第2話

 ――昼休み。

 自席に座る俺の目の前には、友人のきさらぎしゅう

 彼から自身のを報告されていた。


「高望みだとはわかっていたけど、突撃する以外の方法ってあったと思うか? なあ」

「やるせないのは、まだ諦めていないからか? それはそうと、俺の手元を見れば肩を揺するのは迷惑行為だと……うわ、おい」


 かんにもこれが俺の日常風景だったりする。

 今日も今日とて、周太の話を無理矢理聞かされていた。


 俺は束音とした勝負にために試験勉強をしなければいけないというのに。


 ――今は、打ち込める事があるという一点で心が軽くなった気がしている。


 束音の恋について考えると頭が痛いのに比べ、周太の妨害などにもかけないレベル。


 良薬は口に苦し……と考えて勉強していた頃もあった。


 だが、今は純粋に美味しいと感じられる。

 しかし俺が文句を言うと更に力が強くなった。


「うおいおいっ!」


 目眩がする……攻撃だろ。

 クリアになった心を汚染するわけではない。

 とはいえ、集中を乱すノイズは攻撃だ。


 主な理由は、昨日の夜から勉強を始めて就寝時間が遅れたことだろう。


 そこは否定しない。

 だが、一因である事に違いない周太は敵と見做す。

 睨むと、晴れやかな笑顔を浮かべる周太。

 一切としてひるむ様子がないことを察し俺も諦める。


「妨害しているんだよ」

「絶交されたいのかよ、周太」


 やや声を低くして真剣であることを示す。

 しかし周太は俺が目を合わせると何故か嬉しそうだ。

 なんだこいつ、ムカつくな~この笑顔。

 ……ぶん殴りてぇ。


 周太はなまじ顔が良い。

 割と一度は歪めてやりたいと思った。

 とはいえ俺の真剣な顔を見せると、いよいよ本気が伝わったのか頭を垂らしてきた。


「まあ話聞けって、マジで。お前の勉強を妨害するだけの理由があるんだ」


 何言っているんだ、こいつは……。

 馬鹿だとは思っていたが、ついに頭がおかしくなったらしい。


「そこまで自信があるんだな。よし、くだらなかったら緑茶一本奢れ」

「なら、正当性があったらジュース一本な」

「ほぅ」


 ……意外にも自信があるらしい。

 よって交渉は成立した。

 勿論、この勝負では俺の意思次第。

 正当性があったとしてもノーを突きつければ勝ちだ。


 もちろん、そんな事をするつもりは毛頭ない。

 公正な勝負を望むところが俺の美徳だと思っている。


 卑劣なやり方も好まないが……トリックに引っかかったのなら、卑怯とは言えまい。

 その時は、白旗を上げることに悔いはない。


「じゃ、ちょっと耳を貸せ」


 何故か小声になって手招きしてくる周太。

 え、こわっ。

 と思いつつ頬杖を突きながらも耳だけは傾ける。


「昨日、俺はあのさんに告白したんだ」


 それは知っている。

 さっきから周太が勝手に話していたからな。

 なんで秘密の話しっぽくした!?


 ――たん

 アッシュブラウンの髪に、アクアブルーの毛先カラーのグラデーションが似合うクラスメイトの女の子。


 薄っすら外側の髪にオイルをしているのか全体的なインパクトのバランスが整っていて、遠くから見ても存在感を放っている。

 アメジストに近い色の瞳だけは生まれながらの純粋な本物だ。


 彼女は、所謂ギャルグループの一員だ。

 去年も同じクラスだったが、入学し立ての頃はお洒落の一つもしない黒髪の清楚なお嬢様みたいな見た目だった事を知っている。


 見た目だけじゃない。

 言葉遣いから何まで全てが、去年まではそのイメージに当てはまる女の子だった。


 それが……今も彼女の隣にいるはらおんという女子から影響を受けて数ヶ月でこんなになってしまった。


 だから俺は心の中で、彼女を軽い女だと思っている。


 彼女と茅原という女子を中心にしたギャルグループ。

 丹羽さんを除いて彼氏持ちで構成されているトップカーストだ。


 とはいっても、丹羽さんについてはそんな集まりに相応しいうわさをよく訊くものだ。


「丹羽さんって、積極的に合コンとかに行って男子漁りしているんじゃなかったっけ? 周太、前にそう言っていたよな」

「俺は、朋瀬が尻軽女って呼んだ事を忘れていない」


 周太の目つきが鋭くなった。

 お前も同情していただろう。

 などと思ったが、惚れた弱みが出たのかな。


 しかし、事実は変わらないものだ。

 周太が根に持っていたのなら、勉強を邪魔した意趣返しが出来たのかな。


「目の敵にするなら、その時言えば良かったろ。で? どんな風の吹き回しで心変わりしたんだよ」

「聞いて驚け! その噂は真実だったんだ」

ますます意味がわからない。賭けは俺の勝ちでいいか?」


 噂が真実なら、周太はそんな尻軽女に引っかかった哀れな男ということになってしまう。

 まあ確かに丹羽さんが美少女である事はわかるが。


 俺は勉強にしようと体制を戻そうとする。

 だが、周太は再び俺の肩を掴んだ。


「……なんだよ」


 正直、俺はもう興味ないのだが。

 まあ……飲み物賭けているので渋々そのまま訊くことにした。


「はえーよ。急ぐなって……噂は真実だったけど、実際には大体飽きてすぐ帰ったらしいんだ」

「それは……違和感あるけど、事情があるんだろ」

「そう、あったんだよ。いいか、これはマジで内緒の話だぜ。俺も情報源を明かせないトップシークレットさ」


 食い気味に周太は顔を寄せてくる。

 お前の顔を近くで見ても面白くない。

 だが、そこまで言われると、流石に興味が湧いてきた。

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