第3話

 周太の言う丹羽さんのトップシークレット。

 興味が湧くと同時に、少しだけ嫌悪感がき出しになってしまう。

 隠された情報源とやらは、悪質な線なのだろう。


「待て、先に断っておくが、朋瀬との賭けがあったから話すんだ」


 ……ずるがしこいやり方をするようだ。

 俺との賭けに必要だからと……そんな理由で無駄な話を聞かせようとしている。


 意地が悪いと言わざるを得ない。

 そこから、周太は更に声のボリュームを落として俺だけに聴こえる小声で話しだす。


「実は彼女、優秀な同級生男子を探しているみたいなんだ。詳しいことは訊けなかったけど、両親との賭けなんだって」

「へー」


 なるほど確かに興味深い話だ。

 前々から感じていたが、やはり周太は本当に話を引き出すのが上手いと思う。


 俺なんかは周太と話すとき、心の中で常に詐欺に合う危機感を抱いている程にだ。


 そして肝心の丹羽さんだが――実際に話したことは殆どないので憶測になるだろうが、大体読めた。


 俺みたいな男子が尻軽女と軽口を叩くほどだ。

 彼女の交友関係には、裏があったのだろう。

 芽には見えない抱え事があるのかもな。

 尻軽女と呼んでいた事を少しだけ反省した。


「丹羽さんが、軽い女じゃないのはわかった。で、俺の勉強を邪魔した事とどう関係する?」

「話は続くんだよ。色々省略したけど、俺は丹羽さんに告白して、そんな話を教えてもらった。その時、なんて言ったと思う?」


 ……なんか薄々察しが付いてきた。

 もしや、情報源って丹羽さん本人か?


「知るか。さっさと吐け」

「なんか、今日の朋瀬いら立ってない? カルシウム足りているか?」


 煽ってくんな。

 いつもの事だと実際にはあまり気にしていない。

 が、周太は他人をさかでするのに長けている。


 ……だからこそだ。

 周太相手には装わなくていいから気が楽ではある。装うとそれだけ疲れるから、俺が折れたとも言える。


「寝不足なだけだよ。で、何さ」

「彼氏にしてくれるチャンスをくれるって言われたんだ」

「やめとけよ、その女。それ、キープってやつだぞ」

「朋瀬は極端なんだよ。そうじゃなくて、次の中間試験で一位を取った人に告白するって言っていた」

「成る程、前言撤回しようじゃないか。それが俺の勉強の邪魔をした理由か」

「まあ、その告白も本気じゃなくて仮の彼氏が欲しいらしいんだけどね」

「丹羽さん……クズだったか」


 俺は一度前言撤回したが、似たような事だった。

 いや、キープ相手を探す方が性格悪いな。

 しかし、今の話には気に食わない部分がある。


 丹羽さんがわざわざ相手と話して見定めるだと?


 そんな人が肩書き如きに拘るのだろうか。

 丹羽さんのことは本当に何も知らない筈なのに、行動に引っかかりを覚える。


「万が一、朋瀬が一位になったらどうしてくれるのさ。というか、なんでそんなに気合い入っているんだよ」

「束音と勝負しているからだよ」

「えー、嘘だろ!? うわぁ、タイミング最悪」

「心配しなくても、俺もお前も一位なんて取れはしないよ。そんな頭よくねぇだろ」


 それに――。


「女子が一位になったら笑いものだな」


 仮の彼氏が欲しいならば、丹羽さんも流石に女子を選ぶ事はないだろう。

 ……多分。


 話を訊く限り穴だらけのルール。

 さては、丹羽さんはけ引きが苦手なのかな。

 まあ、詳しいことは判断できないか。

 俺もこうして言伝で聞いているだけで、噂は噂だ。


「俺、朋瀬が中学の最初の試験で一位取ったの、覚えている」

「何故憶えている。キモイな。でもあれは仕方ないだろ。束音も同率一位だった」


 その事は、俺と束音が幼馴染だった事もあり、結構うわさされていたな。

 相性抜群のカップルとまで尾鰭が付いてしまったので、訊かれる度に訂正して大変だった。


「それだけのポテンシャルある朋瀬に本気出されるのは困るんだよ」

「中学と高校じゃ、勉学の難易度が違うだろ。得意不得意も顕著に出てきているし、そう簡単じゃないから」

「まあ、そうかー。これが邪魔した理由なんだけど、判定は?」

「引き分けにしよう」

「えー」


 不服らしいが、だからって勝ちは譲れない。


「周太が本気でそう思っていたのは伝わったけど、俺を邪魔する前に自分で勉強すべきだったと思うが……」

「あーあー、正論に耳が痛い。引き分けでいいよ」


 周太が丹羽さんを好きになった理由は濁された。

 どうせ、顔で選んだのだろう。

 中学からの付き合いだからよく知っている。


 こいつは惚れやすく、冷めやすかった。

 行動力があるだけ、地雷のような男。

 早く、彼女を作ればいいのにと常々思う。


 そんな時、チャイムが鳴ってしまう。

 俺の大事な数十分が奪われただけだ。

 ……補填するために今日も寝るのが遅くなりそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る