第19話
昼休みになり、千春も来てグループで昼飯を食した後、俺達は他愛のない話で盛り上がっていた。
そんな時、教室の扉から知らない男子生徒がやってくる。
特段気にする事もないと思ったのだが、その男子が丹羽さんへと向かったので、一応は彼氏(仮)として現場を見守る。
自分でそう思うと気持ち悪さと恥ずかしさが混在して情緒不安定になりそうだったが、何かあるのなら出しゃばることも大事かもしれない。
千春には迷惑かけることにもなったとしても、、あのグループに貸しを作れるというメリットがある。
そんな慢心が、仇となることを知る由はなかったのだから、仕方ない。
ギャルグループに男子が近づくのは、この時間にしては珍しい。
何かを疑われる様子もなく千春や周太も同様に注目する。
男子生徒を知っているのか、茅原紫苑が男子生徒を視野に捉えた瞬間、即座に反応した。
「梶田さあ、何の用? 場違いって自覚ある?」
「すまない茅原さん。丹羽さんに話があって……」
「……早かった」
相対的に丹羽さんは落ち着きながら、その言葉をボソリと呟いた。
梶田……聞き覚えがあると思ったら、今朝丹羽さんの下駄箱に手紙をいれた男子か。
手紙の主は確定していなかったが、アポなしなら状況的に手紙の主であると考えていいだろう。
梶田は主のいない机に片腕を突いて、話を始める。
「手紙には昼休みに指定の場所に来てほしい、と書いた。でも丹羽さんは来なかった。つまり、そういうことなのかな?」
梶田は何かを信じたくないという様に唇を噛む。
まあ、あの手紙はラブレターだよな……デザインからして。
今時珍しいと思うけど、古風ながらも青春を感じさせるやり方だろう。
実際に教室に来たということは、手紙を読まなかったことで丹羽さんに彼氏が出来たと知ったと……。
――ん?
もしかして、俺も関係することになるのかな。
このままやりようによっては、秘密を明かすことになってしまうかもしれない。
しかし、丹羽さんは応えず、代わりに茅原が意見を言った。
「あのさぁ、果乃は毎回健気に行ってあげていたんだよ。命令してくるところ臭いって自覚ある?」
「命令じゃなくて、ただのお願い……」
「そうやって主観で語るのさ、気持ち悪いよ。ほら、果乃の気持ち考えていないじゃん。果乃からしたら、命令みたいなものだよ」
怒涛の剣幕で茅原は梶田を貶す。
普段の態度は緩く適当なのに内容はとても正論で、言い返すことを許さない。
この学園のカーストが上級生に比べて色濃く出ているのは、茅原紫苑がいるからだ。
口が達者であり行動力があるため、その権威はリアルだけでなく学年生徒が交流するSNSすら掌握しているほど。
決して野蛮でないやり方だから、ちゃんと人もくっ付いてくる。
口が悪くてもかっこいいのだ……同学年の女子からだって憧れの目で見られたりするくらい。
「茅原さんに用は……」
「2軍如きで何様のつもりだよ。あたしが言ったこと何か間違っていた? ねえみんな、どう思う?」
相手が口籠もっても猛攻は止まらない。
2軍……学校の裏掲示板で分けられたカースト層で丁度中間の位置付け。
大雑把ではあるが、カースト層は可視化されている。
伝統的な裏掲示板の管理人は代替わりして、当代が民主的に人気不人気を投票という制度を作って確立させた。
差別として問題に思えるかもしれないが、虐げられる者がいるわけではないので教師陣も見て見ぬふりをしている。
そう、何の意味もない指標……しかし決定的な事実。
カーストで分けられたラベルを強調することで、上下関係を明確に再認識させる。
加えて周囲の人間に具体的な意見を求めたことによって更に追い詰める。
彼女の常套手段だ。
それも公の場でしてしまえば、たかが噂とは言い切れない効果を発揮する。
「梶田キモい」
「自分の立場弁えてないから2軍なんだよ」
「果乃ちゃん可哀想」
周囲の女子からは、罵倒の嵐。
丹羽さんは涼しく何食わぬ顔だ。
見ていたクラスメイト達には、梶田が茅原に敵わないことを思い知る。
そもそも他クラスで分が悪いのだが、そんな事は誰も加味しない。
かくある今の光景は、あまりに圧倒的。
それでも、梶田の折れずに立ち向かう姿は男らしかった。
腕を置いていた机の端をがっしりと掴み、演技をするように抑揚のついた声を発する。
「……俺は、本気なんだ!」
「うわぁ、マジでドン引き! 理性の欠けた猛獣にしか見えないから」
しかし、茅原の言葉で不屈の精神にも似たイメージは反転する。
相手に少しでも同情が集まらないよう、厳しく評判をそぎ落としていった。
女子へと勢いのある声を出す男子は、見方を変えればそうなるだろう。
周囲を気にしない振る舞いが逆手に取られている。
梶田はそのことに気付いたのか机の上に拳を作り、悔しさを滲ませた。
そして、感情を抑えつつも切なさを感じさせる顔で丹羽さんを見る。
「丹羽さんは、どうして何も言ってくれないんだよ!」
「あなたに興味がないから」
丹羽さんがやっと口を開いたと思えば、ばっさりと拒絶の意を示した。
率直な言葉が梶田の心に大きなダメージを与えただろう。
周囲の女子とは違い、今まで話す機会がラブレターの数もあったのだろうから、こういった場面で優しさを見せてくれると期待でもしていたのだろうか。
その信頼はあっさりと砕かれ、梶田はやつれた顔を見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます