第8話
下駄箱につくと、すぐに束音の姿を発見した。
その姿が、ふと……寂しそうに見えた。
他に人がいないからなのか、
「ごめん、待った……よな」
「ん? ああ……確かに待ったわね。けど、あんたが何の事情もなしに私を忘れていると思っていないし、理由があるならいいって」
瞬間、風船が割れるように、ハッとなった。
――なんだよ……普通、そこは怒るところだろ。
優しい言葉が逆に痛い。
こんなの、束音らしくない。
優しくされたくない。
束音に彼氏が出来た時、束音の優しさはそいつのためだけのものになるのだろう。
悔しい。
名残惜しみなんて、残したくないのに。
他の誰かで心を埋めても平坦には戻らないのか。
俺の中で、きっちり理解した。
認めるしかない。
やはり雪村束音は俺にとって特別なのだ。
悟られてはいけない。
好きでもない男からの好意なんて、求められてない。どころか、気持ち悪いだろう。
本物の彼女じゃないけど、俺だって恋人に近しい存在は手に入れたじゃないか。
期限付きだとしても、それは事実。
初めての交際にもっと自信を持てばいい。
――気持ち、さっさと切り替えろよ。
束音が彼氏を作って新たな道を進むように……俺もまた丹羽果乃を利用して自分の道を切り開くだけ。
つまり、これで俺と束音は対等だろう?
元通りとはいかない。
けど俺だって後ろを歩き続けている訳じゃない。
そのことを知ってほしい。
「ちょっと、告白を受けたんだ。それで遅れた」
「は? はあ? 何それ、意味わかんないし。断ったんだよね?」
驚く顔は、
だが、それ以降は
――なんでそんなに怒ったような顔するんだよ。
束音だって、自分の好きな相手に告白したいから、応援してくれって意味で俺に話したのだろうが。
なら、俺の恋愛だって応援してほしい。
そうじゃなくても、だ。
文句なんて言って欲しくないよ。
そんなの聞きたくない。
自分が幸せを望もうというのに、他人の幸せを許さないなんて最低でしょ。
「何が、当然のように断ったんだよね? だよ」
「朋瀬……?」
「ああ、受け入れたよ! いいじゃないか、周太や千春も含めて彼氏彼女が全くいなかったグループから二人も本当にリア充の仲間入りだ」
「……っ、朋瀬は、何もわかっていないよ。なんで……わからないのかなぁ!」
束音は自らの
わからねぇよ、お前の気持ちなんか。
俺は、お前の一番の理解者だったと思っていた。
けど、それはもぅ過去の話だ。
恋を覚えた束音の気持ちなんか、一切わからない。
どうせ、束音の一番の理解者はこれから出来る。
束音の好きな相手が彼氏になったらすぐにでも。
幼馴染の存在によって、その一番が埋まっていたら、彼氏になるそいつに対して失礼だろう。
そんなに意固地になることじゃない。
「俺が幸せになることに文句があるなら、先に帰る。賭けの件は今度でいいよ。そんなに感情的なお前とこれ以上話したくない」
「ここまで待たせておいて、何それ……本当に私のこと見捨てるの?」
「は? 意味わからねぇよ。待たせたことは正直悪いと思っているけど、被害妄想も甚だしいだろ」
少し強い言葉を使ってしまっただろうか。
束音の顔は真っ赤で
否……もう沸騰していると
なんで、最後まで俺が
まるで、
けど、幼馴染として少しは付き合ってやろう。
喧嘩
「安心しろよ。俺が保証してやる……お前は好きな相手と結ばれるよ。きっと、そいつは俺なんかとは比べ物にならない良い奴で、絶対にお前を見捨てたりしない」
お前が幸せになるのと同じ。
俺も幸せになれるよう頑張るさ。
――それで、いいだろ。
俺は何処か間違えたことを言っているか?
確かに言い方は冷たかったかもしれない。
でもそれは、相手が束音だからだ。
俺達は、互いに話すことに慣れている。
その筈なのに、自分の気持ちが伝わらなくてやりきれない気持ちが浮上してくる。
「私の好きな人は、全然良い奴じゃないよ。自分の幸せのために私を見捨てるような愚かな人」
「は? そうか、それは……残念だったな。でも、
少し……嫌な予感が当たったようで不快になる。
恋は本当に人を盲目にさせるのか。
自覚を持っていても抗えないほど好きだというその男へ
本当に愚かなのは、束音の方だ。
哀れで仕方ない。
そんな束音を見ていられなくて先に歩き出す。
どうしてそんなに――――後悔した顔をするのか。
俺には…………わかりたくなかった。
今更希望なんて、抱きたくない。
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