第21話

 放課後になり、丹羽さんとコンタクトを取りたかったのだが、堂々と近付くと勘づく奴が出てきそうだから考える。


 下校を共にするだけでも第三者に見られた時点でゲームオーバー。

 そのため、どうにか連絡手段を獲得したかった。


 全て丹羽さんに任せるというのも一つの手だ……俺が連絡を取ることで要らぬ尻尾を見せるかもしれないからだ。


 しかし、俺は勝負師として自ら動くことを決意した。

 この問題も、どうにかできるのではないかと呑気に構えて考えている。


「私、あんたの代わりに接触しようか?」

「良いのかよ」


 そんな俺の考えを気難しい顔から察したのか、束音が気の利いたことを言ってくれる。

 間接的に連絡手段を獲得できれば、それが最も安全だろう。


 束音が女子ということもあり、疑われる可能性は低くなるはずだ。

 しかし、俺は二人のやり取りを見ていたことから、一抹の不安を覚えた。


「良いのよ。秘密がバレて広まったら、なんか私負けヒロインみたいな立ち位置じゃない」

「そうじゃなくて……束音は果乃のこと嫌いじゃないのか?」


 昨日、あそこまで言われて悔しくないのだろうか。

 二人は犬猿の仲になるには充分すぎる理由がある。


 それでも、向き合おうとするのは勇気の表れだろうか。


「昨日のは、恋愛が絡んでいたし……丹羽さんも内心焦っていたとか? あると思うけど……」

「お、おう」


 束音にしては、乙女チックな考えに驚いた。

 いや、意外だと思ったことは失礼だろうけど、女子だからこそわかる感性なのかもしれない。


 俺は頷いて見せたが、丹羽さんについては別に俺の事を好いている訳ではない。

 俺は仮の彼氏に選ばれただけなのだ。

 でも、確かにそんな素振りがあった気がしなくもない。


「それに、私も丹羽さんのことビッチだとか陰口言っちゃっていたし、お互い様かなって……」


 束音は争いを好まない平和主義者だ。

 だからそういう適当な理由で自分を納得させているが、対する丹羽さんは攻撃態勢。


 いや、丹羽さんにも仲良くしたいっていう意思はあったか……なら、束音の言うことも的を射ているのかもしれないな。


 リアリティを追求して、演技をしていたというのが一番あり得る話だ。


 ――演技か。

 束音が俺に告白の予定を伝えた日を思い出す。

 あれだって……つまりは演技であり、俺は騙されたわけだ。


 ――俺は、もしかしたら騙されやすいのかな。

 丹羽さんにも以前に裏で恋愛経験があったのかもしれないし、単純に演技が上手かったと考えたいな。


 隠れて付き合うということから、丹羽さんは前にも同じようなことをしていたのではないかという憶測が浮かぶ。

 それは少し、嫌だと思う。


 今朝、丹羽さんに特別扱いされたことは、一瞬でも自分が彼女の一番になった気分だった。

 正直、束音の一番の理解者であることに疑問を覚えた俺は、誰かの一番になりたかった。


 偽物でも、そんな安寧の地があることは、心の拠り所になる。

 俺が丹羽さんを意識するのは、束音に申し訳ないけど。

 今は、俺の都合で待たせてしまっているのに、勝手すぎるだろう。


「他にも焦った理由に心当たりはあるの。結構知られているのよ、私があんたを好いていること。だから、丹羽さんも知っていたと思う」

「あー。周太や千春は知っていたんだっけ」


 あの二人は告白の計画に一枚嚙んでいたと、言っていたな。

 俺が千春と周太の関係を疑うように、あの二人もそんな風に思っていたのか……似た者同士かよ。だからこそ、馬が合ったのかもしれないな。


「そっちもそうだけど、普段からお似合いだって思われていたみたい」

「お前……いきなり照れ臭いこと言わないでくれないか?」


 俺の耳に入ってこないのは、そんなに広まっていないか、徹底しているかだ。

 ……女子ばっかりで共有されている情報なら、仕方ないか。


 うーむ。

 俺だって、女子に話しかければ訊きだせることだったのかもしれないけど、女子達も束音とかに睨まれたくないだろうし、どの道同じなのか。


「朋瀬は噂に耳を傾けないから知らないだけ。私悪くない」

「お前なぁ……」


 そういうのは、俺が知っていたとしても言うべき事じゃないだろう。

 付き合っているのなら頓珍漢な話でもないが……意識させてくるのは誘惑か?


 あ、そうか……誘惑か。

 束音の立場からすれば、その行動は別段的外れと言い難い。


「じゃあ、頼んだよ」

「頼まれた。帰ったら連絡するね」


 束音と一緒に帰れないのは残念だが、毎日一緒に帰るのはノルマじゃないし、束音が部活に行くときは、一人で帰ったりしていた。


 周太を連れて見学することはあったが、後輩の女子もいて、こちらを気にしてしまうみたいなので、行きにくくなった。


 そんな時、束音と入れ替わるようにして、珍しく周太と千春が二人でこちらにやってきた。

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