといけないわけ?」
本気で拒否された。
言いたいことはわかる……でも、納得いかない。
それなら、何故俺にはやらせようとしたのか。
文句を言いたかったが、余計な事で本筋を逸らされたくない。
「そうだな。すまん、忘れてくれ」
「なーんか、私の扱い雑だよねー」
「本当ごめん」
束音が拗ねてしまった。今の、俺が悪いのかな……。
俺が困った顔を見せると、丹羽さんが助け舟を出してくれる。
「まあまあ許してあげましょう、束音さん。それで二つ目のやり方は何ですか?」
「他の目的で協力する」
「んー、具体的には?」
「案としてあるのが、茅原紫苑のことが嫌いであるとか、かな」
こちらは、前者と違い信用させること自体は簡単になるが、協力に乗ってくれるかどうかが肝になる。
それは良いとして、丹羽さんの眉がピクリと動いたことに気付いた。
作戦を実行するのに当たって、茅原の悪口を言うことになるだろうから、少し嫌なのかもしれない。
「丹羽さんは反対か?」
「いえいえ、安全性を考慮するなら後者の案が良いと思います。それに……」
「それに?」
「少し迷いましたが、私は紫苑の事をある程度知っているので、架空の人物が今まで不安に思っていた事に現実性を裏付けられます」
丹羽さんが協力してくれれば、嘘の背景を作れるということか。
うん、丹羽さんがいいなら遠慮なく利用させてもらおう。
使える情報は、使うべきだ。
「結構良いんじゃない? 茅原さんに目を付けられたくないって理由があれば、正体を明かしたくない事にも合点がいくよね」
なんせ相手がトップカーストのギャル女子……正体を明かす程の余裕もない事をアピールできれば完璧だ。
とんとん拍子に設定が固まってきた。
「それなら、茅原紫苑を打倒するために協力を仰ぐという設定に決定しよう」
出来上がった設定はこうだ。
俺は梶田と同じ、2年の男子生徒であり、去年茅原に煮え湯を飲まされたことがある。
その後、同じ経験を持った同志達と協力して茅原の秘密を暴いていったが、茅原の人気は凄まじく、同志達は諦めて消えていった。しかし、自分だけは諦めていない……といったバックグラウンド。
中々リアリティがあるのではないだろうか。
次に、作戦の概要はこうだ。
まず、梶田を煽る。明日、梶田の下駄箱に用意したアカウントのidと共に文句を綴った手紙を入れておくのだ。
同じやり方をされた事に不快感を覚えるだろうが、重要なのは興味を持たせる事だ。
釣れたなら、同じく固い意志を持つ者として協力する、と提案する。
「よし、この作戦でいこう。それはそうと、連絡手段くれないか?」
「仕方ないですね。どうぞ」
作戦は整ったが、先に言った通り彼女達と毎度直接会うのは厳しい。
丹羽さんから連絡先を見せてもらい、アプリに登録した。
さて、後はもう作戦を成功させるだけ……この後、女子二名を家へと帰し、梶田への手紙を書いた。
もちろん、筆跡が残るような手書きではなく、凝ったフォントで印刷をする。
重要なのは手紙であることなので、どうやって書こうと問題ない。
――上手く興味を引き出せればいいのだが……。
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