第22話

 会話を終わらせ、計画通り一人で帰ろうとした時のことだ。

 タイミングこそいいが、最近じゃ珍しい組み合わせに興味が湧く。


「どこ行っていたんだ? 二人とも」

「資料を職員室に運んでいたんだ。俺は千春の付き添い」

「これでもクラス委員長だからね!」


 千春は確かにクラス委員長なのだが、誰もそう呼んだりはしない。

 本人もそう思われていない事には気付いているので偶に善行をしては強調してくる。


 周太はよく千春の使いっ走りにされていた。

 最近、二人は疎遠気味だったので元通りの光景が見れたことに安心する。


「てか、周太は部活あるだろ」

「あっ、いっけね。じゃあ、俺先行くから」


 失念していたのか、驚きと共に駆け出していった。

 周太はサッカー部に所属している。


 身長が高い訳でもないのに、あいつは反射神経の高さからキーパーなんてポジションを担っている。


 結局、周太に説明する暇がなかったな。

 帰ったら連絡するか……面倒くさいがやむを得ない。


 そして、千春が残り3人になったが、そこへ丹羽さんまでやってきた。

 いや、こっち来たら疑われるだろうし、何より千春が少し顔を顰めた。


「丹羽さん、何か用?」


 千春は軽い口調だが、少し警戒心を出している。

 それもそうだ、丹羽さんは茅原と非常に懇意にしている。


 過去に何があったのかは俺や束音も知らないが、茅原と千春の仲こそ、犬猿の仲というやつである。

 束音も丹羽さんも険悪になっていたら、最終的にはここまで確執の影響が出てしまう。


「雪村さんにお話があるの……ダメですか?」

「そう、束音が良いならダメじゃないよ。私は紫苑みたいなやり方しないから」


 目的も分かっていない状態であり、同性ということからも、警戒すべき事は殆どないのだが、それでも忠告するように茅原の名前を挙げる。


「知っています。では、私が個人的に雪村さんと仲良くするのはいいですよね? 紫苑は関係ありませんもの」

「……何が目的? この時期、何か特別なことがあったわけでもないのに」


 その名前が出た瞬間、千春は警戒を強めた。

 千春は事情を知らないので仕方のないことだが、俺と束音からしてみれば丹羽さんから来てくれるのはありがたい。

 でも、予想以上に千春が反応する。


「あれ、聞いていなかったんですか? 昼休みの会話」

「それは関係ないんじゃない? 丹羽さんって、そんな揚げ足取りするんだ」


 丹羽さんは質問に答えていないようで、きちんと答えている。

 何かあったとすれば、あったというのは間違いではない。

 そして、補足するように丹羽さんは説明した。


「ちょっとムキになってしまっただけですよ。でも、私に彼氏が出来たのは特別なことだと思いますけど」


 恋人ができることは、確かに特別なことだ。

 千春が関係ないと言っているのに押し通すようにそう告げるのは、あまりにも危ないと思う。

 関連しています、と自白しているようなものだ。


 もしかして千春も事情を知っていると思っているのかな。


「へえ、私は嘘だと思っていたけど、彼氏できたのは本当っぽいね。そっか、丹羽さんは迷惑な男子に付き纏われているから、今頃彼氏といちゃいちゃ出来なくて暇なんだね」

「まあ、そんなところです」


 丹羽さんは落ち着いた態度を貫いた。

 一瞬、眉をひそめたのは千春が秘密を知らないことに気付いたからだろう。


 俺だけでなく周太も仲のいい千春は知っていてもおかしくないから、多少の心配はしていたのだろうか。

 その言葉を聞いて、千春も遂に警戒心を解いた。


「丹羽さん、普段は紫苑の周りとしか喋っている姿見たことなかったけど、結構喋るんだね。詰め方が紫苑と似ている。その言葉遣いは、よくわからないけどね」

「褒め言葉として受け取ります」


 千春は、自分の嫌いな部分を強調して言うが、丹羽さんは涼しい顔で微笑む。

 ポジティブ思考。自分の良い風に受け取るのは丹羽さんの強いところかもしれない。


「肝が据わっているのはわかった。あとは束音に任せる」

「じゃあ、行きましょうか雪村さん。あと、神田くんもさようなら」

「ああ」


 最後には、俺の存在を忘れていないと伝えるように苗字を呼んでくれた。


 まあ、他人行儀なのは仕方ないよな……べ、別に寂しいとか思っていないが?

 そうして、俺は千春と二人きりになった。


「ねえ、朋瀬~」

「なんだ?」


 わざとらしい声にびくりと身体が震えた。

 ちょっと苛立っていらっしゃるのだろうか、千春さん。

 嫌な事だったら逃げようと準備したが、そんな心配はいらなかったようだ。


「キャッチボールしようぜ?」

「そんなことかよ……いいぞ」


 俺は、それくらいならこの後暇だし付き合おうと快く返事をした。


 今日の女子バスケ部はお休み。

 女子バスケ部の活動場所は体育館なのだが、今日は他の部も使っていない。


 つまり、体育館は今、フリースペース状態なのだ。

 キャッチボールするための広々とした空間はあるのだ。

 千春は、少しストレスが溜まってしまったのだろう……。


 しかし、束音は上手くやってくれるだろうか。いや、上手くやるだろう。

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